プロローグ 二章
書き溜めていた小説です。
一巻分あります。
かなり頑張って書いたつもりです。
どうかブックマークして、読んでいただけると嬉しいです。
一様言っておきますが、月曜日と金曜日を除いた毎日更新です。
二章に入りました。ここから本編スタートだと思って下さい。
【後悔しなかった道を選んでも、きっと後悔する】
いくつの頃だったか……。
覚えているのは窓ガラスがカラカラと騒音を奏でていた日のこと。
雨天だからと仕事を中断してくると思っていたのに両親がなかなか帰ってこなかった。
鍵が開く音で玄関前に向かうと、父はずぶ濡れになっていた。
髪がぺたりと水分を含み、至る所から水滴が滴り落ちる。息は若干荒っぽく、鼻水を啜る音が苦しそうだった。
父は恐る恐る近づくオレを力強く抱き寄せた。頬に触れた指先が濡れた服より冷たく、僅かに震えている。
「——野良……お前は家族や友人、いや誰であろうと首の後ろのことを尋ねられる度に、なにを言っているのかわからないと答え続けろ」
戸惑うオレに、父はむせびながら言った。
なにを言っているのかわからなかったが、母がここにいないことや、珍しく弱っている姿から……疑問を呈することなどできなかった。
「ごめん。ごめんなぁ」
謝る意味が分からない。でも、悲しくて苦しくて、絞り出すように溢れた言葉だった。
「お父さん……」
そういえば、この頃はまだ『親父』と呼んでいなかった。
外の世界の話をしたときや、美しいものを見たとき、必ずこの出来事を思いだす。
要塞を抜け出したときも……友人に目標を話したときも、そうだった。
これは一体、なんというのだろう……。
志楽野良、三歳。
昔のことは、あまり覚えていないけど。
このときだけは、この一瞬だけは覚えている。