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推しの声が聞こえる  作者: 鏡野ミツル
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第3巻:『響き合う心』

『響き合う心』へようこそ


声優という世界は、夢の舞台であると同時に、熾烈な競争の場でもある。

第3巻では、美咲が業界に復帰したことで始まる「成長」と「試練」、そして健太の心の揺れ動きにスポットを当てています。


突如現れた新星・玲奈の登場によって、美咲と健太の関係性には微かな陰が差し始めます。しかしそれは、絆を壊すためではなく、より強固にしていくための“きっかけ”となるのです。


笑って、迷って、落ち込んで、それでも誰かの隣でまた立ち上がる。

そんな二人の姿に、あなたの心もそっと寄り添っていただけたら嬉しいです。

●第1章:新たな波


健太と美咲は、それぞれの仕事に慣れ、日々の生活に少しずつ自信と充実感を取り戻していた。美咲はアニメの仕事で声優として輝きを放ち、健太は音響制作の現場で自分の居場所を見つけていた。そんな中、二人の間には穏やかな日常が訪れていた。


しかし、ある日、コンビニでの些細な出来事が、二人の関係に新たな波紋を投げかけることになる。健太がいつものように出勤中、偶然聞いた会話から、同僚の話題が浮上した。


「美咲さんって、本当はもっと才能があるのに、あの業界には閉じ込められていたんだろうな。ほら、あの新人も目立ってるって。」


その新人――名前は「玲奈」――は、明るく抜群のコミュニケーション能力で、現場内外問わず人気があった。健太はふと、玲奈の存在に違和感を覚える。これまでのどんな声優仲間よりも、彼女は美咲と並んで注目の存在となっていたのだ。


帰り道、健太は心の中で複雑な思いに悩む。


「玲奈…。彼女もまた、夢に向かって頑張っているのか。それとも…」


健太は自分の中に潜む不安と、密かに抱いていた感情に気づかずにはいられなかった。美咲への想いと、共に歩みたいという決意。それは確かだが、一方で新たなライバルの出現により、自分が大切な存在として認められているのか、疑問が生じ始めるのだった。


●第2章:揺れる想い


翌日、美咲と健太は、いつもの喫茶店で昼食を共にしていた。柔らかな光が差し込む窓際の席で、美咲がふと口を開く。


「ねえ、健太。最近、玲奈さんのこと、気になる?」


健太は一瞬、驚いたように目を見開いた。美咲の問いに、胸の奥でかすかなざわめきが広がる。彼女は、ただ仕事の話をしているだけなのか――いや、何か深い意味があるようにも感じられた。


