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星装機ヴァルキリア 〜最強の黒騎士は、歌姫の愛で未来を視る〜  作者: 如月 煉


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深淵の真理、あるいは舞台に上がる観測者たち

 干上がった太平洋の底、棄民都市ムーの地下でラプラスとニコが驚愕の真実を発見してから、十日あまりの月日が流れていた。

 ノアⅣ上空を離れ、広大な塩の砂漠と化した旧海域を進む強襲母艦『アーク・ロイヤル』。その中枢にあるブリーフィングルームは、重苦しい熱気と緊張感に包まれていた。


 円卓を囲むのは、カイト、蒼斗、鴉、ヨシュア、そしてアルドといったアメリカ大陸遠征軍の星装機パイロットたち。さらに艦長のトーマス、アリアを始めとする歌姫たちだ。彼らの視線は、部屋の正面に立つニコに釘付けになっていた。


 ニコは手元の端末を操作し、背後のメインスクリーンにいくつかの映像を映し出した。

 それは、強力なライトに照らされた地下大空洞のパノラマ映像だった。ひしゃげ、溶解した巨大な金属の「門」の残骸。そして、その前に山のように積み上げられた、地球上のいかなる生物とも一致しない異形の巨大な白骨。さらに、その骨に絡みつくように散乱する、星装機に酷似した古代の機械の残骸たち。


「これが、ムーの地下に眠っていた『真実』です」


 ニコの落ち着いた声が、静まり返った部屋に響く。


「白骨は、DNA構造から推測するに、異なる進化系統……あるいは別の位相空間からやってきた『侵略生物』のものです。そして、機械の残骸は、それに抗うために作られた防衛兵器。さらに、あの破壊された門は……空間をこじ開け、向こう側から侵略生物を呼び込んでいた『ゲート』の残骸である可能性が極めて高い」


 部屋にどよめきが走る。

「ちょっと待ってくれよ」

 ムー出身であるアルドが、信じられないというように身を乗り出した。

「俺たちがゴミを拾って暮らしていた、あの『ムー』の地下深くで、大昔に宇宙戦争みたいなことが起きてたってのか?」


「宇宙戦争、という表現が適切かはわかりません。ですが、この星がかつて、別の次元からの侵略を受けていたことは確かなようです」ニコは淡々と答える。「そして、この発掘データは、ノアZERO……正確には月を管理するマザーのアーカイブに残された断片的な記録とも完全に符合しました」


 ニコの言葉を引き継ぐように、部屋の隅から足音が響いた。

 白衣を纏ったラプラスだ。

 彼女は円卓の中心へと歩み出ると、タブレットを操作し、スクリーンに新たなデータを投影した。それは、複雑な波形を示すエネルギーのグラフだった。


「さらに興味深いのは、あの遺跡の周辺に残留していた、未知のエネルギー因子の存在だ。……僕はこれを、仮に『魔素マナ』と呼ぶことにしたよ」


 ラプラスの翠玉の瞳が、面白そうに細められた。


「魔素は、物理法則を捻じ曲げ、生物や事象に直接干渉する特異なエネルギーだ。遺跡の分析でこの存在を確信したとき……僕は、長年の疑問に対する一つの『答え』に辿り着いた」


 ラプラスは一度言葉を切り、皆の顔を見渡した。


「それは、僕たち7人の科学者に与えられた『オリジナルコア』の正体だ。……あれは、ただの永久機関じゃない。この『魔素』を極限まで圧縮し、無尽蔵のエナジーソースとして放出させるための、規格外の変換炉だったのさ」


 その言葉に、パイロットたちが息を呑む。

 通常、彼らが乗っている量産機やカスタム機のコアは、ある程度の限界と消耗を伴う。しかし、カイトのDIVAや、レイのDARKといったオリジナルコアは、パイロットの精神に呼応して物理法則を超えるような異常な出力を叩き出していた。


