婚約破棄された誓印士ですが、あなたの領地の契約保証は本日で終了です ~「融通の利かない書類女」と捨てられた私を、辺境伯は対等な共同者として望んでくれました~
「セレナ。君との婚約は、本日をもって解消する」
祝いの杯を手にした人々の前で、レオナール・ディグランはそう言った。
伯爵邸の大広間には、領内の商会主、製粉所の経営者、輸送業者、家臣たちが集まっている。
新年度に向けた主要契約の更新を祝う席だった。
本来なら今日、私はその契約書の最終確認を終え、誓印を施すはずだった。
けれどレオナールの隣には、見慣れない若い女性が立っている。
豪商ベルティエ家の令嬢、ミレーヌ。
この春から、レオナールが急に頻繁に話題へ出すようになった名前だった。
「理由を聞いても?」
私は手にしていた書類を閉じた。
驚いていないわけではない。
むしろ、指先が冷たくなるほど動揺していた。
ただ、こういうときほど確認事項を順番に並べる癖が、私にはあった。
レオナールはわずかに眉を寄せた。
「そういうところだよ、セレナ」
「どのようなところでしょう」
「何でも確認、確認、確認。商談を始めれば危険性ばかり並べる。せっかく相手が好条件を提示しているのに、免責条項だの更新期限だの最低供給量だの」
周囲から、小さな笑いが漏れた。
レオナールはそれを好意的な反応と受け取ったらしい。
「君は確かに誓印士の資格を持っている。だが伯爵夫人になる女性に必要なのは、書類の細部にしがみつく能力ではない。もっと人を惹きつけ、商機をつかむ力だ」
「……なるほど」
三年間。
私はこの屋敷で、領地に関わる契約を見続けてきた。
穀物商会への最低出荷量。
製粉所への供給義務。
水門管理組合との放水契約。
輸送商会が確保する年間輸送枠。
一枚だけなら問題がなくても、二枚並べれば成立しない契約はいくらでもある。
豊作の年に出荷量を増やすなら、凶作時の免責を入れなければならない。
製粉所への供給を増やすなら、それだけの穀物を運べる荷馬車を確保しなければならない。
水利契約を変えれば、農地の収穫予測そのものが変わる。
それらを照らし合わせ、一つずつ事故の芽を摘んできた。
結婚後に伯爵家の一員となるのだから。
今していることも、未来の自分の家を守るためなのだから。
そう思って、正式な報酬を求めたことはなかった。
「ミレーヌ嬢の実家であるベルティエ商会なら、王都への販路も広げられる。これからのディグラン領には、守りに入る人間ではなく、成長を選べる人間が必要なんだ」
ミレーヌが困ったように微笑む。
「セレナ様には申し訳なく思っています。でも、レオナール様は領地の未来を考えて決断されたのです」
未来。
私はその言葉を頭の中で一度だけ転がした。
それから、机の上に積まれている契約書へ視線を移した。
今日付で更新予定だったものが七通。
確認を終えているものが五通。
残り二通は、レオナールが先週変更した条件に問題があり、差し戻している。
「承知しました」
大広間が静かになる。
レオナールが少し意外そうな顔をした。
私が泣くか、縋ると思っていたのかもしれない。
「婚約解消は、本日付ということでよろしいのですね?」
「そうだ」
「両家間で定めていた婚約契約についても、本日をもって終了する、と」
「くどいな。そう言っている」
「分かりました」
両家の婚約契約には、双方いずれかの申し出により即日解消できる条項があった。
三年前、念のためにと父が入れさせたものだ。
今、その条項が使われている。
だからこそ、レオナールの一存であっても、これは制度上有効な解消だった。
私は首元の鎖に指をかけた。
小さな銀色の資格証を引き出す。
王立契約院公認、二級誓印士。
私個人に与えられた資格だ。
レオナールが鼻で笑った。
「こんなときまで仕事の話か?」
「はい。必要ですので」
私は契約書の束から一枚の用紙を抜き取った。
「私がディグラン伯爵家へ提供していた誓印保証は、婚約者としての無償業務です。婚約契約の終了に伴い、こちらも本日をもって終了いたします」
レオナールの表情が止まった。
「何?」
「現在、私名義で継続保証している契約については、次回更新時から別の誓印士が必要になります。本日更新予定の契約には、私は誓印いたしません」
「待て。それでは今日の更新が──」
「婚約解消後も私個人へ業務を依頼なさるのであれば、正式な業務契約が必要です」
今までなら、そこで「ですが今日だけは」と続けていただろう。
相手を困らせるのが怖かったから。
私が役に立たなければ、ここにいる意味がなくなる気がしていたから。
けれど、もう婚約者ではない。
そして目の前の人は、私が三年間してきたことを「書類の細部にしがみつく」と表現した。
「そんな大げさな話ではないだろう」
