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星装機ヴァルキリア 〜最強の黒騎士は、歌姫の愛で未来を視る〜  作者: homare


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血盟の女王 - イザベラとセレーナ

 陽光が降り注ぐ南フランスの谷間。イザベラの秘匿された広大な研究施設は、まるでSF映画に登場する秘密基地のように、地下深くへと伸びていた。地下の実験場は、戦場を想定した瓦礫の山々が連なり、多様な実験を可能にする。爆発音と金属の軋む音が響き渡り、火花が散り、熱気が充満する。


 その中心部で、漆黒の戦場に一際鮮やかな紅の機体が舞っていた。クリムゾンクイーン。人間のように細身でありながら、内に秘めた力の奔流を予感させるフォルムだ。機体には一切の武装が見当たらない。


 セレーナは、カプセルに入った素体からクリムゾンクイーンを覚醒させ、クリムゾンロードから移植したコックピットで、その機体を操っていた。彼女は慣れない操作に、戸惑いを覚えている。


 対するは、数体のエデン最新鋭機。ヘッドギアを装着し、ロボットのように統率された動きを見せるホープレス部隊。彼らは、様々なバリエーションの火器を構え、クリムゾンクイーンを包囲していた。


「さあ、始めましょう、セレーナ!思う存分、暴れてちょうだい!」


 イザベラの声が、実験場のスピーカーから響き渡った。


【実験開始!】


 アナウンスとともに、エデン機は一斉にクリムゾンクイーンに襲いかかる。まずは中距離からの火器の一斉射撃。レーザー、実弾、ミサイルが、網の目のようにクリムゾンクイーンへと向かっていく。


「ちっ、いきなり本気かよ!お姫様はそんなもんで満足するってか!」


 セレーナは、舌打ちをしながら、機体を操る。弾速の速いレーザーが、クリムゾンクイーンの装甲を掠め、火花を散らすが、セレーナは、それを華麗な身のこなしでかわしていく。まるで、ワルツを踊るかのように、攻撃と攻撃の隙間を縫って、距離を詰めていく。


 エデン機は、中距離からの攻撃が通用しないと見るや、間合いを詰めてくる。横殴りにマシンガンで面を制圧し、逃げ場を限定しようと試みる。


「へっ、そこかよ!」


 セレーナは、笑みを浮かべた。クリムゾンクイーンは、空中ジャンプで、マシンガンの弾幕をかわすと、さらに速度を上げて距離を詰める。次の瞬間、彼女の両手に、突如として二本のブレードが出現した。それは、空間から切り取られたかのように、何もない場所から現れた、漆黒の刃だ。


「さあ、お遊びはここまでだ!相手してやるよ!」


 セレーナは、ブレードを振るい、エデン機へと斬りかかった。


 エデン機の一体が、盾役として割って入り、クリムゾンクイーンの刃を受け止める。ガキン!と甲高い金属音が響き渡り、激しい火花が散った。その反動で弾き飛ばされたクリムゾンクイーンに、すかさず左右から銃撃が浴びせられる。


「まだまだ甘いな!」


 セレーナは、両手に、突如として二枚の盾を出現させ、銃撃を受け止めた。その盾は、彼女の意図する場所へプッシュで放り投げられ、他のエデン機の射線を塞ぐ。左手には、フルオートのハンドガンが出現し、盾役を牽制。同時に、右手に握られた剣を回転させ、盾役の機体へと飛び乗る。そのまま、その機体のコックピットに剣を突き立て、無力化させた。


 セレーナは、剣を引き抜く間も惜しいと、すかさず両手にフルオートのハンドガンを装備。回転しながら弾丸をばら撒き、怯んだ他の機体に対して、背後から双剣のショートソードを出現させて突き立て、二機を沈黙させた。


 そこからは、セレーナの独壇場だった。クリムゾンクイーンの亜空間からの自由自在な武器転移。実体剣、長距離ライフル、投擲爆薬。その都度最適な武器を瞬時に呼び出し、的確にエデン機を制圧していく。ホープレスの統率の取れた集団戦術も、セレーナの予測不能な動きと、変幻自在な武装の前には、何の意味もなさなかった。


【実験終了!】


 状況終了のアナウンスが響き渡った時、実験場に立つのは、セレーナのクリムゾンクイーンだけだった。周囲には、無残にも倒れ伏したエデン機が、静かに横たわっている。


 コックピットのセレーナは、勝利の興奮よりも、不満げな表情で呟いた。


「ちぇっ、つまんねえな。もっと骨のある相手を寄越せってんだよ。」


 セレーナは、今回のシミュレーションで、クリムゾンクイーン自身を転送することはせず、余力を残していたのだ。機体は完全に亜空間から転送できる。しかし、それは最後の切り札だ。その必要性すら感じさせないほど、実験機は弱い。


