歌姫覚醒
闘技場に轟音が響き渡る。バルキリアとクリムゾンロード。二体の星装機が、相対していた。
「…やはり、お前は制御できなかったか…」
クリムゾンロードは、暴走するバルキリアの攻撃を、軽々と躱していく。その動きは、洗練され、無駄がない。
バルキリアは、背嚢から巨大な剣を取り出し、クリムゾンロードに斬りかかった。その剣は、黒い炎を纏い、触れるもの全てを焼き尽くすかのようだった。
しかし、クリムゾンロードは、まるで転送してきたかのように、両手に一対の剣を装備した。紅蓮の刃が、妖しく輝く。
「楽しませてくれる!」
クリムゾンロードのパイロットは、高揚した声で叫んだ。
バルキリアのコックピットの中で、カイトは、過去の悪夢と、バルキリアの狂気に囚われ、苦悶していた。
黒い炎を纏った剣が、クリムゾンロードに迫る。
クリムゾンロードは、両手の剣で、その一撃を受け止めた。激しい金属音が響き渡り、火花が散る。
バルキリアとクリムゾンロードは、激しい剣戟を繰り広げた。その速さは、肉眼では捉えられないほどだった。
その時、メンテナンス通路を通り抜け、ユキとアリアが、闘技場へと駆けつけた。
「…嘘…」
ユキは、目の前で繰り広げられる激しい戦いに、言葉を失った。
アリアは、バルキリアの禍々しい姿を見て、深い悲しみに襲われた。
「…私が、歌わないと…」
アリアは、覚悟を決め、歌い始めた。
*憎しみの炎、焼き尽くせ!*
*破壊の限りを尽くせ!*
しかし、アリアの戦歌は、バルキリアの狂気を増幅させてしまう。機体から噴き出す黒い炎は、さらに勢いを増し、バルキリアは、より一層禍々しくなっていく。
「…やめろ…これ以上…俺を苦しめるな…!」
カイトは、頭を抱え、苦悶の声を上げた。
「…ならば、こちらからも、いかせてもらう!」
クリムゾンロードは、高速移動でバルキリアの背後に回り込み、斬りかかった。
バルキリアは、辛うじてその一撃を防ぐ。しかし、その衝撃は、カイトの精神を揺さぶった。
ディーバシステムを通じて、カイトの苦悩が、アリアに流れ込んでくる。機体の負荷も感じ、アリア自身も苦しみ始めた。
その苦しみの中で、アリアは、幼い頃に言われた言葉を思い出した。
(シルエット:男性の声)
「アリアの歌で、心が溶けていくようだよ。ありがとう。」
アリアは、ハッとした。彼女が歌うべきは、戦いを煽る歌ではない。人々の心を癒し、希望を与える歌だ。
アリアは、戦歌を止め、深く息を吸い込む。そして、心を込めて、歌い始めた。
*降り注げ、希望の光*
*心を、照らせ!*
アリアを、白いオーラが包み込んだ。そのオーラは、優しく、温かく、全てを包み込むようだった。
その光に共鳴するように、バルキリアから噴き出す黒い炎が、揺らぎ始めた。そして、徐々に、その勢いを弱めていく。
イザベラのいる制御室では、ディーバシステムのゲージが、ゆっくりと上昇していた。そして、ついに、100%に達した。
(ディーバシステム:共鳴率100%…)
バルキリアのコックピットの中で、カイトは、光に包まれていた。
「…聞こえる…歌が…」
彼は、アリアの歌声を聴いた。その歌声は、優しく、暖かく、彼の心を癒していく。
まるで、別空間にいるかのように、カイトとアリアは、繋がっていた。
黒いオーラが消え、真っ赤だったバルキリアの目が、青く輝き始めた。
カイトは、正気を取り戻した。
バルキリアのコンソールには、青く輝く「READY」の文字が表示された。
「…わかる…いける…動かせる」
カイトは、バルキリアの操縦桿を握りしめた。その手は、確かな感触を取り戻していた。
再び、二体の機体が、激突する。
お互いスピードを上げて、切り掛かるバルキリアとクリムゾンロード。しかし、先程までとは違い、バルキリアの動きは、洗練され、正確さを増していた。
(クリムゾンロードパイロット:)
「この高揚、この鼓動、これこそが戦いだ…!」
クリムゾンロードのパイロットは、狂喜に満ちた声を上げた。
無表情だったカイトの口元には、やがて、戦うことの喜びに包まれ、かすかな笑みがこぼれていた。
第一話:歌姫覚醒了