「マザーがどのような超技術を用いて、異界のエネルギーである魔素をコアに封じ込めたのか、そのプロセスは僕らにも開示されていない。だが、通常のコアとオリジナルコアの間の、決して埋められない絶望的な出力差……その秘密は、間違いなくこの魔素の圧縮・還元技術にある」


 ラプラスは、スクリーンに北アメリカ大陸——『黒い壁』に覆われた領域の地図を投影した。


「ここからが本題だ、諸君。前提が覆ったということだよ。……50年前、僕のかつての同志であるリゲルがアメリカ大陸をあの壁で封鎖した時、世界はそれを『危険な力を暴走させた末の、大陸という牢獄』だと思った。イザベラもそう考えていたはずだ。……だが、ムーの地下遺跡は別の事実を物語っている」


 ラプラスは、地図上のアメリカ大陸西海岸付近を指し示した。

「ムーの地下にあったゲートと同質のものが、アメリカの西海岸近く——エリア51の地下で開いてしまったとしたら? リゲルは、そこから溢れ出す無数の侵略生物と、世界を改変する魔素の奔流を食い止めるために、己の力をすべて使ってあの壁を構築したんだ。つまり……」


「黒い壁は、牢獄じゃない」

 カイトが低い声で呟いた。

「俺たちを、彼らから守るための……防波堤だった」


「ご名答だよ、カイトくん」ラプラスはニヤリと笑った。

「そして今、壁の限界が近づいている。イザベラは、その壁を外側からこじ開けようとしている。中から何が出てくるかも知らずにね。……あるいは、知っていて開けようとしているのか」


 ラプラスは、探るようにカイトの瞳を覗き込んだ。

「先日、ノアZEROの観測網が、あの壁の向こう側で未知の高エネルギー反応を感知した。波形パターンから推測するに、月に眠っていた7体とは別の、地球に隠されていた『8体目のオリジナル星装機』が覚醒したんだ。……反応は微弱ですぐに消失したが、確かにそこにあった」


「8体目の、オリジナル……?」

 トーマス艦長が驚愕の声を上げる。


「ああ。名前も姿も分からない。……イザベラとセレーナの狙いは、おそらくその8体目との接触、あるいは回収だろう。壁がこじ開けられ、中と外の魔素が結びついた時、世界はどうなるのか。僕にもまだ正確には予測しきれない」


 それを聞いた者たちの顔に、かつてない深刻な色が浮かぶ。

 彼らが次に戦う相手は、同じ人間ではない。数千年前にこの星を滅ぼしかけた異次元の怪物たちと、ことわりを超えた未知の兵器なのだ。


「だからこそ、調査に向かう必要があります」ラプラスの声が、一段と低く、力強くなった。「壁の向こうで何が起きているのか。リゲルはどうなったのか。真の敵とは何なのか。……それを知らずして、この星に未来はない」


 ラプラスは、ニコに向かって顎をしゃくった。

 ニコは頷き、スクリーンに星装機の設計図面を投影した。

「本艦に搭載する全星装機に対し、大幅な環境適応アップデートを実施しました。壁の向こうでは、『魔素』が充満し、電子機器に深刻な干渉を引き起こすことが予測されます。そのため、全機に『対魔素フィルター』を実装。さらに、ノアZEROからの衛星通信が途絶することを前提とした、独立型ローカル・データリンクシステムの構築を終えています」


 さらに、図面が漆黒の機体へと切り替わる。

「特に、レイの搭乗する新機体『シュバルツ・ロード』。この機体には、ラプラス博士の設計した人工コア『ネビュラ』が搭載されています」ニコの声には、技術者としての誇りと、友を救うための切実な思いが込められていた。「ネビュラは、魔素のような異常なエネルギーを安全なレベルに変換・制御する機能を持っています。これにより、レイは完全な制御下で己の能力を行使できるようになる。この機体が、対『異界』における私たちの最大の切り札となります」


