希望の歌声
眩い光と喧騒に満ち溢れるノアの中層、商業エリア。高層ビルが立ち並び、ネオンサインが煌びやかに輝く。その光の裏には、貧困と格差が隠されている。
その一角にある、「クリスタル・ドーム」。約四百人収容のホールは、息を潜め、静寂に包まれていた。観客は、歌姫の登場を待ちわびている。
重い静寂を切り裂き、心臓の鼓動のような低音が響き始めた。次第に音は大きくなり、観客の鼓動とシンクロしていく。ステージ背後の巨大スクリーンには、複雑な紋様が浮かび上がり、怪しく光を放っている。
(ディーバシステム起動:ゲージ上昇中…)
スクリーンに、メッセージが表示された。観客の興奮が高まる。
そして、ついにその瞬間が訪れた。
漆黒の闇を切り裂き、一筋の光が降り注ぐ。ステージ中央に、白い光柱が立ち昇り、その光の中から、ゆっくりと姿を現したのは、アリアだった。
その姿に、会場全体から息を呑む音が漏れた。
身体のラインを強調した黒のレザースーツ。その衣装は、彼女の美しさを際立たせると同時に、ワイルドな魅力を放っていた。プラチナブロンドの髪が、光を浴びて妖しく輝く。彼女は、天使ではなく、戦場に舞い降りた女神のようだった。
ホール全体が、圧倒的な熱気に包まれる。観客は、我を忘れ、アリアの名を叫び、その歓声は、まるで嵐のようだった。
アリアは、ゆっくりとマイクを握りしめ、静かに語り始めた。その声は、透き通るように美しく、ホール全体に響き渡り、観客の魂を震わせた。
「クリスタル・ドームのケダモノども。」
アリアは、ニヤリと笑う。その挑発的な言葉に、観客はさらにヒートアップした。
「魂を燃やし尽くす覚悟は、できてるんだろうな?」
アリアは、両手を広げ、観客に呼びかけた。ホール全体が、狂騒的な歓声に包まれた。
スクリーンに、再びメッセージが表示された。
(ディーバシステム:共鳴率上昇中…)
「持てる力の全てを、この歌にぶち込め!」
アリアは、拳を高く突き上げた。観客は、呼応するように、拳を突き上げ、雄叫びを上げた。ホール全体のボルテージは、完全に爆発した。
(歌姫の声:)
勝利への渇望、満たせ!
屍の山を築き上げろ!
英雄の血で、大地を染めろ!
重低音が響き渡り、激しいギターサウンドが会場を揺らす。アリアは、戦歌を歌い始めた。彼女の歌声は、力強く、荒々しく、観客の闘争本能を剥き出しにする。
スクリーンには、ディーバシステムのメーターが表示され、アリアの歌声に合わせて、急上昇していく。メーターが最大値に達した時、ホール全体が、眩い光に包まれた。
「もっと! もっと叫べ! オレの歌に、喰らいつけ!」
アリアは、歌いながら、さらに観客を煽った。
(歌姫の声:)
鋼鉄の魂、燃やし尽くせ!
血と汗の勲章、誇れ!
運命の鎖を、断ち切れ!
観客は、狂ったように叫び、拳を振り上げた。リズムに合わせて体を揺らし、興奮をあらわにしている。アリアの歌声は、人々の心を掴み、熱狂の渦へと巻き込んでいく。
(アリアの心の声:)
「…違う…これは、私の歌じゃない。」
これは、本当に彼女が歌うべき歌なのだろうか?
「もっと!もっと! テメェらの魂を、オレに叩きつけろ!」
アリアは、さらに声を張り上げた。観客の興奮が、彼女の肌を刺す。
(アリアの心の声:)
「…でも、私が歌わなければ、この街は…」
アリアは、自分の歌声が、ノアⅣの力になっていることを知っている。彼女が歌うことで、ノアⅣは、闘技場での勝利を重ね、資源を獲得している。彼女が歌うのを止めてしまえば、この街は、どうなってしまうのだろうか。
アリアは、ステージを降り、楽屋へと向かった。その足取りは、重く、どこか疲れているようだった。
楽屋に戻ると、彼女は、窓の外を見た。そこには、煌びやかなネオンサインが輝き、人々の笑顔が溢れていた。彼女の歌声が、この街を支えている。
(アリアの心の声:)
「…私は、歌い続けるしかない。」
たとえ、それが、自分の望む歌でなくても。
歌姫としての使命。
自分の心を押し殺し、アリアは歌い続けることを決めた。