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プロローグ

初投稿です。右も左もさっぱりで見苦しかったり、寒かったりすると思います。

読む時は「ちょっと暇潰し」くらいの軽さでお願いします。

不定期更新になると思いますが何卒よろしくお願いします。

 「君はこの世に、この世界に、『存在してはいけないモノ』が在ると思うかい?」

 だだっ広い教室の中心。ある物は向かい合わせに置かれた机一台、椅子一脚だけ。居る者は僕と彼女だけ。僕が椅子に、彼女は机に座りながら。

 彼女が最初に僕にぶつけた質問。それは僕にとって最も面倒、最も簡単、そして最も嫌な物だった。

だから僕はいつも通りの愛想笑いを顔に貼り付けて

「さぁ、どうなんでしょうね?僕には――」

 分かりません。 そう続けたかった。けれど彼女はそれを遮って、

「あぁ、他の質問はどうでもいいんだ。でも、これだけは、正直に答えてくれ」

 そう言って僕の顔を覗き込む。貼り付いた笑顔を見透かして、素顔を暴く様に。

顔を見られるのは苦手だ。いや、苦手どころじゃない。大嫌いだ。僕の薄っぺらい中身、下らない本性が、そこに集約されている気がする。

 一先ず視線から逃げようとして目線を逸らしても、顔を背けても、どうやっても逃げた先に視線が先回りしてくる。いっそこの場から逃げてしまえ。そう思い、立ち上がろうとした瞬間。

「さぁさぁ、答えてくれたまえ」

 獣の狩りの様な速さで顔を両手で捕らえられ、繰り返される質問。


「君はこの世に、この世界に、『存在してはいけないモノ』が、在ると、そう思うかい?」


 無理矢理合わせられた視線。顔が近づく。その瞳には迷いなんて少しも無く、《答えを提示するまで逃がさない》という意思がありありと見える。両頬に添えられた手から体温が伝わってくる。

 分かった、分かりました。答えよう。その質問に対する僕の回答は


「思いますよ。『存在してはいけないモノ』なんて山ほど在る。ありふれてると言っても良いんじゃないですかね。例えば・・・僕とかがそれじゃないですか?」


 と、答えた。嘘だ。思いっきり嘘を吐いた。僕がそんな高尚な質問の答えを持っているとでも思っているのか。

 彼女は周りから〈天才〉だとか評価されているらしい。けれど、彼女が今「僕がその質問の回答を持っている」と考えている時点で、僕は「あぁ、〈天才〉なんて所詮その程度なんだな」としか思えなくなった。

 正直に言って、『存在してはいけない』なんて評価は、僕には勿体無さすぎる。僕に妥当な評価、それはせいぜい『存在してもしなくても構わない』とかだろう。

 もっと正直になれば、そんな質問も僕の回答も、面倒で、どうでもいい事だ。


 僕の答えを聞き、彼女は一瞬だけ唖然として、僕から手を離した後

「ふふ ふはっ あはははははは!!面白い!君は面白いよ!!今まで出逢ったことのないタイプだ!」

 突然笑いだした。僕は何か面白い事を言っただろうか?思い当たる節がまるで無いぞ。もしかすると彼女は頭に何らかの問題を抱えているのかもしれない。

 そんな僕の思考など構わず、彼女が口を開く。

「成程成程・・・ふふっ 成程ね。分かったよ。把握した。君に言える事は三つだ。第一に、君は嘘が下手だね。そして、それが嘘だと知られても良いと思っている。罪悪感なんて無い。その場しのぎの嘘だ。違うかい?」

 嘘を吐いたとバレていた。確かにそれに関して何とも思っていないし、罪悪感もまるで無い。その場しのぎも、彼女の言う通りだ。

「第二に、愛想笑いだけは一級だね。それは余計な衝突を避ける為かい?はたまたその場を労せず切り抜ける為?どちらにしても不愉快だね。私の前でその表情は止めてもらいたい。無表情の方がまだマシだと思うよ」

 余計なお世話 という言葉が真っ先に浮かんだ。そのまま口に出すのは、それこそ余計な衝突の原因だろうし、衝突は面倒だ。大人しく従おう。しかし、愛想笑いもバレていた。唯一、上手だと自負していた物だったのだけれど。

 彼女は淀みなく話を続ける。

「第三に、君は《自分の存在に価値は無い》と、考えているね。価値?利益?まぁ、どちらにせよこれは私も自信を持って言える。確信しているよ。君は《自分が無価値だ》と思い、そして《他人の存在にも価値は無い》と思い込み、その上無価値、不利益と判断したモノ全てを見下している・・・最悪な人格だね。でもね、真っ直ぐに私を見下した人間は初めてなんだ。私はそこが興味深いな」

 彼女はエスパーか何かですか?

 あれだけの会話で僕という人間が次々と暴かれていく。それらは何も間違っていないと感じる。彼女の言葉は全て間違いではないのだろう。


 僕は自分の価値が分からないし、他人の価値も信じられないし、

 全部を見下して、見下ろして、適当な優越感を得て、それで満足できる。

 そんな人間。

 らしい。

 けれど、そんな自分の一面なんて、数年前から自覚している。

 自己分析は飽きる程やった。結果として分かった事は、 自分の事は自分ですら把握しきれない って事だ。それほど自分の中身はぎっしり詰まっていて、様々な物が溢れている。なんて立派な理由はもちろん違っていて、中身は少なく、スカスカだからこそ掴み切れない。そんな自分が見えて。

 最後は主観に戻ってしまい、自分の事なんて知ってどうするんだ? と自問し、思考停止。

 結局は自分を客観視なんか出来ないという事。

 そして自分ですら理解できない『自分』が、他人なんかに理解されるなんて事は絶対にあり得ない。僕はそう考えている。

 だから僕は、微笑みながら僕の反応を待っている彼女に、愛想笑いを浮かべて応える。

 

「えぇ、そうかもしれませんね」

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