レオナールが苛立った声を出した。
「今まで通り印を入れれば済む話だ」
「いいえ」
自分でも驚くほど、はっきり言えた。
「私の誓印です。私が責任を負います」
誓印士は、契約に魔法的な保証を与える。
ただ判を押すのではない。
条項が相互に履行可能であることを確認し、その時点で矛盾がないと資格者自身が保証するのだ。
その印には、誓印士の名と日付が刻まれる。
だからこそ、軽々しく押してよいものではない。
私は保証終了書に署名し、資格証を重ねた。
淡い青白い光が紙の上を走り、今日の日付が浮かび上がる。
八月一日。
これで終わった。
「セレナ!」
「最後の引き継ぎはこちらです」
私は別の紙を事務長へ差し出した。
契約一覧。
その中の三つの日付を、赤いインクで囲んである。
「特にこの三件は連動しています。水利契約が八月十五日、穀物供給が八月十七日、輸送枠が八月二十日。変更されるなら必ず三件まとめて確認してください」
レオナールが肩をすくめた。
「最後まで細かい女だな」
その言葉に、以前ほど傷つかなかった。
代わりに不思議なほど頭が冷えた。
「はい。それでは、これが最後の引き継ぎです」
私は一礼した。
そして三年間通い続けた伯爵邸を、自分の足で出た。
追ってくる者はいなかった。
*
翌朝、ディグラン伯爵家から使者が来た。
予想はしていた。
「今月分だけでも、これまで通り処理していただきたいとのことです」
父の子爵邸の応接間で、使者は居心地悪そうに言った。
「もちろん今後のことについては、追って条件を──」
「お断りします」
私が即答すると、使者は目を丸くした。
自分でも少し驚いた。
昨日までの私なら、領民が困るかもしれない、担当者が引き継げないかもしれないと理由を並べ、結局引き受けていただろう。
「私はすでに保証終了書を提出しています。今後、必要であれば王立契約院を通じて正式にご依頼ください」
「ですがレオナール様は、婚約のことと仕事は別だと」
「その通りです」
私は答えた。
「ですから、仕事として依頼してください」
使者は何も言えずに帰っていった。
扉が閉まると、私は長く息を吐いた。
向かいに座っていた父が、紅茶を置く。
「よく言った、と褒めるべきなのだろうな」
「褒められるほどのことではありません」
「三年前から何度も、給金を請求しろと言ったが?」
「……それは忘れてください」
父は苦笑した。
父はレオナールとの婚約そのものには賛成していたが、私が伯爵家で無償同然に働くことには反対していた。
それでも私は、「もうすぐ家族になるのだから」と聞かなかった。
役に立っていれば、きっと大切にしてもらえる。
いつからそんなふうに思うようになったのか、自分でも分からない。
「これからどうする」
父に問われ、私は資格証を見た。
二級誓印士。
王立契約院の試験に合格したとき、私は嬉しかった。
レオナールの役に立てるからではない。
複雑な契約の中から、誰かだけが一方的に損をする穴を見つけ、直せることが好きだったからだ。
いつの間にか、そのことまで忘れていた。
「仕事を探します」
「王都で?」
「場所は問いません。今度は、私自身の名前で」
口にすると、怖さより先に少しだけ気持ちが軽くなった。
三日後。
仕事は、意外なところからやってきた。
「ローディス辺境伯閣下がお見えです」
家令から告げられた瞬間、私は椅子から立ち上がりかけた。
ローディス辺境伯。
アルノー・ローディス。
数年前に父親から爵位を継いだ、二十九歳の若い領主。
そして二年前、ディグラン領との水利契約で私と何度も条項を争った相手でもある。
彼は愛想のいい人物ではない。
要求すべきものは要求し、不明点は納得するまで質問する。
当時の私は内心で「厳しい相手」と呼んでいた。
応接室へ入ってきたアルノーは、記憶の中より少し日に焼けていた。
濃紺の上着は上質だが、袖口に馬車移動の埃がついている。
「久しぶりだな、アルヴェイン嬢」
「ご無沙汰しております、辺境伯閣下」
「早速だが、仕事を頼みたい」
挨拶の次がそれだった。
思わず瞬きをする。
アルノーは革鞄から書類を取り出した。
「うちの東部水門について、三つの村と使用条件を結び直したい。今の契約では次の干ばつを越せない」
「私に?」
「そうだ」
「ディグラン家との件をご存じなのですか」
「昨日知った」
一瞬、同情されるのかと身構えた。
だが彼は事務的に続けた。
「それで、今なら依頼できると思った」
「……以前はできなかったと?」
「お前はディグラン家側の誓印士だった」
「婚約者でもありました」
「私にとって重要なのはそちらではない」
彼は一枚の契約書を机へ置いた。
見覚えがある。
二年前、両領の河川使用量を決めた契約だ。
