歌姫たち
クリスタル・ドームの地下深くにある、広大な練習施設。そこには、5つの防音室が並び、それぞれ異なる歌姫たちが、歌唱練習に励んでいた。
各防音室は、厳重な防音設備が施されており、内部の音は一切外部に漏れない。しかし、イザベラのいる制御室では、モニターを通じて、各歌姫の歌声と表情、そして様々なデータを確認することができた。
「ミライ、もっと魂を込めろ!笑顔は良いけど、心に響かないとダメよ!ええと、次は…シアン・エヴァンス、ちょっと!ロボットみたいな顔してるわよ!もっと感情を解放して!レン、落ち着いて!リズムに乗れてないわ!可愛いだけじゃダメなの!カエデ、力みすぎ!肩の力を抜いて!ユナ・クロフォード、ちょっと!また独りよがりな歌い方してる!」
イザベラは、モニターに向かって声を張り上げた。その明るくエネルギッシュな口調とは違って、その瞳にはマッドサイエンティストの一面が垣間見える。
各モニターには、新歌姫たちの姿が映し出されていた。
ミライ: ピンク色の髪をツインテールにした、元気いっぱいの少女。アップテンポな曲調に合わせてのっている。
シアン・エヴァンス: 青みがかった黒髪を長く伸ばした、クールな雰囲気の少女。バラードを歌い上げているが、表情は硬い。
レン: 小柄で可愛らしい、金髪の少女。ポップな曲に合わせて、無邪気に踊っている。
カエデ: 黒髪を後ろで一つにまとめ、凛とした佇まいの女性。古風な言葉遣いをしながら、力強い演歌を歌っている。
ユナ・クロフォード: 紫色のロングヘアをきっちりと整え、クールな雰囲気を漂わせる少女。ロックを歌い上げているが、どこか他人を見下すような態度が見え隠れする。
イザベラは、各歌姫の歌唱データを分析しながら、興奮を抑えきれない様子で呟いた。
「やっぱり、歌姫の資質と、性格に合った音楽性って、重要よね!共鳴率が50%を超えると、ディーバシステムの恩恵を引き出せるってことが、ほぼ確定したわ!」
バルキリア暴走後、イザベラは、ディーバシステムの可能性を徹底的に研究し尽くした。その結果、歌姫の個性、性格、そして歌う楽曲の相性が、共鳴率に大きく影響することが判明したのだ。
しかし、現在のところ、各歌姫の共鳴率は、30%から50%の間を彷徨っている。50%を超えれば一定の効果が得られるものの、あの時、バルキリアが見せた100%の輝きとは比べ物にならない。
「あの時…バルキリアが暴走する直前に記録した、100%の共鳴率…あの輝きを、もう一度…!」
イザベラは、モニターを見つめながら、瞳を輝かせた。
「どんな手を使ってでも、絶対に…絶対に、100%を達成してみせるわ!たとえ、それがちょっと危険な実験だったとしても…うふふっ♪」
イザベラの探求心は、もはや狂気に近いものだった。しかし、彼女の瞳には、狂気と同時に科学者としての純粋な情熱も宿っていた。そして、何よりも、彼女はアリアのことを心から愛していた。アリアの歌声が、再び輝きを取り戻すことを、心から願っていたのだ。




