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星装機ヴァルキリア 〜最強の黒騎士は、歌姫の愛で未来を視る〜  作者: homare


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それぞれの決意

 クリスタル・ドームの一室。普段はアリアがステージ衣装をまとい、その歌声で観客を魅了する準備を行う空間だが、今は静寂に包まれていた。簡素だが清潔に保たれたその部屋は、アリアの純粋な心を反映しているかのようだった。窓から差し込む光が、部屋の中心で佇むアリアを照らし出す。彼女は、静かに、そして決意を込めて、窓の外を見つめていた。


(私の歌は…本当に、誰かの力になっているのだろうか…)


 昨日までの彼女ならば、その問いに、確信を持って答えることはできなかっただろう。クリスタル・ドームでのライブ。それは、人々の闘争心を煽る、虚飾に満ちたパフォーマンスに過ぎなかった。彼女自身も、そのことを心のどこかで感じながら、使命感という名の鎖に繋がれ、歌い続けてきたのだ。


 しかし、今は違う。彼女の歌声は、確実に、カイトの心を救った。彼女は、カイトを通して、歌の本当の意味を知ったのだ。


(カイトさんの苦しみを、少しでも和らげたい…カイトさんの力になりたい… 私の歌は、きっと、何かできる…)


 アリアの脳裏に、数時間前にイザベラから告げられた言葉が蘇る。


(回想)イザベラ「…アリア、バルキリアを暴走させたのは、カイトから流れ込む怒りと悲しみの旋律。ノイズに耐えきれなくなったカイトは、飲み込まれそうになっていたけれど、それを止めたのは、あなたの歌声だったわ。あなたの歌声が暴走を止めたの」

(回想)「それと…今回のリベリオンと戦う蒼斗は、どこか焦っているようだったわ。今回はあの子を止めてあげてほしいの」

(回想)アリア「私がですか」

(回想)イザベラ「ええ。カイトの隣で歌うことができるのは、世界でただ一人あなただけだから」


 アリアは窓から差し込む光を浴びて、ぎゅっと拳を握りしめた。


(もう迷わない。逃げたりしない。 私の歌は、カイトさんを救うことができる。だから… 私は、歌う。力の限り、歌い続ける…)


 そんなアリアとは対照的に、下層区の片隅に位置する、薄暗いメンテナンスドックでは、カイトが、愛機ベオウルフ・リベリオンの最終調整を行っていた。無機質な空間には、オイルと金属の匂いが充満し、重苦しい空気が漂っている。


 ユキは、その様子を、ただ見守ることしかできない。彼女は、イザベラの研究室で、カイトの過去、そして、ディーバシステムの真実を知ってしまったのだ。


(回想)ユキは椅子に座り、イザベラの説明に耳を傾ける。

(回想)イザベラ「バルキリアのオリジナルディーバはカイトの心の奥深くにある欲望をエネルギーに変えているようだわ。それはカイトにとって耐え難い苦痛なの。システムにエネルギーを吸われてバルキリアは強くなる。その間、カイトは時間が止まったような世界で苦痛を乗り越えて戦っているんだから。」


 ユキの心臓が、激しく鼓動する。


(回想)ユキ「そんな…!」

(回想)イザベラ「知っての通り、私達が作ったDIVAⅢには、リミッターがある。負荷は少ないはず。だけど、このシステムはまだまだ調整がうまくいっていない、本当に怖いのは、もしリミッターが外れてしまったら…。」


 今目の前で、カイトを支えているユキは、何も知らないあどけない少女ではない。カイトの辛さ、カイトの強さ、カイトの過去、そのすべてを理解している。


 迫り来る運命の荒波、その激流にのまれそうになっているのは、紛れもなくカイト自身なのだ。


 ユキ「……カイト。今日も、その…気をつけて。無理しないで。」

 カイトは振り返り、優しく微笑む。「ああ」

 ユキ「カイトがいなくなったら…」


 本音をこぼしてしまいそうになるが、グッとこらえて、それ以上の言葉は飲み込んだ。心配だから行かないで欲しいなんて、言えるはずがない。


 わかっているから。


 行ってきます、と小さく呟いて、静かに敬礼。


 別れを告げると、カイトはコックピットに乗り込む。

 その瞬間、ユキの脳裏に、カイトが、かつて語った言葉が蘇った。


(回想)『俺にとって、機体に乗るってことは、生きている証なんだ。』


 ユキは、その言葉の意味を、深く噛み締めた。カイトは、戦うことによって、自らの存在を証明し、生きる意味を見出している。たとえ、それが、どんなに苦しい道であろうとも、カイトにはそれしかできないのだ。


 空へと繋がるエレベーターが、ゆっくりと上昇し始める。

 ユキは、祈るように、カイトを見送った。


(カイト。あなたを信じている。だから、どうか、生きて帰ってきて…!)


 激戦の火蓋が今、まさに切られようとしていた。


 運命の糸に操られるように、少年と少女は、それぞれの場所で、それぞれの決意を胸に抱く。そして、その糸を操るのは――。

 狂気の科学者か、それとも、運命の女神か。

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