「覚えているか」
「もちろんです」
当初、ディグラン側が作った案では、干ばつ時の水量不足をローディス側だけが負担することになっていた。
ディグラン領の農地を優先するためだった。
私はそれを削除した。
レオナールからは、「こちらが有利なのになぜ直す」と不満を言われた。
「あなたはあのとき、自分の側が得をする条項を削った」
アルノーが言う。
「不均衡すぎました。長期契約として成立しません」
「だから頼みに来た」
あまりに単純な言い方だった。
「報酬条件はこちらだ」
差し出された紙を見る。
数字を、思わず二度見してしまった。
「……高すぎませんか?」
「王立契約院の二級誓印士に依頼する標準額だ」
「ですが宿舎まで」
「辺境に呼ぶんだ。必要だろう」
「設計責任者、という職名も?」
「誰が設計したか分からなければ、問題が起きたときに確認できない」
私は紙から顔を上げた。
「私の名前を表に出すのですか」
アルノーが眉間に薄く皺を寄せる。
「出さない理由があるのか?」
答えられなかった。
*
ローディス領へ到着した翌日、私は早速失敗しかけた。
契約書の数字だけを見て、三つの村への水量を均等に割り振ろうとしたのだ。
「それでは北村が死ぬ」
アルノーが即座に言った。
机の上には地図が広げられている。
「北村は人口が一番少ないはずです」
「だから水量も少なくていい、と?」
「生活用水を基準にすれば──」
「家畜が多い。あそこは畑より羊で食っている」
私は黙った。
資料には村ごとの人口と耕地面積しかない。
「現地を見せていただけますか」
アルノーは少しだけ口元を緩めた。
「そのつもりで馬車を用意してある」
三日かけて、私たちは村を回った。
北村では羊飼いの老人から井戸の深さを聞き、西村では水車小屋の主人から春先の流量を確認した。
最後に訪れた南村では、村長が何度も頭を下げた。
「今年も上流が多く取れば、こちらまでは回ってきません」
現在の契約では、使用量は各村の耕地面積で決まっている。
一見、公平だ。
けれど干ばつ時には、大きな村が契約通りの水を取るだけで下流が枯れる。
「この条件を変えると、上流側が反対します」
馬車へ戻りながら、私は言った。
「当然だな」
「説得できるとお考えですか」
「できなければ、私が領主命令で決めることもできる」
私は足を止めた。
「それはお勧めしません」
アルノーも止まる。
「なぜだ」
「命令で取られた権利は、命令する人間が変われば取り返そうとします。十年持つ契約になりません」
「では?」
「平時の使用量は従来通り。ただし渇水基準を定め、一定以下になった場合だけ生活用水と家畜用水を優先します。その代わり上流村には、余剰水を多く使える時期を認めます」
「上流が譲る代わりに、別の利益を与える?」
「はい」
「南村だけを助ける契約ではないな」
「一つの村を助けるために別の村へ無理を押しつければ、いずれ破綻します」
アルノーは私を見た。
「お前は規則が好きなわけではないんだな」
「……どういう意味ですか」
「二年前は、条文を一字ずつ疑う面倒な女だと思っていた」
「閣下」
「褒めている途中だ」
褒めているようには聞こえない。
「今は違う。規則を守らせたいんじゃない。約束したせいで誰かが潰れるのが嫌なんだろう」
言い返せなかった。
その言葉は、私自身がうまく説明できなかったものを、あっさり言い当てていた。
「……そうかもしれません」
「なら、その契約を作れ」
「簡単におっしゃいますね」
「簡単ではないから、お前に金を払って頼んでいる」
まただ。
この人は時々、私が長年欲しかった言葉を何でもないことのように言う。
「承知しました」
私は手帳を開いた。
「ただし、村ごとの井戸水量と家畜数を追加で調査します」
「分かった」
「あと、東水門の補修予定も」
「分かった」
「秋の水車利用についても──」
「それも必要なら調べろ」
反論されないことが、逆に落ち着かない。
「閣下は、私を細かすぎるとは思わないのですか」
アルノーは不思議そうにした。
「細かいだろう」
「……そうですか」
「だから雇った」
思わず笑ってしまった。
アルノーが目を丸くする。
私も、自分が笑ったことに驚いた。
「失礼しました」
「いや」
彼は前を向いた。
「その方がいい」
何がいいのかは聞けなかった。
*
水利契約の調整には、三週間かかった。
私は新しい条項を作り、アルノーは村長たちと交渉した。
一度目の会合では上流村が猛反発した。
二度目には、水門補修費を辺境伯家と各村で分担する条件を追加した。
その夜、契約書の見直しに根を詰めていた私に、アルノーが無言でパンと干し肉を置いていった。
「閣下?」
「昼から何も食べていないだろう」
「まだ途中です」
