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【最強ロボ×歌姫】星装機ヴァルキリア 戦場で未来を視る無敗の黒騎士も、二人のヒロインの猛アピールは予測不能らしい〜  作者: 如月 煉


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『仮面舞踏の裏側で、星々が笑う』 〜英雄に押し寄せる恋の乱気流(美少女たちの猛アピール)!? そして『悪魔の正体』に気付いた天才メカニックは、【孤軍奮闘(ハッキング)】を開始する〜

こんにちは、如月煉です!

激しい死闘が一段落し、今回はキャラクターたちの心境の変化を描く日常パートとなります。

アリーナで死線を潜り抜け、敵同士だった彼らが次第に「チーム(同じ星の民)」としての絆を深めていくシーンです。アリアも、引っ込み思案な自分を脱ぎ捨てて頑張って一歩前に出ます。

けれど……! この幸せな時間の地下では、カイトの精神を確実に喰らい殺すための、文字通りの『悪魔』が、嘘の装甲を被されて準備されていました。

誰がこの最悪なシステムを止めるのか。怒れる「宇宙一のメカニック」の底力をお楽しみください!


「おいイザベラ、お持ち帰りだ。アタシらの新しい『武器庫パートナー』の顔を見てくれよ。」


 ノアⅣ最上層部。完全防音と最新鋭のセキュリティに守られた研究局長専用ラボの扉を、派手な電子音と共に蹴り開けたのは、真紅のレザージャケットを羽織ったセレーナ・ルナールだった。

 彼女は後ろ手に引いていた「それ」を、白衣姿のまま優雅に赤ワインを揺らすイザベラの前に乱暴に突き出した。


「ふぎゃっ!」

 カエルが潰れたような声を出してカーペットの上に転がったのは、ダボダボの薄汚れた上着を着た小柄な少女——ノアⅧの路地裏でセレーナが拾い上げた孤児、『ロア』だった。

 泥だらけの顔。伸び放題で目元を隠すボサボサの黒髪。何よりもひどいのは、ラボ中に漂い始めたドブと雨水が混ざったような悪臭である。


「……あらあら。」

 イザベラは眉ひとつ動かさず、むしろ最高に面白い実験動物モルモットを見つけたかのように、翠玉の瞳をキラキラと輝かせた。

「泥に塗れたネズミかと思えば、強烈に飢えた獣のエーテルを持っているのね。随分と可愛いじゃないの、セレーナ。」


「可愛くはねえよ。ただの野生の弾薬庫だ。」

 セレーナが鼻を鳴らす。

「でも、こいつの『声』は本物だ。……腹の底から、血をたぎらせてくれるバケモノの音が出る。お前の作ったあの『システム』なら、こいつの声ごとアタシのコアの出力に変換できるだろ?」


「もちろんよ。私の技術(DIVAシステム)は、魂の摩擦熱さえも極上のエネルギーに変換してみせるわ。」

 イザベラはグラスを置き、床に転がるロアの前に優雅にしゃがみ込んだ。


「さ、立って頂戴、お嬢さん。」

「あ、あんたら……私を売るの……? 高くは売れないよ、私はただ……」

 ロアがガタガタと震えながら警戒して睨みつけてくる。だが、イザベラは天使のような微笑みを浮かべたまま、ロアの泥だらけの頬を長い指で優しく撫でた。


「いいえ。貴女を世界で一番美しいドレスを着た『女神』にしてあげるの。……おいしいご飯と引き換えにね。」


 その言葉の魔力に、ロアの喉が大きくゴクリと鳴った。


 それからの数日間、イザベラのラボに併設された生活区画は、かつてないほどに騒々しく、そしてどこか滑稽で温かな空気に包まれていた。

 ロアはとにかく底なしの食欲を見せた。配給の合成ペーストなどではなく、富裕層にしか許されない人工肉のステーキやクリームシチューを「うめぇ、うめぇよォッ!」と泣きながら腹に詰め込み、満腹になると、途端に部屋の中を野生の猿のように飛び回った。


