対峙
停止ボタンは、ただの気休めに過ぎなかった。バルキリアは、拘束具を破壊した勢いのまま、制御ブロックの壁を次々と破壊し始めた。その機体は、黒い炎を纏い、禍々しいオーラを放っていた。
「まさか、こんなことに…!」
イザベラは、絶望の色を滲ませながら、コンソールにしがみついていた。
「イザベラさん!このままじゃ、ノアが…!」
ユキは、必死に叫んだ。
バルキリアは、破壊の限りを尽くしながら、セントラルコア(中央の吹き抜け)へと向かっていた。その進路は、ノアの中枢部を貫き、上層の闘技場へと繋がっていた。
モニターには、バルキリアの内部データが映し出されていた。
(バルキリア:エネルギーレベル超過…パイロット精神汚染進行中…)
(制御室のモニター)
バルキリアのコックピット内部の映像が映し出される。
苦悶の表情を浮かべるカイトの姿。
アリアは、その映像を見て、胸が締め付けられるような痛みに襲われた。
「カイトさん…!」
バルキリアのコックピットの中で、カイトは、過去の悪夢に囚われていた。
(イメージ:燃え盛る炎、妹の叫び声、両親の絶望した顔、嘲笑する兵士たち…)
過去の映像が、走馬灯のように、彼の脳裏を駆け巡る。
「…やめろ…やめてくれ…もう、何も奪わないでくれ…!」
バルキリアは、カイトの心の闇を喰らい、そのエネルギーを増幅させていた。
(バルキリア:エネルギー変換効率上昇…憎悪感情を動力源として利用…)
アリアは、決意の表情を浮かべ、首元にあるチョーカーのようなディーバシステムのデバイスを強く握りしめた。
「…私が行きます!」
アリアの言葉に、イザベラとユキは驚いた。
「アリア!何を言ってるの!?危険すぎるわ!」
イザベラは、必死に止めた。
「…私にしか、止められない。私にしか、カイトさんを止めることはできないんです!」
アリアの瞳は、強い決意に燃えていた。
「…わかったわ。ユキ、彼女を守って。」
「…わかりました。」
ユキは、頷いた。
アリアは、ユキと共に、闘技場へと向かうバルキリアを追った。
闘技場では、赤い機体「クリムゾンロード」のパイロットが、通信を受け取っていた。
「クリムゾンロード!直ちに、帰還せよ!これは命令だ!」
赤い機体のパイロットは、その通信を無視し、スイッチを切った。
「…すまない。」
彼女は、小さく呟いた。
「このエネルギーの奔流、抑えられるわけもなし!」
憎しみの炎に包まれ、暴走するバルキリア。エントリードアを破壊して闘技場に入ってくる。
(バルキリア:目標捕捉…抹殺…)
その前に、赤い機体クリムゾンロードが、立ちはだかった。
(クリムゾンロード:)
「…やはり、お前は制御できなかったか…」
漆黒の機体と、紅蓮の機体。二つの星装機は、闘技場で対峙した。
「…カイトさん…!」
アリアの声が、遠くから聞こえた。