「食べながらでもできる仕事だろう」
そう言うと、彼は自分の分も持って向かいに座った。
奇妙な光景だった。
領主が、使用人でもない客人のために、給仕でもなく自分でパンを運んでくる。
「意外です」
「何がだ」
「閣下がこういうことをなさるとは思っていませんでした」
「父がそうだった」
短い返事だった。
「先代閣下が?」
「忙しいときほど誰も飯を運んでこない。父はそれで一度倒れた。それ以来、うちでは誰かが根を詰めていたら、誰かが飯を運ぶ決まりだ」
意外な話だった。
厳格に見える人にも、こうした家の記憶があるのだと知った。
「閣下のご家族らしいですね」
「そうか?」
「ええ。細かいところに、ちゃんと理由がある」
アルノーが手を止めた。
「お前の口からそれを聞くと、悪口に聞こえないな」
「褒めています」
「知っている」
短いやり取りだったが、契約の話をしていないときの彼と過ごす時間が、思ったより心地よいことに気づいた。
以前のディグラン邸では、仕事の話をしていないときのレオナールと、何を話せばいいのか分からなかった。
沈黙が気まずくて、いつも先に何か話題を探していた。
ここでは、黙っていても気まずくなかった。
三度目の会合でようやく全員が席につき、数字を詰められるところまで来た。
「ここです」
私は契約書の一文を指した。
「『渇水時には辺境伯家の判断で配水量を変更できる』では広すぎます」
アルノーが腕を組む。
「非常時に動ける余地は必要だ」
「だから基準を数字で決めます。川の標識が第三線を下回ったとき、と」
「洪水や水門故障なら?」
「別条項です」
「長くならないか」
「必要な長さです」
アルノーはしばらく私と契約書を見比べた。
「分かった。そちらで」
隣にいた家臣が驚いた顔をした。
会議が終わったあと、私は尋ねた。
「よろしかったのですか?」
「何が」
「私は閣下の案を退けました」
「だから?」
「家臣の前でしたし」
彼は本気で意味が分からないらしい。
「私の案に問題があったから直した。それだけだろう」
胸の内側に、妙な空白ができた。
レオナールなら、皆の前で自分の案を否定されたことを嫌った。
そのため私はいつしか、彼の顔を立てる言い方ばかり考えるようになっていた。
「お前も妙なところで気を遣うな」
「申し訳ありません」
「謝る必要もない」
そう言ってから、アルノーは机の端に置いてあった書類を一枚引き寄せた。
完成した水利契約書の表紙だった。
設計責任者。
そこに私の名前がある。
セレナ・アルヴェイン。
「これで王立契約院へ提出する」
「閣下」
「何だ」
「……ありがとうございます」
「報酬なら規定通り払う」
「それではなく」
私は自分の名前を指先でなぞった。
「私の仕事だと、書いてくださったことです」
アルノーは少し黙った。
「実際にお前の仕事だろう」
「はい」
「なら、私に礼を言う話ではない」
分かっている。
けれど私には、それが当たり前ではなかった。
「ああ、それから」
アルノーが続ける。
「共同責任者の欄には私の名も入れる」
「閣下の?」
「最終的に履行させる責任は領主にある。設計を専門家に任せたからといって、問題が起きたときに『私は知らない』では通らん」
私は彼の横顔を見た。
働く人の名前を残すこと。
最終責任からは逃げないこと。
二つとも、レオナールがしなかったことだった。
けれど私は、二人を比べるのを途中でやめた。
アルノーを好きになる理由があるとすれば、それは誰かより優れているからではない。
この人自身のあり方を、私は好ましいと思い始めている。
そのことに気づいた瞬間、少し困った。
「王立契約院には、特に優れた設計の契約を『優良契約例』として登録し、他領の参考に使う制度があるらしい」
書類を整えながら、アルノーがふと言った。
「その基準を満たす契約を作れば、うちだけでなく、同じ問題を抱える他の領地にも役立つ」
「初めて聞きました」
「珍しい話でもない。ただ、そこまで狙う設計者は少ない」
その日はそれ以上、話が広がらなかった。
けれど私は、その言葉を頭の隅に留めた。
*
そのころ、ディグラン領では契約更新が順調に進んでいる──はずだった。
少なくとも、レオナールはそう思っていたらしい。
それを知ったのは、王都の契約院から届いた知らせによってだった。
「ディグラン伯爵家に仲裁申請?」
私は封書を読み返した。
アルノーの執務室である。
水利契約の最終審査日を知らせる通知に、別件としてディグラン家の契約紛争が記載されていた。
「知っている内容か?」
アルノーが尋ねる。
「おそらく」
私は日付を確認した。
八月十五日。
八月十七日。
八月二十日。
冒頭の祝賀会で赤く囲んだ三つの日付。
「水利、穀物、輸送……」