 ニコの発表が終わり、会議室に静かで熱い決意が満ちていく。

 アメリカ大陸の真実へ迫る準備は、最終段階に入ろうとしていた。



 ブリーフィングからさらに数日が経過した。

 アーク・ロイヤルは、砂漠化した旧海域の高度三千メートル付近に停泊し、周辺空域を完全封鎖して最終テストの準備を進めていた。

 今日は、レイの『シュバルツ・ロード』と、カイトの『ベオウルフ・リベリオン』を用いた実戦形式でのテストが行われる。壁の向こうではノアZEROのバックアップが期待できないため、完全な有視界戦闘能力の確認と、新たに開発された広域無人偵察機の稼働、そしてアリアの歌を物理的な通信網なしに広範囲の部隊へ届ける『広域共鳴システム』の実地検証も兼ねていた。


 第1格納庫。

 ベオウルフ・リベリオンの足元で、カイトはパイロットスーツの最終チェックを行っていた。彼の顔には、微かな緊張と、それを上回る集中が宿っている。


「カイト」


 背後から、柔らかな声が掛かった。

 振り向くと、タブレットを胸に抱いたユキが立っていた。彼女はオペレーターの制服を身に纏い、きりりとした表情の中にも、カイトに向けた特有の優しさを滲ませている。


「機体のパルスチェック、終わったよ。出力系、伝達系、すべて規定値以上の反応。最高の子に仕上がってるわ」


「ああ、ありがとう。……お前の腕なら、何も心配してないさ」

 カイトは口元を緩めた。


 ユキはカイトに一歩近づき、周囲の整備クルーが離れているのを確認してから、彼の手をそっと握った。

「……テストとはいえ、相手はレイ君でしょ? 彼は底知れない力を持ってる。無理しないでね」


 カイトは、自分の手を包み込むユキの手のひらの温もりを感じた。

 廃都ムーの跡地で、夕暮れの陽光に包まれながら交わした口付け。あの時の記憶が、カイトの胸の奥で静かに、けれど確かに熱を帯びて蘇る。

 孤独と戦火しか知らなかった彼に、「帰る場所」があるという絶対的な安心感を与えてくれたのは、目の前の少女だ。


「わかっている」カイトはユキの手を握り返し、力強く頷いた。

「だが、手加減はしない。これから向かう場所は、もっと過酷だ。俺がここで全力を出さなきゃ、レイのためにもならないからな」


「……うん。そうだね」

 ユキは眩しそうにカイトを見つめ、フッと笑った。

「私、オペレーター席(CIC)からカイトのこと、ずっと見てるから。通信が途切れても、ノアZEROのバックアップがなくても……私が全力でバックアップする。だから心配せずに、前だけ見て、全力で挑んできて」


「頼りにしているよ。ユキ」


 二人の間に、言葉以上の確かな信頼と、愛情の輪郭が形作られていた。

 だが、その光景を、格納庫の入り口の陰から静かに見つめている瞳があった。

 アリアだった。


 アリアは、白を基調としたステージ衣装に身を包み、胸の前で手を固く組んでいた。

 カイトとユキの間に流れる、誰も入り込めないような親密な空気。それを見て、彼女の胸の奥がキュッと締め付けられるような痛みを感じる。

 ムーの跡地を訪れてから、二人の雰囲気が決定的に変わったことに、アリアが気づかないはずもなかった。

 (私は……お邪魔虫、だよね……)

 声をかけづらくて、その場から立ち去ろうと一歩身を引いた。


 しかし、アリアの足は止まった。

 彼女は自分に言い聞かせるように、ギュッと目を閉じた。

 (逃げちゃダメだ。私は……カイトさんのパートナーとして、これから一緒に死地に赴くんだから)


