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アニメ・ゲーム哲学

作品は作者を超えられない 或いは雄弁な自己紹介

作者: 忠柚木烈
掲載日:2026/04/17

 作者より頭のいいキャラを作る事はできない。

 創作ではよくそう言われている。

 それは事実だろうか。


 例え最終学歴中卒でも。

 飛び級でMIT首席卒業。

 TOEIC800点。

 そんなキャラを作る事は出来る筈だ。


 そう反論する事は、確かに出来るかもしれない。

 だが、その反論に意味はあるだろうか。


 天才という、記号を与える事は出来るだろうが。

 それで読者が、天才だと思うかは、全く別の問題だ。


 感動的な物語、という文字を突き付けられても。

 読者は感動したりしない。


 実際に感動する文章を伴ってこそ。

 感動的な物語という評価は生まれる。


 天才足らしめるエピソードがなければ。

 天才キャラとしては認められない。


 むしろ中身が伴ってない事は、評価を損なう。

 天才と言い張る割に、まるで知性を感じない。

 それは最早、ただのバカより性質が悪い。

 自分の事を野原ひろしと思っている一般人だ。


 TOEIC800点だ、と言い張るだけなら。

 それは本質的に、小学生の口喧嘩と同じに過ぎない。

 際限なく大きな数字を、ただ叫んでいるみたいなものだ。


 作者が理解できない事を。

 キャラが理解できたりしない。


 作者の想像できる範囲でしか。

 物語は広がらない。


 物語が進む内に、キャラが一人歩きする。

 そんな事は創作ではよくあるが。

 それも作者が

「このキャラなら、こう動くよな」

と、よくイメージできているから起こる事だ。


 商業作家で人気の都合上、編集の指示で話を変えたりしなければ。

 全ては作者の意図で差配される。

 むしろ作り手側という大きな括りでは。

 それすらも作者の意図の範疇と言えるだろう。




 キャラの知性という例を、持ち出して説明したが。

 もっと残酷な例もある。


 キャラは作者の性格の、一部を切り取って、拡大していますだとか。

 作品は作者の内面だとか、分身だとか。


 作品作りは、その様に説明される事もある通り。

 作者の存在とは切っても切れない。


 自分が見ても聞いてもいない。

 考えた事もない物語なんて。

 どうやっても書けないに決まってるんだから。

 それは当然だろう。


 だから、つまり。

 作品から作者という人物そのものが。

 透けて見えるのもまた当然だ。


 例えば筆者は、こんな作品にお目に掛かった事がある。


 育ての親に虐待され、搾取される主人公。

 実は彼は育ての親によって、幼い頃に誘拐された御曹司で。

 本当の親と偶然再会した事で一転、一気に上流階級へ。

 なんてサクセスストーリー。


 この作品、上流階級の描写が、とにかくふんわりしてる。

 メイドさんが100人いて。

 豪勢な食事が並ぶ(※具体的な料理名、味などの描写なし)。


 小学生の考えるお金持ちと言った感じで。

 ハイソな人間同士の交流とか。

 資産の運用等の設定の裏付けとか。

 上流階級ならではの悩みとか。

 そういったリアリティが一切ない。


 それだけなら、ただ文才がなかった、で済ませられるのだが。

 それだけには留まらない。

 逆に、誘拐犯で育ての親。

 毒親の描写は、極めて精緻なのだ。


 生活保護の詳しい制度と、申請や利用する様子。

 成功した主人公への、恨みや妬み。

 そういったところは、異様に読み応えがある。


 因みに筆者は途中で読むのをやめたので。

 育ての親が主人公を誘拐した理由は知らない。

 主人公はアルバイトに明け暮れる苦学生として。

 貧困生活を送っていた様子だったが。


 犯人は何のために主人公を誘拐したのか。

 これではただ犯罪歴を残して、リスクをただ最大にしただけで。

 何のメリットも享受していない……様に見えるが。


 或いはこんな作品にも出会った。


 実の親に虐待される主人公。

 ある日人気のない路地裏で女子高生が。

 複数の男にバンに乗せられ。

 誘拐されそうになってるのを目撃。


 割って入って女子高生を庇うものの。

 犯人のナイフで刺されて負傷。

 しかし動転した犯人は誘拐を諦め逃走。


 その後、負傷が元で入院した主人公。

 入院費もバカにならないと叱責する両親達。

 そこへ助けた女子高生が現れる。


 実は女子高生は金持ちのご令嬢で。

 助けてもらったお礼に、これで主人公を引き取らせてほしい。

 とそんな事を言いながら、おもむろにアタッシュケースを開くと。

 するとなんとそこには、1000万円の札束が。


 両親は喜んで主人公を売り渡す事に承諾。

 主人公は、自分に恩義を感じる、美少女金持ち女子高生の元へ。

 そんな感じのサクセスストーリー。


 これもツッコミどころが多い。


 まず金額。

 1000万円の札束。

 あまりに少なすぎないだろうか。


 主人公は学生で、なんら実績のない人間とはいえ。

 日本人の生涯稼ぐ給与は、大体3億程度と言われているのに。

 奴隷の値段と考えれば、割と破格だろう。


 ※奴隷制度はおそらく作中にないので、あくまでものの例え。というか、そもそも現行法では、人身売買が認められていないが


 あと何より。

 アタッシュケースから出てきたのがまずい。

 アレは普通、1億円とか入るものだ。

 種類によってはもっと入る。


 100万円の札束の厚みをご存知だろうか。

 およそ1センチぐらいだ。

 つまり1000万円なら10センチ程度。