「ちっ……てめぇ! 食ったら休む前にボイトレに行けっつっただろ!」

「えーー!? またあのでっかい箱ん中でアーアー言うのかよぉ! 眠いのに!」

「叩き起こしてやろうか!」


 逃げ回るロアをセレーナが首根っこを捕まえて防音ブースに放り込む。

 やんちゃ盛りの小動物と、物理で制圧しようとする粗野な姉。


 ソファでタブレットを操作しながらその光景を見ていたイザベラは、思わず「ふふっ」と肩を揺らして笑みをこぼしていた。

 狂気の研究にしか没頭していなかった冷たい空虚な空間が、少しだけ騒がしく、生き生きとしている。

 イザベラの脳裏に重なったのは、月面コロニーで共に育った兄リゲルと、親友だったミコト(ラプラス)との日々だった。怒ったり、不満を言いながらも、確実にそこには一つの居場所の「輪」があったのだ。


(そうね……私に人のぬくもりを与えてくれたのは、いつだって彼らだった。)

 少しの感傷。けれど、それは自分の信念を揺るがすものではなく、あの頃を取り戻したいという計画へのさらなる原動力スパイスとなった。


「——さて、セレーナ。」

 疲れ果ててソファで爆睡しているロアを毛布でくるんだ後、イザベラはワイングラスを手にセレーナへ向けて本題を切り出した。


「お披露目の日は近いわ。ノアのトップパイロットたちを一同に集結させる特別興行『プレ星歌祭(交流戦)』。そこに貴方たちもエントリーする。」

「待ちに待ったお祭りじゃねえか。最高の機体で、全員ブチ殺してやるよ。」

「ええ、でも一つ条件があるわ。」


 イザベラは妖しく瞳を細め、一本の指を立てた。

「身元を隠すこと。クリムゾンロードの真っ赤な装甲にダミーの重装甲パーツを被せて、『謎の傭兵ヴァンキッシャー』として偽装出場してもらうわ。……それに伴って、貴方の得意な『空間転移シフト』能力の使用も、最後のターゲット……カイトに辿り着くまでは【禁止】よ。」


「はぁッ!? あの鈍重な亀の甲羅を着て、能力もナシでどうやって勝ち上がれってんだ!」


「貴方の戦闘センスと反射速度なら、ハリボテを着た状態での肉弾戦でも勝ち上がれると計算しているわ。」

 イザベラは余裕たっぷりに笑う。「すべてはメインディッシュである『黒騎士』を本気で驚かせ、彼から最高の限界データを抽出するためよ。それに……そのお転婆な歌姫とDIVAシステムを通して初めて波長を合わせるんだもの。機能制限をつけておかないと、システムの相互反発ハレーションで、貴方の脳が焼け切れてしまうわよ。」


「……チッ。言うじゃねえか。まあいい、首に巻かれた鎖が重てえ方が、千切った時の快感もデカいってもんだ。」

 セレーナは闘争本能をギラつかせながら首の骨をゴキリと鳴らし、魔女の遊戯への参加を受け入れた。





 それから数日後。ノアⅣの上層、統治軍本部の中枢ブリーフィングルーム。

 広々としたマホガニーの円卓を囲むのは、今回の防衛任務で主核をなすことになった4人のパイロットたちだ。


「……以上が、今回軍の威信をかけて開催する『特別交流トーナメント(プレ星歌祭)』の概要だ。」


 スクリーンを用いて状況を説明していたのは、軍事局の作戦本部長である初老の男性。胸に輝かしい勲章を提げた、重々しい雰囲気を持つ将校だ。彼こそ、アサルト・ヴァンガードのパイロット、リシェル・バートン中尉の実の父親——アーサー・バートンであった。


「他都市ノアからの特使という名目で、正体不明の腕利きたちが多数エントリーしてきている。我々はホストとして、断じてノアⅣの覇権トップの座を譲るわけにはいかない。」


 バートン作戦部長は、集まった四人……橘蒼斗、バルト、リシェル、そして正規軍の所属ではないにもかかわらず今回特別にイザベラの強い推薦(強制)で選出されたカイトを、順に厳しい目で見渡した。


「そこで、君たちにはノアⅣを代表する四つの槍として、確実に勝ち進んでもらう。技術局のイザベラ主任からの申し入れと、軍上層部での総合的判断により、君たちを選出した。」


「御期待に添えるよう、全力を尽くす所存です。長官。」

 橘 蒼斗が、完璧に整えられた軍服の背筋を伸ばし、迷いのない敬礼を見せた。それに続き、バルトやリシェルも無言で頷く。

 カイトだけは無表情のまま、「ああ」と低く一言返すのみだったが、彼らの間に流れる不思議と張り詰めた「チーム感」に、アーサーも満足げに頷いた。


「では、会議はこれで終了とする。各自、整備を怠らんように。」


 立ち上がりかけたアーサー・バートンだったが、不意に足元を止め、自席の真横に立っていたリシェルへと少し視線を落とした。軍人としての鋭い目がスッと和らぎ、どこにでもいるような心配性の「父親」の顔つきへと変わる。


