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星装機ヴァルキリア 〜最強の黒騎士は、歌姫の愛で未来を視る〜  作者: homare


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脱エジプト

 星歌祭決勝。ベオウルフ・リベリオンとノワールの壮絶な戦いが終わりを告げ、アリーナは熱狂の歓声に包まれていた。最前列の一等席、豪華なドレスに身を包んだセレーナは、目の前の光景に、身体中の血が沸騰するような興奮を感じていた。


「ハハハハ!見たか!分身しただと!?どういうことだ、おい!解説しろよ!」


 彼女は、はしたなく身を乗り出し、喉が枯れるほど叫び続けた。カイトのベオウルフ・リベリオンがオーバーブレイクで放った、まるで分身するかの如き高速攻撃に、彼女は戦慄し、そして、歓喜した。その動きは、レイが思考を読み取るのすら追いつけない、まさに時を超越した挙動。


 試合が終わった直後、アリーナの歓声は最高潮に達する。しかし、セレーナの鋭敏な感覚は、その喧騒の奥に、微かな不穏な空気を感じ取っていた。まるで、嵐の前の静けさのように、何かが始まる予兆。彼女の体が、震えている。それは興奮からだけではない、何かが、彼女の背中を、ゾクリ、と撫でた。


 その時、彼女の隣に、真紅のドレスをまとったイザベラが、音もなく現れた。セレーナが意識していたのはイザベラではなく、戦場の状況だったが、イザベラはそのことに気づいていたか、気づいていなかったのか。


「今日の試合は、あなたも存分に楽しめたかしら?」


 イザベラの言葉に、セレーナはわずかに眉をひそめる。しかし、今は、それどころではない。


「楽しめたなんてもんじゃねえよ!最高に興奮したぜ!だが、それ以上に……。」


 セレーナは、歓声の中心に立つベオウルフ・リベリオンを指差した。


「あの力……。どうやら、あたしの強さにも限界があるらしい。あんな、超次元的な戦闘、ありえない。こんなチート野郎に、あたしは勝てたのか……?」


 セレーナは、苛立ちと、僅かな敗北感を露わにする。強者との戦いを求める彼女にとって、なす術もなく圧倒されるという事実は、耐え難い屈辱だった。だが、同時に、彼女の目に宿るのは、新たな「渇望」の光だ。あの力……それを手に入れたい。


 イザベラは、セレーナの言葉に、満足げな笑みを浮かべた。その翠玉の瞳には、狂気の光が宿っている。


「そうね。あなたの言う通り、あのベオウルフ・リベリオンの力は、次元が違う。だが、それは、あなたも辿り着ける領域。」


 イザベラは、セレーナの腕に、そっと触れた。その指先は、ひんやりと冷たい。


「DARMAコアの再調整。あなたの転移能力は、まだまだ覚醒の余地がある。そして、あなたの出生の秘密……それこそが、あなたを真の最強へと導く鍵なのよ。」


 イザベラの言葉は、セレーナの心の奥底に眠る、秘めたる渇望を刺激した。彼女自身の出生の秘密。それは、ノアZEROにおいても、ごく一部の人間しか知らない、極秘情報だ。それが、今、目の前の女の口から、いとも簡単に語られたのだ。


「ノア計画の全貌……人類の進化……全ての真実を知ることで、あなたは、自らの運命を、そして、この世界の理を、覆すことができる。さあ、セレーナ。私の手を取りなさい。そうすれば、私は、あなたに、さらなる強さを約束するわ。」


 イザベラは、セレーナに、魅惑的な笑みを向け、手を差し出した。


 セレーナは、イザベラの言葉に、戸惑いを隠せない。彼女の口から語られる壮大な計画、そして、自らの出生の秘密。ごたくを並べられてもわからないが、ただ、一つだけ明確なことは、イザベラが自分に「さらなる強さ」を約束しているということだ。