嫌な予感がした。
数日後、詳細が分かった。
レオナールは穀物商会との契約で、最低出荷量を前年の一・四倍へ増やした。
ベルティエ商会との王都向け販路を確保するためだった。
ミレーヌ自身、この販路拡大に強い期待をかけていたと聞いた。
ベルティエ商会にとっても、王都への新しい流通網は長年の悲願だったのだろう。
彼女が悪意を持って契約を急がせたわけではない。
ただ、その期待の大きさが、レオナールに慎重さを失わせた一因だったのかもしれない。
交渉としては悪くない。
豊作なら大きな利益が出る。
だが同時期、製粉所への最低供給量も維持していた。
その不足を埋めるためには、干ばつ時でも一定量の収穫が必要になる。
ところがレオナールは、水利契約の更新を「後で条件を有利に変える」と先延ばしにした。
更新期限を一日過ぎた。
結果、従来の放水保証が失効した。
さらに輸送商会には、王都向けの新規輸送枠を優先する条件を提示したため、従来の製粉所向け輸送枠と重複した。
どれも、一件だけ見れば交渉可能な変更だった。
三つを同時にやらなければ。
「新しい誓印士は止めなかったのでしょうか」
私は報告書を見ながら呟いた。
「途中から雇ったらしい」
アルノーが答える。
「過去契約まで全部渡されていなかったそうだ」
私は目を閉じた。
新人の誓印士を責める気にはなれない。
三年間の契約網を短期間で把握するのは無理だ。
私は毎日見続けていたから分かった。
そしてレオナールは、その蓄積を「書類を整えていただけ」と考えていた。
「助けたいか?」
突然、アルノーが聞いた。
私は顔を上げた。
「……分かりません」
正直に答えた。
ディグラン領には知っている人がいる。
長く付き合った商会主もいる。
契約担当の家臣たちに恨みはない。
困るのはレオナールだけではない。
「依頼があれば、現状を整理することはできます」
「そうか」
「ですが、以前の保証を復活させることはできません」
「それも分かっている」
私は机の上の新水利契約を見た。
「今の仕事を投げ出してまで戻るつもりもありません」
アルノーは頷いた。
ただそれだけだった。
「止めないのですか」
「何を」
「もし私が、ディグラン領を助けたいと言ったら」
「お前が選んだ仕事なら止めない」
「困りませんか」
「困る」
即答だった。
予想外の答えに、私は顔を上げてアルノーを見た。
アルノーは書類に目を落としたまま続けた。
「お前がいなくなれば、水利契約の次の調整に困る。ほかにも頼みたい仕事がある」
少しだけ期待してしまった自分が恥ずかしくなった。
「そうですよね」
「それに」
彼がペンを置いた。
「個人的にも困る」
今度こそ言葉が出なかった。
アルノー自身も、言ってから先を続けるべきか迷ったらしい。
珍しく視線が泳いだ。
だが結局、彼は咳払いをしただけだった。
「王都から、お前宛てにも書状が来ている」
差し出された封筒には、王立契約院の紋章があった。
内容を読んで、私はさらに驚いた。
王都契約院への正式採用の打診。
二級誓印士として、契約審査部門への所属を希望しないか。
あとで知ったことだが、王立契約院はディグラン領の紛争を調べる過程で、三年分の引き継ぎ資料に何度も現れる私の名前へ目を留めたのだという。
加えて、提出されたばかりのローディス領水利契約の草案が、審査部の一部ですでに評判になっていた。
二つが重なったことで、契約審査部門が正式に声をかけることを決めたらしい。
以前なら夢のような話だ。
安定した地位。
専門家ばかりの職場。
王都での仕事。
「受けるのか」
アルノーが聞く。
「まだ分かりません」
「そうか」
「引き留めないのですね」
なぜか、また同じことを聞いてしまった。
アルノーは少し眉を上げた。
「私が何と言えば、残る?」
質問で返され、私は黙る。
「給金を上げれば?」
「それは……条件として検討します」
「爵位を使って契約院へ圧力をかければ?」
「最低です」
「では、答えは出ている」
彼は椅子へ背を預けた。
「お前の人生だ。私が条件を操作して選ばせることではない」
私は封筒を握った。
選ぶ。
その言葉が、このところ何度も自分の前へ現れる。
以前の私は、選ばれることばかり考えていた。
良い婚約者として選ばれる。
役に立つ人間として必要とされる。
捨てられないように働く。
けれど今は、自分がどこへ行くかを決められる。
そのことが少し怖く、同時に嬉しかった。
*
王立契約院の仲裁審査室でレオナールと再会したのは、一か月ぶりだった。
彼は少し痩せていた。
いつもの自信に満ちた笑みもない。
私を見るなり、こちらへ歩いてくる。
「セレナ」
私は足を止めた。
隣のアルノーも止まる。
「話がある」
「審査前です。短くお願いします」
