第一話 ➀
第一話です。
時系列は 第ニ話→プロローグ となってるハズです。
話が動いてません。よろしくお願いします。
部屋に引き籠るには勿体無い。
そう思う程度に陽射しが丁度よく、雲の量も絶妙で、風もゆっくり流れている。加えてそれが休日の天気だったなら。多くの人は用事が無くとも「少し外出しようかな」くらいの気分になったりするだろう。
特に欲しい物は無いけれど、適当に街をぶらつくだけでも気分転換になったり、行き先で欲しい物が見つかるかもしれない。偶然にも友人と鉢合わせするかもしれない。そんな〈未定〉の不確かさが、ちょっとしたスリルや高揚感を生み、その日を楽しむ材料になるのだろう。
分かってる。そのくらいの感覚なら、僕にも理解できている。
しかし、理解しているとは言っても、それを実行するか否か、出来るかどうかは別問題。
例えば「期限が近い課題があった」とか、「部活の試合、大会がある」とか。そういった『仕方ない事』に娯楽の選択肢が潰される事も、日常茶飯事というものだ。
だから、僕もその『仕方ない事』に選択肢を潰された被害者の一人で良い筈なんだ。
僕はそんな言い訳を考え続けていた――ベッドの中で。
そうだ、素直に認めよう。僕は寝過ごしたのだ。
意識がはっきりし始めたのが確か11時30分くらいだっただろうか?その現実を受け入れられず、抵抗(これが夢だと思い込む努力)に約20分。さらに自分に対しての言い訳に約10分。そして現在に至る。
時間は正午を少し過ぎたところ。一日の半分が既に終わっている。外出する気分など持てる訳も無く。何かしら行動したいという意欲なんか、湧く筈も無い。
もし今がまだ正午丁度だったなら、まだマシな気分で動く気にもなれたろうに。けれど、残念な事に時間は正午を『少し』過ぎている。僕はこの『少し』が大嫌いだ。タイミングとして最悪だとも思う。
例えばの話。《×時から課題を始めよう》と決めたとする。それまでは自由時間だ。読書でも、ゲームでも、風呂でも。思い思いに過ごしたとしよう。課題を思い出して時間を確認すると、《×時03分》だった。
――この瞬間の脱力感は筆舌に尽くし難い物がある。自責か、後悔か、それとも諦観なのか。よく解らないけれど、そういったニュアンスの何かに押し潰され、僕は例え話でいう課題に対する《やる気》を一つ残らず、欠片も残さずに、失くしてしまうのだ。《今からでも始めよう》なんて気力は全く湧かずに、その日は《課題》を投げ出して寝てしまう。
しかもそれは厄介な事に、《課題》だけで終わらない。他の行動にも伝播して、《やる気》を軒並み刈り取っていく。なんて迷惑な連鎖だろう。僕は行動を起こしたかっただけなのに。
そんな僕の思考は、自分の腹から鳴る音に中断させられた。生物は寝ている間も体内のエネルギーを消費しているという話は本当らしい。
のっそりと体を起こして部屋を見渡す。頭がふらつく。眠り過ぎで視界がぼやける。寝起きが悪いのはいつもの事だが、今日は段違いだった。
本日ハ休日ナリ。ルームメイトは見当たらない。何処かで休みをエンジョイしているのだろう。
休日の過ごし方・・・僕は何をしようか?
そう考えているとまた腹の虫が鳴いた。もう少し我慢を覚えて欲しいものだ。
「何か食べてから考えよう・・・」
誰にともなく呟いてベッドから降りる。3分で出来るアレで良いだろう。あぁ、顔も洗わなきゃ駄目じゃないか。面倒だ。起きなければ良かった。
洗面所に向かう途中、テーブルの書置きに目が留まった。
『 お前の事だからどーせ昼まで起きないだろうし、起きてもまた1日2食をカップ麺で済ませるつもりなんだろ? 俺と同じ部屋でそんな事はさせねぇ為に、昼飯は冷蔵庫に入れといた。晩飯は俺が帰ってからにしろ。19時には戻るから。 ハル 』
・・・見なかった事にしようか。いや、流石にそれは失礼だろう。
僕は 三食カップ麺だろうが、逆に一日くらい断食しようが大丈夫だろ と思えるタイプなのだが、ルームメイトはそうではない様で。あの世話焼きのせいで、休日の食生活は至って健康なものになっている。
まぁ、隣人の厚意を無駄にするのもアレだし、ありがたくない訳も無い。お湯を入れて3分待つか、冷蔵庫から出して電子レンジで1分待つか、僕なら後者を選ぶ。そういう事だ。
顔を洗う前に僕の昼食が何になるのか気になって、少し浮かれ気味に冷蔵庫に向かった。
起きたばかりだし、消化しやすい物か、手軽で腹に溜まる物、ぶっちゃけると重過ぎなければ何だって構わないのだけれど。
冷蔵庫の前に立つ。中身は分からない。あぁ、こんな何気ない瞬間にも〈未定〉の刺激があるんだろう。なんだ、僕はもう休日を楽しむことが出来ているじゃないか。寝過ごした事が何だと言うんだ。そんな下らない事、気にしなければそれで良いじゃないか。
やっぱり持つべき者は世話焼きのルームメイトだな。柄じゃないけれど、感謝の念が湧いてくる。
冷蔵庫を開けた。中を見た。僕は冷蔵庫を閉めた。
――アレは何だ?見なかった事に出来ないか?開けなかった事に出来ないか?・・・無理だ。インパクトが強すぎる。網膜に焼き付いてしまった。アレが僕の昼食だと?
ソレが見えた瞬間、僕は何かのオブジェかと思った。山を象った何かに見えた。
しかし、中途半端な現実逃避は意味が無く、僕はソレが何かを認識してしまった。
もう一度冷蔵庫の扉を開ける。一番広い真ん中の段。ソレは堂々と鎮座していた。
皿の限界を認めないとでも言うかの如く、堆く盛られた真っ赤な山。
大盛り三人前を無理矢理一皿に詰め込みました。と言いたげな――チキンライスだった。
何が〈未定の刺激〉だ。ふざけんな。そんな物、〈決定すればつまらない〉程度の意味しかないじゃないか。こんな事なら夕方まで寝過ごしてしまえば良かったのに。隣人の厚意なんて嘘っぱちだった。感謝の念も何処かに飛んでいった。
冷蔵庫を開けなければ、いや、書置きなんか無視すればこんな気分にはならずに済んだ筈。要するに判断ミス。選択ミスをしただけ。それだけなんだが。
直前まで持ち上げられていた気分を地面にめり込む程に叩き付けられた感じだ。これでは休日を楽しめたとは絶対に言えないだろう。
「・・・顔洗ってから考えよう」
なんとも言えない気分のまま、僕に出来る事は『問題の後回し』だけだった。