「……ふん。ごたくを並べられても、あたしには、よくわからねえな。だが……」


 セレーナは、ニヤリと笑った。彼女の瞳に、再び、獰猛な光が宿る。


「もし、あんたの言うことが本当なら……あたしは、どんな手を使っても、その強さを手に入れてやる。望むところだぜ!」


 セレーナは、躊躇なく、イザベラの手に、自らの手を重ねた。その瞬間、二人の間に、目には見えない、強固な絆が生まれた。


「賢明な選択ね、セレーナ。さあ、行きましょう。最初の目的地は……」


 イザベラは、セレーナの耳元に、そっと、転移先を耳打ちした。その内容は、セレーナを驚かせ、顔をしかめさせた。


「はあ!?マジかよ!そんな場所、行きたくねえぞ!戦場の気配が漂う場所にこんな格好で!」


 セレーナは、不満をあらわにした。しかし、その声には、拒絶の意思はなかった。むしろ、新たな戦場への期待と、未知への興奮が入り混じった、複雑な感情が滲み出ていた。


「これは、あなたにしかできない任務なの。大丈夫、私がついているわ。」


 イザベラの言葉に、セレーナはため息をついた。


「ったく、しょうがねえな。あんたが言うなら、付き合ってやるよ。約束は守ってもらうぜ。」


 セレーナは、不満げに答えると、イザベラの手を握り締めた。そして、次の瞬間、二人は、紅い光に包まれ、その場から忽然と姿を消した。


 ### 弐:策謀の連鎖


 アリーナの貴賓席。カイトの勝利に沸き立つ会場を見下ろしながら、アズラエルは、冷静な表情でモニターを眺めていた。彼の顔に浮かぶのは、勝利への称賛よりも、ノア計画の次の段階へと移る興奮だ。彼自身も、まだ見ぬ高みへと至る興奮を隠せずにいる。


 その時、アズラエルの耳に、ガブリエルからの緊急通信が飛び込んできた。


「アズラエル様!緊急事態です!ピラミッドに未確認の星装機と兵士が、接近中!識別コード不明!迎撃部隊を急行させましたがいまだ進捗が思わしくありません!」


 ガブリエルの切羽詰まった声に、アズラエルは、驚愕に目を見開いた。その顔に、初めて動揺の色が浮かぶ。


「何だと……!?このタイミングで……!?まさか……!!」


 アズラエルは、冷静さを装いながらも、心臓が激しく脈打つのを感じていた。彼は、すぐに状況を理解した。これは、偶発的な事故ではない。周到に計画された、何者かによる妨害工作だ。彼の視線は、アリーナの中央、静かに佇むベオウルフ・リベリオンへと向けられた。


(まさか……あの男が……!?)


 アズラエルは、すぐさまフェイに指示を出す。


「緊急事態だ!ピラミッドが襲撃されている!貴君の力が必要だ!すぐに出撃してほしい!」


 フェイは、二回戦での敗北の後、アズラエルと密談を交わし、彼の言葉に興味を抱いていた。アリーナ近くの専用ハンガーから、彼は自身の機体「シルフィード」を思念でリモートコントロールし、呼び寄せようとしていた。


「……了解した。邪魔な雲は、風で蹴散らすだけのことだ。」


 フェイの声は、いつものように冷静だが、その言葉の奥には、確かな覚悟が宿っていた。彼の行動の動機は、アズラエルの大義ではない。自らの力の絶対的優位性を証明する、純粋な探求心だ。


 フェイの思念に呼応するように、アリーナ近くのハンガーから、蒼銀色の機体、シルフィードが、静かに飛び立つ。その優雅なフォルムは、夜空に溶け込むかのように、滑らかに上昇していく。ピラミッドを覆い尽くさんばかりに展開していた闇の帳を、静かに切り裂き、頂上へと舞い上がる。


 しかし、シルフィードが貴賓席上空に現れた、その刹那。


 ドォォォン!!