私が言うと、レオナールの眉が動いた。
以前なら、こういう言い方をすれば「冷たい」と責められた。
「水利契約の更新が一日遅れただけなんだ」
「承知しています」
「それで穀物契約まで保証対象外になるなど、想定していなかった」
「引き継ぎ表に記載しました」
「分かりにくかったんだ!」
声が大きくなり、廊下にいた人々が振り返る。
レオナールは慌てて声を落とした。
「とにかく、新しい誓印士では処理できないと言われた。君ならできるだろう?」
「現状の再設計であれば可能です」
彼の顔が明るくなる。
「では」
「王立契約院を通して正式に依頼してください。現在の仕事との日程を確認したうえで、受任できるか判断します」
「そんな悠長な話ではない!」
レオナールは一歩近づいた。
「必要なのは新しい契約じゃない。八月十五日に遡って、以前の水利契約へ君の誓印を入れてくれればいい」
私は彼を見た。
「できません」
「なぜだ。以前は君が保証していた契約だろう」
「誓印には日付が刻まれます」
「実際には以前から内容を知っていたじゃないか」
「知っているかどうかの問題ではありません。八月十五日時点で私の保証は存在していません」
「なら今日の日付で押して、書類上だけ──」
「レオナール様」
私は遮った。
「それは違法です」
彼の口が閉じた。
「誓印は、押した日を偽れません。だから契約当事者は、後から都合よく保証を書き換えられないのです」
「私は、君を助けてきただろう」
思いがけない言葉だった。
「婚約者として伯爵家へ迎えるつもりだった。君のような地味な女性でも、私は──」
そこで、不思議なことに何も感じなくなった。
一か月前なら傷ついただろう。
今はただ、この人は最後まで分からなかったのだと思った。
私は彼に愛されたくて仕事をしていた。
彼は私に仕事をさせていることを、愛情だと思っていた。
似ているようで、まるで違う。
「以前の私は」
私は言った。
「必要とされることと、大切にされることを同じだと思っていました」
レオナールが顔を上げる。
「だから、頼まれた仕事は何でもしました。給金がなくても、感謝されなくても、私が役に立てばここにいていいと思っていたんです」
「だったら戻ればいい」
「いいえ」
私は首を横に振った。
「今は違います」
廊下の端で、審査開始を告げる鐘が鳴った。
「私の仕事も、私の時間も、私自身のものです。誰に渡すかは私が決めます」
レオナールの顔が歪んだ。
「辺境伯に選ばれたから、そんなことを言えるのか」
「違います」
すぐに答えられた。
「私が選べるようになったからです」
私は審査室の扉へ向かった。
アルノーは何も言わなかった。
ただ私の少し後ろを歩いた。
前へ出て代わりに話そうとはしない。
それが、ありがたかった。
審査では、まずディグラン領の契約紛争が扱われた。
審査官が三通の契約書を並べる。
「確認します。穀物最低出荷量の変更を承認したのは、レオナール・ディグラン殿ですね」
「はい」
「水利契約を期限まで更新しなかった判断も?」
「条件改善のための交渉を──」
「判断者を確認しています」
「……私です」
「輸送商会に新規枠を提示したのも?」
「私です」
一つずつ。
誰の判断だったのかが確認される。
レオナールは交渉力のない男ではない。
むしろ一対一の商談なら巧い。
ベルティエ商会との販路拡大も、それ自体は魅力的な提案だった。
だからこそ、自分ならもっとできると思ったのだ。
契約を止める私さえいなければ。
「では、前年までの契約設計責任者は?」
審査官が古い記録を開いた。
そこには、私の名前が並んでいる。
セレナ・アルヴェイン。
セレナ・アルヴェイン。
セレナ・アルヴェイン。
三年間、重要契約のほぼすべて。
レオナールが顔を強張らせた。
審査官が私へ向く。
「アルヴェイン誓印士。以前はどのように整合性を確認していたのですか」
「年度ごとに契約関係表を作成していました。水利量から予想収穫量を算出し、穀物出荷、製粉供給、輸送枠の最低数量を並べます。どれか一件を変更する場合は、関連する契約をすべて再計算します」
「今年度の引き継ぎ資料は?」
「八月一日に提出済みです」
資料が提出された。
赤く囲んだ三つの日付も残っている。
レオナールが目を伏せた。
新たに雇われた誓印士も証言した。
「着任時、私は新規契約だけを確認するよう指示されました。既存契約の一覧は後日受け取りましたが、相互関係までは説明されておりません」
審査官が頷く。
「したがって、今回の問題はアルヴェイン誓印士の保証終了によって自動的に発生したものではない。同氏退任後に変更された複数契約が相互に矛盾した結果である、と判断します」
審査室が静まった。
それが一番大切な点だった。