「……頼んだぞ、リシェル。お前は少し前の戦闘から、無理ばかりしている。肩の傷もまだ完全に癒えてはおらんだろう。パパは、お前が怪我をしないかと心配で——」


「さ、作戦部長!」


 ピシィッ! と空気を斬るようなリシェルの大声が響いた。

 顔を耳の裏まで真っ赤に染め上げ、周囲にいるバルトやカイトたちの目をめちゃくちゃに気にしながら、リシェルは慌ててアーサーの言葉を遮った。


「今は軍務中であり神聖なブリーフィングルームです! 階級の壁を越えた、私情を挟むようなお声掛けはご遠慮くださいッ!」


「む……そ、そうだな。うむ。すまんバートン中尉。……無理だけはするなよ。」


 少しシュンと肩を落として部屋から退室していく父親の広い背中を見送った後、リシェルは大きなため息をつきながら椅子にドサリと座り直した。


「ははっ、相変わらず過保護だねぇ。立派なオヤジ殿じゃないの。」

 バルトが意地悪に笑って肩をすくめる。

「うるさいバルト。アタシはもう子供じゃないんだから……恥ずかしいったらありゃしないわ。」


 プイと顔を背ける彼女の頬はまだ微かに赤い。

 カイトはそのやり取りを見て、なぜだか心がふっと軽くなるのを感じていた。殺伐とした戦闘集団だと思っていた軍の中にすら、普通の「親子の愛情」がある。その当たり前の光景が、家族を失い心を凍らせてきた彼の魂の凝りを少しだけ解いていた。


 そのカイトの前へ、コツンと革靴を鳴らして進み出てきた男がいた。

 橘 蒼斗だ。

 あの日、プレッシャーに苛まれ、狂気の装置リミット・デストロイヤーを押して自我を崩壊させかけた、ノアⅣの最高エリート。

 その顔に、あの時の弱々しい焦燥感はない。しかし、かつてのような虚勢に満ちた余裕もなかった。


「……カイト、先輩。」


 蒼斗の声は硬かった。彼にとって、カイトは憎むべき不審な闖入者ライバルから、自分を狂気の中から無傷で救い出してくれた恩人(圧倒的な格上)へと評価が変わっていたからだ。

 複雑だ。あの屈辱的な敗北と、彼に見せられた別次元の力。だが、己の弱さを直視し、すべてを受け入れた青年の目は、濁りひとつなく真っ直ぐだった。


「あの時、僕を救ってくれたこと……本当に、感謝している。君と、アリアさんの歌に。」

 蒼斗は、プライドを曲げてカイトに向かって深々と頭を下げた。バルトとリシェルが驚いたように息を呑む。


「だが。」

 顔を上げた蒼斗の眼差しは、冷たく静かに燃えていた。

「僕はまだ、パイロットとしての『橘 蒼斗』の負けを認めてはいません。僕はあの空でエマの歌を守らなきゃならない。もしプレ星歌祭のトーナメントで僕らが相対するなら……次こそは必ず、僕の全力で貴方を叩き落としてみせます。」


 己のエリートとしての仮面を剥ぎ取り、一人の剥き出しのパイロットとしてぶつけた意地。

 その真っ直ぐで不器用な戦宣告を前にして。

 カイトの瞳にも、静かな歓喜の火花が散った。

 強大なトラウマではなく、「闘いを通じて生み出される意志のやり取り」。


「……いいだろう。全力でこい。」

 カイトは低く、平坦に、しかしどこか口角を上げて返した。


「へっ、やっぱり熱くなるのはこうでなきゃなぁ!」バルトが二人の肩をバーンと叩く。

 敵ではなく、誇りをかけてぶつかり合うチームメイト(ライバル)同士としての強い結びつき。ブリーフィングルームの空気が完全に一つの輪になった瞬間だった。


 ——ガチャッ。


「お疲れ様でしたーっ! あ、みんなまだいた!」


 空気が一つにまとまった途端、突然のドアの開く音と共に、数名の華やかな少女たちがどやどやとなだれ込んで来た。軍事用の無機質な部屋の匂いが、一瞬にして様々な花のような香りに包まれる。