 轟音と共に、シルフィードの機体は、遠距離からの狙撃によって、空中で爆散した。機体の残骸が、煌めく光の粒子となって、夜空に吸い込まれていく。アリーナから、観客の悲鳴と、どよめきが沸き起こった。


「……なっ!?」


 会場は、一瞬にしてパニックに陥る。観客たちの悲鳴が響き渡り、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられる。どこからか発射された実弾やレーザーが、観客エリアへと降り注ぎ始める。混乱の中、観客たちは我先にと逃げ惑う。


 その中で、貴賓席に、組立式の銃器を構えたエデンの兵士たちが、雪崩れ込んできた。彼らは、一般人の格好をしているが、その動きは、訓練された兵士そのものだ。彼らは、アズラエルとフェイを見つけると、即座に拘束するように指示を出す。


「アズラエル様!フェイ様!抵抗は無駄です!我々の目的は、マザーの意思の完遂!あなた方には、計画の最終段階へ協力していただきます!」


 エデンの兵士たちは、アズラエルとフェイに銃口を向ける。


 フェイは、流れるような拳法で、兵士たちを追い払う。彼の体からは、微かな風のサイキックパワーが放出され、兵士たちの動きを阻害する。だが、相手は数で押し寄せる。増援として乱入する兵士たちは、次々と電磁パルス弾を発射していく。


 フェイは、その攻撃をかわすことができず、体に衝撃を受ける。視界が歪み、体に電流が走る。彼は、これ以上の抵抗は無駄だと悟り、その場に膝をついた。


 エデンの兵士たちは、アズラエルに同行を求める。


「アズラエル様、我々と共に来ていただきます。抵抗すれば、容赦はしません。」


 アズラエルは、状況を理解し、しぶしぶと応じた。彼の顔に、悔しさの色が浮かぶ。彼の理想とは異なる、粗暴な行動に憤慨しているかのようだ。


「……わかった。私が、ついて行こう。」


 エデンの兵士たちは、アズラエルとフェイを拘束し、夜の闇の中へと消えていった。何かがおかしい。彼の頭の中に、一つの疑問が芽生える。


 ### 参:逃亡と覚悟


 アリーナの中心に倒れ伏すノワールの元から、ベオウルフ・リベリオンで、会場近くのノアⅥ研究棟エリアへ向かうカイト。彼の脳裏には、先程の未来視の光景が、鮮明に焼き付いている。軍用機による襲撃。観客エリアの惨状。刻一刻と迫る危機を告げる警鐘が、頭の中で鳴り響く。


 ノワールとの戦いを終え、彼は時間がないことを理解していた。レイの命も、そして、ノアⅣのメンバー、歌姫たちの安否も、彼の双肩にかかっている。


 アリーナ近くのハンガーに着くと、ちょうど目の前のハンガーから、フェイの遠隔操作によってシルフィードが飛び立っていくのが見えた。しかし、アリーナの上空にさしかかったその瞬間、遠距離からの狙撃か、空中をレーザーが横切り、爆発音が聞こえる。


「くそっ……!」


 カイトは、歯噛みした。しかし、今は、後悔している時間はない。彼は、おそらく撃墜されたシルフィードが、アリーナを襲撃する軍用機の存在を明確にしたと判断した。その行動の優先順位はレイとニコの確保、そしてノアⅣの部隊の安全な脱出だ。


 カイトは、ノアⅥの研究棟へと急ぐ。そこは、白を基調とした、清潔な空間だった。入り口の開け放たれたラボの奥、反重力プレートに乗ったニコが、端末を操作しながら、出迎えてくれた。彼女の表情は、焦りよりも、どこか覚悟を決めたような、静けさを帯びている。


「カイト。時間がないわ。」


 ニコの声は、いつものように冷静だが、その言葉には、切迫感が滲み出ている。彼女の指先が、端末のキーボードの上を忙しく動き、研究室の機材が、次々とシャットダウンされていく。機械からスパークが散り、その場で溶けていく光景が広がっている。