私が辞めたから、魔法のように領地が壊れたわけではない。
レオナールが自分で変更し、自分で期限を逃し、自分で警告を無視した。
その結果だ。
「ディグラン伯爵家には、商会との再交渉および規定の違約金支払いを命じます。また、当面の新規大口契約については、一級または二級誓印士による事前審査を必須とします」
傍聴席にいたディグラン伯爵──レオナールの父が、険しい顔で息子を見ていた。
審査後に領地経営の実務権限をレオナールから一時的に外す意向も示した。
ベルティエ家との新婚約も、すでに先方から再検討の申し入れがあったらしい。
契約事故を起こした相手へ大きな商会が娘を嫁がせるのは、難しいのだろう。
ミレーヌを責める話は聞かなかった。
彼女は彼女なりに、この縁談を望んでいたのだと思う。
爵位を失うほどではない。
人生が終わるわけでもない。
けれど、自分一人の力だと思っていた信用と権限を失い、もう一度学び直さなければならない。
それはレオナールにとって、十分に重い結果だと思った。
「続いて、ローディス辺境領東部水利契約」
私たちは席を替わった。
今度は私が説明する側だ。
三村の平時使用量。
渇水基準。
最低生活用水。
家畜用水。
上流村への余剰使用権。
水門補修費の分担。
審査官からいくつも質問が飛ぶ。
私は一つずつ答えた。
途中、一人の審査官が尋ねる。
「この最低生活用水を設定した場合、辺境伯家所有の直轄農地が最初に減水対象になりますね」
「はい」
私はアルノーを見る。
彼が答えた。
「了承している」
「領主家の収入減となる可能性があります」
「村が干上がったあとに直轄地だけ収穫しても、領地経営とは呼べん」
審査官が少しだけ笑った。
「設計者はアルヴェイン誓印士」
「はい」
「共同責任者、アルノー・ローディス辺境伯」
「私だ」
書類に、二人の名が並んでいる。
やがて審査官長が誓印台へ契約書を置いた。
「長期履行性、利害均衡、渇水時対応ともに妥当と認めます。本契約を優良契約例として登録します」
以前アルノーから聞いた制度だと、すぐに分かった。
派手な賞ではない。
けれど契約院において、優良契約例として登録されることは大きな評価だ。
これから同様の水利争いを抱える領地が、参考例としてこの契約を見ることになる。
そしてその表紙には。
私の名前がある。
私は資格証を契約書へ重ねた。
「誓印します」
淡い光が広がる。
今日の日付。
私の名前。
偽ることのできない、今の私の仕事だった。
*
審査を終え、契約院の中庭へ出ると、秋の風が吹いていた。
「セレナ」
またレオナールに呼ばれた。
振り返る。
彼は先ほどより小さく見えた。
「……先ほどは悪かった」
私は黙って続きを待った。
「君がしていたことを、分かっていなかった」
「そうでしょうね」
「今なら、正式に給金も払う。役職も用意する。だからディグラン領へ戻ってくれないか」
一瞬だけ、昔の私が頭に浮かんだ。
それを言われるために、ずっと頑張っていた。
認められたかった。
必要だと言われたかった。
なのに、実際に言われてみると、戻りたいとは思わなかった。
「お断りします」
「辺境伯のところに残るからか」
「それも、私が選んだ理由の一つです」
私は答えた。
「でも、一番の理由は、もう以前の働き方へ戻りたくないからです」
レオナールは何か言いかけたが、やめた。
「……そうか」
「領地を立て直すのであれば、必要な誓印士を正式に雇ってください。私でなくても、優秀な人はいます」
「君ほど全部を知っている者はいない」
「だからこそ、次は一人に依存しない仕組みにしてください」
それが私からできる最後の助言だった。
私は頭を下げた。
「お元気で」
今度こそ、過去へ戻る理由はなかった。
中庭の出口で、アルノーが待っていた。
「終わったか」
「はい」
「戻ると言われたか」
「聞いていたのですか?」
「声が大きかった」
「お断りしました」
「そうか」
それだけ言って歩き出す。
私はその隣へ並んだ。
「閣下」
「何だ」
「王立契約院への採用の件ですが」
アルノーの歩みがわずかに遅くなる。
「決めたのか」
「はい」
「王都へ行く?」
声は平静だった。
でも彼の右手が、持っていた手袋を少し強く握ったのを私は見た。
「お断りしようと思います」
アルノーが私を見る。
「理由を聞いてもいいか」
「ローディス領で、まだ作りたい契約があります」
「それだけか?」
ずいぶん踏み込んでくる。
「以前、私の人生だから閣下が口を出すことではないとおっしゃいましたよね」
「選択を邪魔しないと言った。理由を聞かないとは言っていない」
私は笑った。
「ずるいですね」
「今さら知ったか」
しばらく歩いた。
契約院の門の向こうには、夕暮れの王都が広がっている。