 そうなると、このシーンは必然的に。

 以下のどれかになってしまう。


①ゴッツイケースに中身スッカスカ

 ※容量的に3〜10%程度しか埋まらない


②逆にアタッシュケースが小さい

 ※ちょうどお弁当のポーチ程度の大きさ


③実は全部一万円札じゃなく千円札

 ※一億円用のアタッシュケースならちょうど埋まる


 ……普通に考えて、カッコよく決めたいところだと思うが。

 これでは最早ギャグだろう。


 わざわざアタッシュケース用意しておいて。

 これではどのパターンでもシュールだ。

 特に①と③は拍子抜けする。せこい。


 あと例によって、筆者は読むのを途中で投げ出したので。

 フォローがあったのか知らないが。

 誘拐犯グループの行動がかなりの謎だ。


 令嬢をターゲットに定め。

 行動パターンを分析し。

 犯行に最適な人気のない場所を突き止め。

 いざ誘拐を実行しておいて。


 ……なぜか主人公を刺して、動転して逃げ出してる。


 突発的な犯行に及んで。

 アクシデントが発生して。

 冷静になってしまって……ならわかる。


 でも普通に考えて計画的な犯行で。

 ちょっと妨害があった位で逃げるなんて。

 そんな中途半端な真似するだろうか。


 まさか成功パターンしか、想定していなかった訳じゃあるまいし。

 そこまで考えが浅いなら、誘拐した後はどうするつもりだったんだろうか。


 営利目的の誘拐ならこの後に。

 身代金の要求や、要求内容を受け取った後に逃げおおせる、というステップがあるが。

 それらを達成しないと、コイツらはただいたずらに、犯罪を犯しただけになってしまう。

 実際に成功しかけた犯行計画と、インテリジェンスが乖離してる。


 ……とまぁ、こんな感じの作品に遭遇した事がある。


 筆者が作品を通じて、何を感じたか、お分かりだろうか。

 それは作者の経済状況や頭の程度を、察してしまった気まずさだ。


 実際に生活保護を受けたり。

 或いは1000万円という金額を。

 人の一生を決める大金だと考える。

 そんな貧困が身近にある生活。


 1000万円は確かに大金だが。

 それで人生を決める額かと言われれば。

 多くの人は首を振るだろう。


 単純に考えて。

 手取り20万円の給与だとしても。

 1年で240万円。

 4年で960万円。


 真面目に働いていれば、大体4年ぐらいで稼げる金額だ。

 生活費とかで、半分は使うとか、そういうのを考慮しても。

 まぁ8年ぐらいで稼げるレベルの話だ。

 しかも会社員なら、昇給とかボーナスもあるから、もっと早い。


 筆者は1000万円は、現実的な金額と思ってしまうのだが。

 作者にとっては、現実的ではなかったのだろう。


 また設定そのもの、描写、あらゆる面で。

 整合性・合理性・蓋然性に欠けている。


 寒いと思ったから、何かを羽織るのであって。

 寒いと思ったから、人を殴るではおかしい。

 こうなったらこうなる、の積み重ねで、物語は動く。


 そうでない描写は、作者の都合でしかなく。

 都合で動くキャラは、生きたキャラではなく。

 生きてないキャラは、ただの装置に過ぎない。


 そういう積み重ねが出来ない作者。

 それに理由があるとしたら、それはもう単純に。

 作者の能力の限界、という事になるだろう。


 作品は作者の想像・理解できる範囲でしか、自由に動かせないんだから。

 もしも想像出来ない範囲に、はみ出てしまったら。

 その物語はもう、破綻するしかない。


 なんであれ、そういう作品に遭遇してしまった時。

 読んでいて、居た堪れなくなったのをよく覚えてる。




 少しネガティブな方向に進んでしまったが。

 逆にポジティブな面だってある。


 とある漫画家さんが、島本和彦さんと。

 仮面ライダーJの話をする機会があったらしい。


 初めてお会いする島本和彦さんは。

 漫画の作風からイメージする感じと違っていて。

 どちらかと言うと、真面目で大人しそう、という印象を抱いたそうだ。


「映画は面白かったけど、敵キャラとなんで戦うか、分からなかったんだよね」


 同作の敵は設定上、ライダーと最初から敵対しているので、宇宙から地球に現れて、いきなり戦う事になった。

 映画という媒体の尺の都合などもあり、劇中ではその辺りの事情は置いてきぼりとなる。


 その感想に、島本和彦さんはこう返した。


「そうそう。だからあそこは、『お前は(バキィ!)なんで(ドカッ!)地球に(グシャ!)降りて(ズバシ!)来たんだ(バシィ!)』ってやるべきと思うんだ」


 なんと、戦闘そのものと疑問の解決を、同時に解決するという発想。


 その返しを聞いてその漫画家さんはこう思った。


(それができるのは、日本中で貴方だけだよ)


 この人は間違いなく島本和彦さんご本人だ、と確証を抱いたという。




 作品は、作者にとって。

 経歴書であり、自己紹介で、本人証明だ。

 百の言葉で語るより、一目瞭然に雄弁なそれを。


 残酷なものと思うかどうかは。

 他ならぬ作者次第だ。

 立派な履歴書にしたいものである。


 ……しかし島本和彦さんは凄い。


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― 新着の感想 ―
お邪魔します。 島本和彦御大は確かに凄い。 何の作品か忘れましたが、気づきのシーンで、テンプレートなら放射状の線か電球が光る様な描写を、主人公の頭から炭酸飲料缶のプルトップを空ける。という描写をされて…
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