「データは全て消去。もう、追跡される心配はない。」


 ニコは、端末を2台だけ手に持ち、カイトにそう告げた。彼女は、もはや、ここに留まるつもりはないようだ。全てを置いて、ここから離れる、という彼女の決意を感じた。


 反重力プレートの移動は遅い。このままでは、時間がかかりすぎる。カイトは、迷わず、ニコの手を引いた。


「乗れ!時間がない!」


 カイトは、ニコをベオウルフ・リベリオンのコックピットに乗せると、ノアⅣのハンガーへと向かおうとする。


 ニコが、顔をしかめて呟く。その言葉は、まるで、全てを予測していたかのように、静かだった。


 ノアⅣのハンガーの前には、既に、ノアⅣの軍とトレーラーが待機していた。歌姫たちも、既にトレーラーの中に入っているようだ。ユキが、心配そうな表情で、ベオウルフ・リベリオンの到着を待っている。


 カイトは、ベオウルフ・リベリオンのハッチを開き、ニコを下ろそうとする。だが、ニコはそれを制した。


「このままでいい。私の居場所は、ここだ。あなたは、あなたのすべきことをしろ。そしてレイを、安全な場所へと導くんだ。」


 ニコの言葉に、カイトは頷いた。確かに、零の命を救うためには、ニコの知識と彼女の存在が不可欠だ。何より、彼の未来予知能力が告げた。ニコを同行させるのが最善だと。


「カイト!指示を仰ぎます!進行ルートは!?」


 軍の隊長から無線が入る。


 ニコは、手元の端末を操作しながら、カイトに提案する。


「……僕がお世話になっている、ノアⅥに行きませんか?あそこなら、僕のデータを利用できる施設もある。それに、彼を……レイを助けられる可能性もあるはずだ。そして、彼は、そこにたどり着けば、きっと喜ぶだろう。」


 カイトは、ニコの言葉に頷いた。ノアⅥ。零が所属するノア。そこは、彼の真の目的と繋がり、最も安全な場所でもあるだろう。


「わかった。進路をノアⅥへ。」


 カイトの言葉が、ベオウルフ・リベリオンのコックピットに響き渡る。


【ノアⅥ——イタリア方面、設定】


 ベオウルフ・リベリオンが、ノアⅣの一団を先導するように、ピラミッドとは逆方向へ出発する。荒野をひた走るトレーラー部隊。その速度は、逃走を計っているかのように、恐ろしく速い。


「そろそろかな。」


 ニコは、手元の端末を操作する。すると、会場から再び閃光があがり、先程よりも大きな爆発音が聞こえ、巨大な火が立ち上った。


「ノワール、爆破完了。これで、しばらくは追跡されないだろう。」


 ニコの言葉に、カイトは、呆れたような表情を浮かべた。


「お前……とんでもないことをしでかしたな。」


 カイトは、呆れたような表情を浮かべた。しかし、その瞳には、ニコの狂気染みた決断に対する、微かな畏敬の念が宿っていた。


 ニコは何も言わず、ただ静かに、夜空を見上げていた。その小さな体からは想像もつかない、大胆な決断。だが、彼女の視線の先には、確かな目的が、輝いていた。


 荒野をひた走るトレーラーの荷台の上で、カイトは疲労困憊の身体で遠ざかる爆炎と化したエジプトを振り返った。その背後に控えるノアⅣの部隊、荷台で横たわるレイ。そして、自身の内なる変化、未来を見通す力。彼の背負うものが、否応なく増大していくのを感じていた。


 彼は今、その力、そして彼自身が辿る「運命」の渦中に投げ込まれ、そして巻き込んでいく。


 月にある人類の管理者「マザー」、その真なる計画を進めるという「エデン」。ノア計画の中心「ノアZERO」、そして、その背後で蠢く謎多き科学者たち「ラプラス」「イザベラ」。彼らが複雑に交錯する中で、セレーナは「力」への欲望に導かれ、未知の領域へと足を踏み入れ始める。


 一方、その真実を知らず、守りたいものと迷いを抱えつつ、アリアは歌にその想いを込めていく。そしてユキは、自身の最も大切な存在を守るべく、カイトと共に荒野を往く。


 真なる力が覚醒する時、星の未来は、誰の手に握られるのか——。

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