馬車が行き交い、人々の声がする。
「もう一つ理由があります」
私は言った。
アルノーが待つ。
「あなたと仕事を続けたいからです」
「……仕事を?」
「はい」
「そうか」
ひどく残念そうに聞こえた。
私は笑いをこらえきれなくなる。
「まだあります」
アルノーが止まった。
私も止まる。
「あなたと、一緒にいたいからです」
今度は、彼が黙る番だった。
あまり長く黙るので、不安になってくる。
「何か言ってください」
「予定が狂った」
「予定?」
アルノーは懐から折り畳んだ紙を取り出した。
「審査が終わったら渡すつもりだった」
「契約書ですか?」
「違う」
開いてみる。
条件が箇条書きされている。
結婚後もセレナ・アルヴェイン個人の誓印士資格を維持すること。
辺境伯家からの業務依頼には、婚姻関係と別に報酬を支払うこと。
王立契約院から外部審査の依頼を受ける自由を保証すること。
自分名義の財産、契約、職責を維持すること。
私は呆然と紙を見た。
「これは……」
「求婚条件だ」
「求婚に条件書を用意したのですか」
「必要だろう」
笑いがこみ上げた。
なんとか堪えようとしたが無理だった。
「セレナ」
「すみません。でも、閣下らしくて」
「まだ正式には言っていない」
アルノーが珍しく困った顔をしている。
私は笑うのをやめた。
彼は一度息を吐いた。
「私は、お前の仕事が必要だ」
始まりがあまりにも彼らしい。
「だが、それだけなら別の誓印士を雇えばいい」
私をまっすぐ見る。
「仕事が終わったあとも、お前にいてほしい。夕食のときに今日あったことを話したいし、お前が書類を読みながら眉間に皺を寄せていたら、休めと言いたい」
「よく見ていますね」
「見ている」
「はい」
「お前が私の案を遠慮なく却下するのも、村の老人の話を一時間聞くのも、報酬に入っていない資料まで調べようとして私に止められるのも」
「最後は欠点では?」
「そうだな」
アルノーの口元が少し緩んだ。
「だから、役に立つかどうかに関係なく隣にいてほしい」
言葉が出なかった。
私がずっと欲しかったものは、きっとこれだった。
仕事をしなくてもいい、という意味ではない。
私には仕事がある。
好きな仕事がある。
けれど、それを失った瞬間に関係まで失うのではない。
「辺境伯夫人として仕事を辞めろとは言わない」
アルノーが続ける。
「むしろ辞められると困る。ただし、夫婦だから無償で働けとも言わない」
「そこまで書面にしますか?」
「希望するなら誓印してもいい」
「夫婦間で誓印までしたら、契約院で笑われます」
「なら口約束で我慢する」
私は手元の条件書を見た。
完璧な文章ではない。
妙に硬いし、求婚の文書とは思えない。
でも、この人が私の何を大切にしようとしているかは、十分すぎるほど分かった。
「アルノー様」
初めて名前で呼んだ。
彼の眉が少し動く。
「はい」
私も条件書を折り畳んだ。
「あなたと結婚したいです」
「……本当に?」
「求婚した人が聞き返さないでください」
「いや。お前は王都勤務も選べたし、ディグランへ戻ることもできた」
「だからです」
私は彼を見上げた。
「選べるから、あなたを選びます」
アルノーは数秒、何も言わなかった。
それから、私の手を取った。
契約書を扱うときよりずっと慎重な触れ方だった。
「では、今後ともよろしく頼む」
「求婚の返事としては堅すぎませんか」
「お互い様だろう」
今度は二人で笑った。
*
数か月後。
東部水門の新しい配水標識が完成した。
今年は雨量が少なかったが、三つの村で大きな争いは起きていない。
川の水位が第三線を下回った日には、契約通り生活用水と家畜用水が優先された。
上流村は当初不満を口にしたものの、その後の増水期に余剰使用権を使えたことで納得したらしい。
私は水門管理所の机で、新しい補修契約書を確認していた。
最後の頁へ自分の名を書く。
セレナ・アルヴェイン。
資格証を重ねる。
青白い光が紙の上を走り、今日の日付が刻まれた。
その隣には、
共同責任者 アルノー・ローディス。
彼の署名がある。
「終わったか?」
背後から声がした。
「今終わりました」
アルノーが書類を覗き込む。
「では戻ろう。仕立屋が待っている」
私は動きを止めた。
「何の話でしょう」
「結婚式の衣装だ」
「……今日でしたか?」
「昨日も確認した」
「明日だと思っていました」
アルノーが深いため息をつく。
「契約の更新日は一日も間違えない女が、なぜ自分の結婚準備だけ間違える」
「仕事ではありませんから」
「もっと気にしろ」
書類を鞄へしまいながら、私は笑った。
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