 今回の戦いでパートナーを務める、5人の歌姫たちの合流だ。


「バルト! 肩、ちゃんと湿布変えたの?」

 普段は物静かな**シアン**が、有無を言わさぬ空気で大男の巨躯を見上げている。

「あ、おう。ばっちりだ……お前も無理して声出しすぎるなよ?」


「リシェル様、今日のご報告拝見しました。お疲れのところですが、あのフォーメーションの改良案がありまして……。」

 **カエデ**が和風の所作で素早く端末を広げ、真剣な眼差しで話し込み始める。


「あっ! 蒼斗さぁぁぁぁん!!」


 ツインテールを振り回し、顔をパッと明るくさせた**エマ**が蒼斗に一直線に駆け寄り、そのまま抱き着きそうな距離で上目遣いをする。

「エマ。今日も訓練お疲れ様。大丈夫だったかい?」

 優しく声をかける蒼斗の様子に、ついさっきまでのエリートの尖った雰囲気は霧散し、ただの優しげなイケメンへと変貌している。


 その中で、唯一契約した相手のいない『お目付け役』兼、フリーランスで戦況に直接カットインを仕掛けていた二人の歌姫がいた。**ユナ**と**アリア**だ。


 先日の大乱戦——暴走した蒼斗を救出するために、5人の歌姫が一丸となって通信をジャックした一件で、軍に所属していないカイトは、少女たちから一種の「特別で凄いヤバい男」という熱狂的な興味の対象になっていた。


「へえ、これが間近で見る噂の黒騎士さん。」


 高いヒールを鳴らして、ユナが遠慮なくカイトの目の前まで歩いてきた。紫の髪を揺らしながら、まるで値踏みするように彼の顔をジロジロと眺める。

「ちょっと近寄りがたいけど、あの異常な回避運動……どんな反射神経してたらできるのよ? 私たちの無茶苦茶なバックアップにも全く潰れないし。」


「そ、そうですよ! カイトさんあの時すっごい速さでした!」エマも興味津々で蒼斗の後ろから顔を出す。「なんか特別な特訓とかしてるんですか!?」

「あのアックスの一振りは神々しささえありましたね。私のシャウトに合わせてぜひまた一緒に——」カエデも乗り出してくる。


「な、なんだお前ら……?」


 先ほどまでの蒼斗に対する冷静さはどこへやら。女の子、しかもアリーナを席巻する美少女トップ・ディーバたちに一斉に囲まれてキラキラとした目で質問攻めにされたカイトは、言葉に詰まってオロオロと後退った。

 彼のような孤独で影のあるタイプは、ただでさえ女性という不可解な生き物の圧量に対する「防御プログラム」が全く実装されていないのだ。


 そんな『沈黙の黒騎士タジタジ現象』を、背後の通路からギリッ!と睨んでいる人物がいた。

 白のワンピースを着込み、両手にカイト用のサンドイッチなどを入れたエコバッグを抱えた、トップディーバの**アリア**である。


(なっ、みんなして一斉に群がって! 私ですらあんな近くでお話ししたこと少ないのに!)


 心臓が嫌な音で爆音を鳴らしている。

 あの凄惨な記憶の中からカイトを救い出したのは私。彼が戦場の光の中にいられるよう、その横顔を隣でずっと見続けてきたのは私だ。誰かに『特別扱い』を譲るつもりは、一ミリたりともない!


「ち、ちょっと失礼しますね、皆さんっ!!」


 アリアは自分でも驚くような勢いで小走りで駆け寄ると、文字通り、ユナとエマの間の「空間を無理やりかき分け」、カイトの眼の前、一番距離の近い真横のベストポジションにズバァッと強行突入を果たした。


「か、カイトさんは! 今日はもう連戦のダメージと実験のお疲れで喉も乾いてるはずなんです! これ以上余計な気を使わせないでください!」


 アリアはそうまくし立てながら、保温機能のある上質なタンブラーを鞄から取り出し、勢いよくカイトに両手で差し出した。

「ほら、カイトさん! あ、温かいスポーツドリンクです! あまり刺激は良くないからカフェインは抑えめで作ってきましたから、ゆっくり飲んでくださいね!」


 それはもう、有無を言わさない完璧なまでの「この人の世話(管理)をしてるのは私ですからオーラ」の放射だった。


「え? ……あ、ああ。すまないな。」

 気迫に圧倒されたカイトは、完全に逆らうこともできず、差し出されたボトルを大人しく受け取った。

 周囲で様子を見ていたユナやカエデたちが、面白そうに顔を見合わせてクスクスと肩を揺らす。アリアの「他の誰にも取られたくない」という独占欲があまりに素直に顔に出すぎていて、分かりやすすぎたのだ。


