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星装機ヴァルキリア 〜最強の黒騎士は、歌姫の愛で未来を視る〜  作者: homare


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二回戦:漆黒の斬閃

高速機動による牽制から、ついに、両者は、接近戦へと突入した。


アリーナの市街地エリアは、ビルの残骸や瓦礫が複雑に折り重なり、激しい戦闘音を増幅させる。


フェイは、覚悟を決めた。


「……私の、真の力、見せてやろう!」


その叫びに呼応するように、シルフィードのWINDコアが共鳴し、機体全体が、エメラルドグリーンの光を放ち始める。翠色のオーラが渦を巻き、シルフィードは、これまでとは比べ物にならない速度で、ベオウルフ・リベリオンへと肉薄した。


【シルフィード:疾風神雷 (ハヤテジンライ)】


フェイが技名を告げると、シルフィードの機体は、その一瞬にして複数の残像を伴い、無数の幻影となってアリーナに満ちる。視界を埋め尽くすほどの幻影が、全方位からベオウルフ・リベリオンに攻撃を繰り出した。どの影が本物なのか、見極めることは不可能に思える。


「これで、終わりだ!」


無数のウィンドカッターが、真実と幻の間を切り裂き、ベオウルフ・リベリオンへと襲いかかる。その猛攻に、カイトは、激しく消耗していく。


(……見えない……どいつも、こいつも、本物か……?)


カイトは、迫り来る攻撃の波状をシールドで必死に防ぐが、次から次へと放たれるウィンドカッターは、彼の疲労を容赦なく加速させた。ベオウルフ・リベリオンの装甲からは火花が散り、関節駆動部からは軋みが響き始める。


その時、カイトの脳裏に、断片的な映像がフラッシュバックした。それは、過去に経験したことがないはずの、「未来」の光景だった。岩山の上で構えるシルフィード、風を操るフェイの姿、そして、シルフィードが放つ無数のウィンドカッターの、具体的な軌道。


(これ……は……?)


混乱しかけるカイトの意識を、アリアの歌声が、静かに、そして力強く包み込む。


**《嵐に揺れる、希望の灯火ともしび》**

**《そのいのちは、決して折れない、永遠の輝き》**

**《さあ、未来へ、翼を広げ、解き放て》**


アリアの歌声に導かれるように、カイトの瞳が、さらに深く輝きを増す。機体から紅蓮の炎が噴き出し、翠玉の瞳が、深淵の色を帯び始めた。


(……この感覚……これこそが……)


カイトは、自らの内に目覚めつつある「未来視」の能力を、無意識のうちに掴み取る。映像は、決して明確ではない。しかし、その瞬間、最も危険な攻撃がどこから来るのか、最も確実な回避経路はどこか、瞬時に直感できる。


「うおおおおおおお!!」


カイトは雄叫びを上げると、来るはずの攻撃の数瞬前を読み、回避行動と攻撃を同時に入れた。それは、あたかも攻撃を受ける直前に機体の位置を瞬間的にずらすかのような、予測不能な動き。幻影と本物のシルフィードが交錯する中で、ベオウルフ・リベリオンは、一直線に「真実のフェイ」へと突き進んでいく。


「何だと……!? まさか……全て、見えているとでも言うのか!?」


フェイは、驚愕の声を上げた。自身の最も得意とする疾風神雷が、まるで初見の相手に簡単に破られたかのように。信じられない光景に、フェイの顔に焦りが浮かぶ。その操縦も、わずかに乱れ始める。


ベオウルフ・リベリオンは、無数の幻影を突破し、本物のシルフィードに肉薄した。漆黒の剣が、唸りを上げてシルフィードの装甲に叩きつけられる。金属が軋み、激しい火花が散る。


「馬鹿な……ありえない……私の疾風神雷を、ここまで完璧に見切るなど……!」


フェイは、衝撃に身体を揺さぶられながら、必死に反撃の機会を窺う。彼は、風の申し子として、自身の力を信じて疑わなかった。しかし、カイトの「未来視」という異質な力は、彼のプライドを、根底から揺るがした。


「まだだ……まだ、終わらせない!」


フェイは、最後の力を振り絞り、WINDコアの全てを解放する。シルフィードの周囲に巨大な竜巻が発生し、ベオウルフ・リベリオンを飲み込もうとする。風の力が増幅され、砂漠の砂まで巻き上げ、巨大な砂の竜巻と化してアリーナに満ちた。


【シルフィード:神風嵐渦 (カムカゼランカ)】


砂と風の壁が、ベオウルフ・リベリオンを覆い尽くし、カイトの視界を奪う。その中から、シルフィードは無数のウィンドカッターを、ランダムな方向へと放ち始めた。先読み能力を持つカイトの未来視を無効化する、広範囲への予測不能な攻撃。


(くっ……これは……!)