「え……? いや、特に何も。新しい仲間だから、気になるのは当然だと思うけど。」


美咲は、ほのかに寂しさを帯びた笑みを浮かべながら、静かに頷いた。


「そうね。玲奈さん、明るくてみんなから好かれてるし、私も刺激を受ける。でも…やっぱり、健太にはいつも支えられているって思ってる。」


その言葉に、健太は胸が熱くなるのを感じた。美咲の言葉は、確かに彼にとって救いであり、同時に自分がまだ自信を持てないことへの後押しとなった。


「僕も、美咲さんの声が大好きだし、これからもずっと応援します。だから、どんな状況でも君の味方でいたい。」


美咲はその言葉に、優しく微笑むと、健太の手をそっと握った。その手のぬくもりは、どんなライバルが現れても、二人の絆が揺るがないことを物語っているようだった。


●第3章:ライバルの誕生


やがて、職場での話題は健太だけでなく、美咲の側近たちにも及ぶようになった。玲奈は、明るさと才能で次々と成果を上げ、他の仲間からも高く評価される存在となっていた。


ある日、美咲のレッスン後、玲奈がふと美咲に話しかけた。


「美咲さん、もっと自信を持って。あなたの声は素晴らしいと思うの。業界は厳しいけど、私たち二人で切磋琢磨できれば、もっと輝けるはず。」


玲奈の真剣な眼差しに、美咲は一瞬戸惑いながらも、心の中で何かがくすぶるのを感じた。玲奈の言葉は、自分への励ましであると同時に、どこか挑戦的な響きを帯びていた。


その頃、健太は偶然、玲奈と短い会話を交わす機会があった。


「あなたも、業界の新星として頑張っているんですか?」


玲奈はにっこりと笑いながら答えた。


「ええ、でももっと自由で、自分らしく活動できたらって、日々考えてるの。美咲さんのように、本当に自分の声を届けられるように。」


その言葉は、健太の胸に一抹の不安をもたらした。美咲の存在と玲奈の存在が、どこかで交わるその瞬間、今まで感じたことのなかった葛藤が心の奥底で芽生えていたのだ。


●第4章:二人の距離


玲奈の存在に戸惑いながらも、健太はこれまで以上に美咲を支え続けようと決意した。しかし、その思いは時として、自分の存在価値や役割への疑問を呼び起こす結果となった。


ある夕方、二人はいつもの喫茶店で次のアニメの打ち合わせを兼ねた面談を行っていた。窓際の静かな空間で、健太はふと口を開く。


「美咲さん、最近、なんだか心の中が複雑になってるんです。玲奈さんの存在もあるし、僕、どうしていいか分からなくなってる。」


美咲はしばらく沈黙し、コーヒーカップを両手に抱えた。やがて、彼女は静かに語り始めた。


「わかるよ、健太。私も、玲奈さんが優れているところや、彼女の明るさを目の当たりにするたびに、不安になるのかもしれない。でもね、あなたは私にとって、いつも変わらず、確かな支えなの。あなたがいてくれるからこそ、私は自分の道を歩み続けられる。」


その言葉に、健太は胸の奥で何かが温かく広がるのを感じた。自分の気持ちに正直になり、二人の本当の絆を見つめ直す機会となった。


「ありがとう、美咲さん。僕、これからも君の味方でいるよ。どんな波があっても、一緒に乗り越えていこう。」


美咲はゆっくりと頷き、健太の手をしっかりと握り返した。二人の距離は、今、確かに縮まっていた。


●第5章:試練の中で


日々の仕事や出会いは、二人にとって新たな挑戦の連続だった。玲奈の登場は、業界内での競争を激化させると同時に、彼女たち自身の内面にも影響を与えていた。美咲は次第に自分自身の才能と向き合いながら、激しい自己研鑽の日々を送るようになった。


あるとき、美咲はレッスン中に、思いがけず大きなミスをしてしまう。スタジオ内に緊張が走り、指導者から厳しい指摘が飛ぶ中で、美咲は一瞬、自分の力に疑問を持った。


「私、本当にこの仕事、向いてるのかな……」


そのとき、控室で待っていた健太が、そっと近づいてささやく。


「美咲さん、どんなに辛い時でも、君の声は届いてる。君がここまでやってきた努力を、僕は知ってる。だから、あきらめないで。」


健太の言葉は、優しさと力強さが混じったものだった。美咲はその言葉に救われ、再び立ち上がる勇気を得た。


「ありがとう、健太。私、もっと強くなる。あなたの応援が、私の力になってるから。」


そうして、二人は互いに支え合う絆を、ますます深めていった。玲奈という存在も、彼女たちにとっては新たな刺激であり、自己成長のきっかけとして感じ始めるようになっていた。


●第6章:未来への響き


ある晴れた日のこと。美咲は新たな役の発表会に臨むため、スタジオに足を運んでいた。健太も、いつも通り彼女のサポートのために会場の片隅で見守っていた。会場内は、スタッフやファンで賑わっており、期待と興奮が入り混じった空気に包まれていた。


マイクの前に立った美咲は、多少の緊張を感じながらも、今までの努力と経験を胸に、一言一言丁寧にセリフを紡いでいった。その声は、確かな情熱と自信に満ち、会場の隅々まで響き渡った。


健太は、その瞬間を見届けながら心から感じた。彼女の声こそが、彼女自身の人生そのものを物語っているのだと。そして、自分もまた、その物語の一部として、彼女と共に生きる決意を新たにした。


「美咲さん、君の声は、誰かの心に必ず届いてるよ。僕は、これからもずっと君を支え続ける。」


美咲は目に涙を浮かべながら、笑顔で答えた。


「健太、ありがとう。あなたがいたから、私はここまで来れた。これからも、一緒に歩いてくれるよね?」


その瞬間、二人の間に流れる静かな誓いは、未来への希望として確かに響き渡った。玲奈の存在も、業界という舞台の中で一つの試練であり、成長の糧となるだろう。どんな困難が待っていようとも、二人は互いの絆を信じ、前へと進むのだ。


第3巻:『響き合う心』 終わり


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

第3巻『響き合う心』では、少しずつ近づく健太と美咲の距離、そして新たな登場人物・玲奈による揺らぎが物語の軸になりました。


ラブコメでありながら、人間関係のもつれや心の成長にもフォーカスを当てた今巻は、健太が初めて「美咲にふさわしい自分になりたい」と願い始める重要なターニングポイントでもあります。

でも、真面目なシーンばかりじゃなくて、健太の空回りや、美咲の天然ボケも健在ですので、楽しんでいただけたなら嬉しい限りです!


次巻ではさらに、新しい関係性や試練が待ち受けています。

健太、美咲、そして玲奈――それぞれの選ぶ道が、どこへ向かうのか。

どうぞ、第4巻もお楽しみに!

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