「あらら、お姫様からの専属補給とは。アリーナ最強の黒騎士様も、あの可愛い猛チャージの前には為す術なしか。羨ましいこって。」

 バルトが意地悪そうにニヤニヤと笑い、リシェルも「若いっていいわねえ」と息を吐く。


「なっ……! ち、ちが、そんな私情を挟んでるわけじゃ! 戦闘データのためのケアの一環であって……!」


 今更になって顔から火が出そうになり、エコバッグで自分の赤い顔を隠すアリア。その恥じらいとカイトの混乱した様子が、軍事区画の堅苦しいブリーフィングルームを、まるで学園祭の準備前のような温かくて朗らかな喧騒で包み込んでいった。





 しかし。

 上層の光が届かない、地下最深部の『第8整備ドック』では。


「……やっぱり、何度調べてもおかしい。」


 作業用PCと何本ものデータ用光ファイバー・ケーブルが蛇のように這い回る暗がりの中、たった一人残って機体のシステムログを洗い直していたユキは、ホロ・モニターの数字の羅列を見て奥歯を激しく食いしばっていた。


「外装は、確かに『ベオウルフ』。イザベラさんは、内部パーツの駆動系を新しいものに置き換えたと言ったけど。……内部の基本骨格メインマテリアルの質量比率、フレームの熱伝導異常。すべてが、かつて私が一瞬だけ見たあの白い機体と同じ構成に酷似してる。」


 ユキの握りしめたタッチペンの画面にひびが入る。


「……中身を全部すり替えて、皮だけを被せた、紛れもない『ヴァルキリア』の身体。……それが、今のこの機体の正体。」


 イザベラは大嘘をついていた。カイトを最も恐ろしい機体の「極限データの取得用モルモット」にするために、危険のない新システム(DIVAⅢ)だと言いくるめ、再び彼の心(魂)を食べる悪魔を、彼自身の座る操縦席の下へ隠して握らせているのだ。


「あの人が考えていることなんて、狂ってて理解したくもない。今これを上の連中に言っても握りつぶされるし、アリアちゃんに伝えて変なショックを与えさせたくもない。……そして何より、カイトは、もし真実を知ったとしても……もっと強い力を得るためなら絶対に乗る道を選んでしまう。」


 誰より彼をわかっている。だからこそ、自分の口からは止められないのだと痛いほどに悟っている。

 ならば、自分がメカニックとして裏から防波堤になるしかないのだ。


「……いいよ、イザベラさん。アンタが私をバカにしてカイトの精神を削り潰してやろうとしてるなら。」


 ユキは工具箱から大量の精密な制御基板と半導体チップを引き出し、自分の目を休ませることもなく、血の滲むようなタイピング速度で『機体の心臓コアと脳を隔離するための独自の分厚いファイアウォール・リミッターコード』を徹夜で編み込み始めた。


「……アンタの狂ったシナリオ(プロット)なんて、私が作った裏コマンドでズタズタに書き換えてやる。」


 カイトが神や悪魔の領域に堕ちるその前に。幼馴染である自分が物理的に彼を守る絶対的なブレーキを完成させてみせる。


 薄暗いガレージに、機械と心を通わせる不屈の整備士の、小さなキーボードの打撃音が夜通し響き続けるのだった。

 迫る未曾有の大熱戦の裏側で、全てを守り抜くための執念と祈りの攻防が、もう既に始まっていた。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!如月煉です。

いかがだったでしょうか。蒼斗の人間らしさが垣間見えたり、アリアが勇気を出してユナ達を押しのけてカイトを死守しにきたりと、微笑ましい時間でした。……が!

イザベラの仕組んだ【中身が完全なヴァルキリアへのすり替え(外装だけベオウルフ)】というとんでもない鬼畜計画に気付いたユキ。誰にも言えず、カイト本人の意思を止めることもできず、ならば「私が力技(プログラム改変)でこの機体の牙を全部削り落としてカイトを守り切ってやる!」という凄まじい覚悟の夜。

ヒロインそれぞれの戦い方があって、書いていて胸が熱くなりました。

次回の熱戦や、ユキ&アリアの頑張りを少しでも「応援したい!」「先が気になる!」と思っていただけましたら……

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