カイトは、乱れ飛ぶウィンドカッターの嵐に苦悶する。未来を見通せても、同時にあまりに多くの未来が見えすぎて、その全てに対応することは不可能だった。


**《その壁を越えろ、心の刃で》**

**《砕け散らせ、絶望を貫け》**


アリアの歌声が、彼の精神を支える。温かい光が、心の奥底へと注ぎ込まれ、乱れる意識を鎮めていく。カイトは、歌声に導かれるように、DIVAコアの力を、さらに限界まで引き上げた。紅蓮の炎が噴き出し、漆黒の装甲を染め上げる。翠玉の瞳が、もはや人間のものではないかのように、怪しく輝いた。


そして、カイトは、剣を構えた。無数のウィンドカッターが乱舞する砂嵐の中、たった一本の、漆黒の刃を。


その刃は、まるで全てを切り裂くかのように、光の軌跡を描きながら、砂嵐の奥へと突進していく。


ウィンドカッターが、彼の装甲を容赦なく削り取る。その激しい抵抗にも関わらず、カイトの剣は、一点を目指して、迷いなく進んでいく。未来が見えずとも、彼の心は、アリアの歌声によって、確かな一筋の光を見据えていた。


「この力で……終わりにする……!」


そして、神風嵐渦の中心。わずかな空間に現れた、光の点。そこに、フェイのシルフィードは存在していた。カイトの先読みが、ランダム攻撃の中から、わずかな「揺らぎ」を読み取ったのだ。


「馬鹿な……!? どうしてここが……!?」


フェイの驚愕の叫びが響き渡る。その防御は間に合わない。漆黒の刃は、迷うことなく、シルフィードのエネルギーコアを正確に捉えた。


【ベオウルフ・リベリオン:黒耀一閃 (オニキス・フラッシュ)】


全てを貫く漆黒の剣が、シルフィードの装甲を突き破り、エネルギーコアを一刀両断する。


「うああああああああああああ!!」


フェイの悲痛な叫びが、アリーナに響き渡った。


蒼銀の機体は、爆炎に包まれ、そのまま力尽きるように、大地へと叩きつけられた。激しい振動が、アリーナ全体を揺るがす。砂嵐は、そのエネルギーを失い、ゆっくりと収束していく。


【シルフィード、戦闘不能】


「勝者!カイト!そして歌姫アリア!ノアⅣ代表が、見事、二回戦突破ですぅぅぅ!!」


勝利のアナウンスが、アリーナに響き渡る。地鳴りのような歓声が爆発し、熱狂が頂点に達する。観客たちは、目の前で繰り広げられた異次元の戦いに、興奮を隠しきれない。


カイトは、激しい息遣いをしながら、コックピットの中で静かに座っていた。体中に、燃え尽きたような疲労感が残っている。意識が、遠のいていく。


(……この力……強すぎる……)


しかし、疲労の中にも、確かに感じられる、新たな領域。圧倒的な力の奔流。デジャブ、そして「未来を読む」という漠然とした感覚。すべてが現実の出来事として彼の脳裏を突きつけられた。


だが、それは同時に、未知の、そして、計り知れない不安を伴っていた。


(この力が、俺を……どこへ連れていくのか……)


黒い靄が、ベオウルフ・リベリオンを包み始める。その靄は、機体全体の塗装が剥がれた関節部を黒く染め、白い関節部と相まって、ツートンカラーの異様なシルエットを浮かび上がらせる。


勝利のアナウンスが響き渡る中、カイトは、その場で意識を失い、ベオウルフ・リベリオンのコックピットの中で、静かに倒れ伏した。


アリアの悲痛な叫びが、アリーナに響き渡る。


「カイトさん……!!」

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