 アリアは勇気を振り絞り、わざと少し足音を立てて二人の元へ近づいた。

「……カイトさん。ユキさん」


 二人がハッと振り返る。ユキが素早くカイトから手を離したのを見て、アリアはさらに胸が痛んだが、努めて明るい声を出した。


「アリアちゃん。もう準備できたの?」ユキが少し顔を赤らめながら尋ねる。


「はい。共鳴システムへの接続テストは完了しています。いつでも歌えます」アリアはユキに微笑みかけ、そして何か言いたげな視線をカイトに向けた。


 その微妙な空気を察したユキは、ポンとカイトの肩を叩いた。

「それじゃ、私は先にブリッジに戻って、システムの最終立ち上げをやっておくね。アリアちゃん、カイトの気合い、入れてあげてね!」

 ユキはそう言うと、アリアに小さくウインクをして、小走りで格納庫から出て行った。


 残されたカイトとアリアの間に、少しだけ不器用な沈黙が流れる。

 先に口を開いたのは、アリアだった。


「……カイトさん」

「どうした、アリア。顔色が少し硬いぞ。緊張しているのか?」


「いえ、そうじゃなくて……その」

 アリアは、カイトの翠玉の瞳を真っ直ぐに見上げた。

「私には……カイトさんのように、未来を視るような力はありません。でも……なんだか、すごく強い『予感』があるんです。今日のテストで、ただの訓練で終わらない……何かとても重要なことが起きるような、そんな気がして」


 カイトは少し驚いたように目を見開いた後、ふっと表情を和らげた。

「奇遇だな。……俺も、同じことを感じていた」


「カイトさんも……?」


「ああ。胸の奥がざわつくというか……頭で考えるよりも先に、魂がアラートを鳴らしているような感覚だ」

 カイトは、自分の胸元——DIVAコアと接続するためのインターフェースの近くに手を当てた。

「たぶん、俺と君の感覚が、DIVAシステムを介して深い部分で同調し始めている証拠だろうな」


 アリアの瞳が潤む。

 自分には戦う力も未来を視る力もない。だが、恐れや予感、そして言葉にできない根源的な感情を、自分たちは深いところで共有し合っている。その魂の結びつきを感じて、アリアは安堵の息を漏らした。


「……怖くないですか?」アリアが問う。


「怖くないと言えば嘘になる」カイトは真っ直ぐにアリアを見た。「だが、君の歌声があれば、どんな暗闇でも道を見失うことはない。……俺の魂を、繋ぎ止めてくれ。アリア」


「はい……! 私の持てるすべてを歌に込めて、カイトさんに届けます!」


 アリアの表情から不安が消え、彼を支えるパートナーとしての強い光が宿った。二人の間には、恋愛感情だけでは推し量れない、唯一無二の共鳴が存在していた。




 同じ頃。

 アーク・ロイヤルの特別医療区画を改装した専用ハンガー。

 中央に鎮座する漆黒の機体『シュバルツ・ロード』のすぐ脇に設置された、重厚な医療用ベッド兼調整カプセルが、静かな排気音と共にゆっくりと開いた。

 透明な保存液がドレインへと流れ落ち、その中から、完璧な造形を持つ美丈夫がゆっくりと身を起こした。レイだ。


 彼の手には、以前のような無数のチューブやセンサーケーブルはもう繋がれていない。

 カプセルの傍らで、ニコが電子パッドを手にしたまま、息を詰めてその様子を見守っていた。


 レイはゆっくりと瞼を開いた。深淵を思わせる黒い瞳に、理性の光が灯る。

 彼は自身の掌を見つめ、何度か指を動かして感覚を確かめると、傍らに立つニコへと視線を向けた。


 何も語る必要はなかった。

 ニコはパッドを脇に置き、無言で分厚いバスタオルをレイの肩に掛けた。レイはそれを受け取り、小さく、だが確かに微笑んで一つ頷いた。

 かつては機械のように無感情だった彼が、見せた明確な「感謝」と「安堵」の仕草。

 ニコはそれだけで、胸の奥にあった強烈な不安が氷解していくのを感じた。新しい人工コア『ネビュラ』は完璧に機能し、レイの人間性を侵食の淵から救い出していた。


「……調整は完璧だ。行こう、レイ。君の新しい翼が待っている」

「ああ。……僕も、早く飛んでみたい」


 レイは立ち上がり、黒いパイロットスーツへと袖を通し始めた。


 