 セレーナは、実験場のコントロールルームに転送した。そこには、イザベラがモニターを見つめ、満足げな笑みを浮かべていた。


「フフフ……素晴らしいわ、セレーナ。亜空間から瞬時に武器を取り出せるようになったこと、見事ね。まさに、私の計算通りだわ。」


 イザベラの言葉に、セレーナは鼻を鳴らす。


「当たり前だろ?それで?アタシはあと、何ができるんだ?」


「あらあら、せっかちね。貴女の思考と訓練によって、亜空間の中を整頓し、様々な武器を格納することが可能になった。リロードの必要がない使い捨ての軽量化モデルを開発し、その全てを亜空間にストックできる。それは、実体化された別の場所からの転送よりも、はるかに早く正確よ。」


 イザベラは、自らの研究成果を誇るかのように語る。


「亜空間にはね、生物でないものなら、なんだって格納できるの。実弾、レーザー、投擲爆薬から、飛行用の羽まで、様々なものが開発されて実験を繰り返して亜空間にしまわれている。それこそ、数トン単位の鉄の塊だってね。」


 イザベラの言葉に、セレーナは驚愕した。亜空間の容量は無限だ。しかも、生物でないものなら、なんだって格納できる。この力があれば、どんな戦いも、有利に運ぶことができるだろう。


「そしてね、セレーナ。これよ。」


 イザベラは、セレーナに、掌サイズのブレスレットを差し出した。


「それは、人間サイズのものを出し入れできるブースト機能がついた腕輪よ。これを身につければ、あなた自身も、クリムゾンクイーンを亜空間に収納し、いつでも呼び出すことができる。まるで、切り札のようにね。あなたの望む、最高の戦場を、私は必ず用意するわ。」


 イザベラの言葉は、セレーナの心の奥底に眠る、秘めたる渇望を刺激した。腕輪を手に取ると、その脈動を感じる。それは、まさに、最高の力が宿る証だ。


「ふん、言われなくてもわかってるさ。それで?その、三分の一しか実装されてねえって能力とやら、いつになったら全部使えるんだよ?」


 セレーナは、不満げな表情を浮かべる。しかし、その瞳には、確かな探求心が宿っている。イザベラが考えるクリムゾンクイーンの強化策は、三分の一が実装されたばかりで、まだ本来の力が発揮されているとはいえなかった。


 イザベラは、ニヤリと笑った。


「フフフ……それは、見てのお楽しみよ。だが、貴女がその真の力を得るためには、まだ、いくつかの試練を乗り越えなければならないわ。」


 イザベラの言葉に、セレーナは舌打ちをした。しぶしぶ従うというよりは、期待が大きく、それまでの辛抱という感じだった。


「それに、セレーナ。貴女には、もう一つ、大切な任務があるわ。エデンによるノアⅢへの侵攻が、いよいよ始まる。」


 イザベラは、モニターに、エデン軍の侵攻計画を表示した。ホープレス部隊が、ノアⅢへと向かっている。


「ノアⅢへ?退屈な任務だな。どうせ、ホープレスが相手なら、またすぐに終わっちまうだろう。」


 セレーナの声には、不満が滲んでいた。


「まさか。それは陽動よ。この出撃の合間を縫って、あなたには、ノアⅥにいるカイトのもとへ、お届け物をしてもらうわ。」


 イザベラの言葉に、セレーナは、驚愕した。


「はあ!?カイトのところへ!?まさか、そんな大きなもの、どうするつもりだ!?」


 セレーナは、モニターに映し出された、巨大なコンテナの映像を見つめる。それは、まさに、星装機キャリアーそのものだ。


 イザベラは、ニヤリと笑った。


「あらあら、心配ご無用よ。一人でも動かせるようにしてあるわ。あなたなら、大丈夫。」


 イザベラの言葉は、まさに、無茶振りだった。しかし、セレーナは、イザベラの無茶振りを楽しむかのように、笑みを浮かべた。エジプトの工業区を実質一人で仕切っているイザベラの計画は、着々と進んでいた。その全てが、イザベラの計算通り。


「……望むところだぜ。あたしの最高の力を、奴に見せてやるよ!」


 セレーナの言葉が、研究施設に響き渡る。狂気の科学者と、破天荒な戦士。二人の思惑は、今、ここに交錯した。

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