 一方、艦内の通路をブリッジへと向かって歩く影があった。

 ラプラスだ。

 彼女は、いつもならサイズの合わないよれよれの白衣を引きずり、ボサボサ頭で歩き回る「変人」の姿ではない。

 無造作に伸ばしていた髪は後頭部でタイトにまとめられ、白衣も少し綺麗なものに着替えている。靴音を響かせて歩くその足取りは軽く、何よりその翠玉の瞳が、いつになく生き生きとした前向きな光を放っていた。


(……滑稽だね。僕としたことが、まさかこんな気持ちになるなんて。)


 ラプラスは、心の中で自嘲気味に呟いた。

 彼女の脳裏で渦巻いているのは、イザベラ、そしてかつて愛したリゲルへの複雑な思いだ。

 自分は長年、ノアZEROから全てを見下ろし、観測するだけの超越者だと思っていた。しかし、真実は違った。イザベラが引き起こしたエデンの反乱も、8つ目のオリジナルの覚醒も、全てはリゲルが残した盤面の上で、彼らが描いたシナリオ通りに自分が動かされていたに過ぎないのではないか。

 自分は「観測者」ではなく、彼らが用意した「舞台装置」の一部だったのだ。


 その事実は、稀代の天才科学者にとって屈辱的とも言えた。

 だが——。

 彼女は白衣のポケットに手を入れたまま、ふっと口角を釣り上げた。

 イザベラの敷いたレールに乗せられていると理解してなお、彼女の知的好奇心は、黒い壁の向こうに広がる「未知」の魅力に絶対に抗うことができなかったのだ。


(ああ、いいさ。レールに乗せられているのなら、その舞台ステージに僕自身が上がって、彼らの想定外のことをしてやろうじゃないか。)


 観測者であることをやめ、自らもプレイヤーとして盤上に立つ。

 その決意が、彼女の外面を——かつて地球のために全てを捧げた、銳く知的な「ミコト・スメラギ」のような姿へと変化させていた。


 黒い壁の内部へ突入すれば、宇宙の衛星軌道にいる「マザー」との生体リンクは完全に切断されるだろう。それは、長年マザーのシステムと一体化して不老の知識を得ていた彼女にとって、自身の半身を失うに等しい「恐怖」だった。

 だが同時に、マザーという絶対的な枠組みから解き放たれる、完全な「自由」への期待感でもある。


(恐怖と、自由。……こんなに心が躍るのは、一体何百年ぶりだろうね。)


 ラプラスは、通路を歩きながら思わずニヤニヤと笑みをこぼした。


「あ、ラプラス先生。お疲れ様です!」


 向かいから歩いてきた、エデン出身の整備クルー——アルドの仲間が敬礼して声をかけてきた。いつもなら面倒くさそうに無視するか、皮肉で返すラプラスだが、今の彼女は違った。


「やあ、ご苦労さま! 機体の出力バランスは最適化されているかい? これからの戦いは、君たちメカニックの腕が命運を分けるからね。頼りにしているよ!」


 ラプラスは彼に向かって快活にウインクし、白衣の裾を颯爽と翻して歩き去った。

 残された整備クルーは、「えっ……あれ、本当にあの偏屈なラプラス先生か……?」と、幽霊でも見たような顔で立ち尽くしていた。


 ブリッジの自動ドアが開き、ラプラスが姿を現した。

 すでに配置についているトーマスやユキが、身なりを整え活気に満ちた彼女の姿に目を見張る。


「さて、始めようか諸君」

 ラプラスは司令卓のサブコンソールにアクセスし、自信に満ちた声で告げた。

「このテストが終わったら、僕とマザーの最後の分析セッションが待っている。……僕たちの新しい歴史ストーリーの、開幕といこうじゃないか!」


 天空の船が静止し、カイトとレイ、二つの光が眼下に広がる広大な塩の荒野へと飛び立つ準備が整った。

 観測者が舞台に上がり、役者が揃う。

 運命の歯車が、音を立てて未来へ向けて回り始めようとしていた。

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