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第6話 僅かな好奇心が若者を大人にさせられる

 書き溜めていた小説です。

 一巻分あります。

 かなり頑張って書いたつもりです。

 どうかブックマークして、読んでいただけると嬉しいです。

 あと、評価もして欲しい。。゜(゜´Д`゜)゜。


 因みに一章はこれで終わりです。

 正直二章から本編スタートです。

 

 4


「……来たみたいだ。乗りながら話そう」

 直人はオレの腕を掴み、抱き寄せるような体制で外付けのエレベーターに飛び乗った。

「おい、いきなりなんだよ!」

 驚くオレを無視して、更にそのまま壁際に身体を抑え付ける。困惑するオレを更に無視して壁面についたパネルを操作してエレベーターを起動させる。

 よく見ると、オレが背をぶつけた場所には開閉しそうな裂目があった。

「精密機器を埋め込まれた人間は要塞から一キロ以上離れるか、無理やり外そうとした場合に、内蔵されたエネルギーが放出されて首の脊髄を貫ら抜く。そして、チップを埋め込まれていない人間は敵として扱われ、この要塞から常に狙われ続けるんだ」

 ひとまず文句を言ってやりたい体制であるが、事情があるはずなので黙って耳を傾けておく。直人はそのまま手を外へ動かし、こちらに銃口を向けている機関銃を指差した。

「銃弾が発射されるのは住民に危害が及ぶときか、一度要塞に入った者がこうして外に出た場合。つまり、あれは今お前を撃ち殺すつもりで狙っている」

「撃たれない理由は直人が側にいるからってこと?」

「そうだ」

 先ほどから直人の抱きしめる力が強くなっている。心臓が大きな音を立てて脈打ち、これは色々な意味で恥ずかしい。

「これも護衛の人を使って調べたのか?」

「最後の一人は脱出するのに成功した。その後、どうなったかは知らないけどな」

「なんで、親父はこのことを話してくれなかったんだ」

 言いにくいことだと思うが、他の皆は当然ながら知っていたことだ。それに、どうして夜鶴から逃げるように脱出を始めたんだ……。

「ただ、お前に夢を持って欲しかっただけじゃないか? そもそもお前は顔に出やすいし、親父さんは過保護すぎるんだよ」

 直人は抱きついたまま、呆れるような声で答えた。

「そうだよな……いつまで馬鹿なままでいるんだろ……」

 腕にありったけの力を込めて頬を叩く。しゃがみ込みたくなるほどの激しい痛みに襲われた。

「……なにしてんだよ」

 直人は若干引いた顔でこちらを見る。

「ちょっと、気持ちの整理を付けようと思ってね」

「そうか……まぁ、やる気が出たならなによりだ」

 数分掛けて、エレベーターは地上に辿り着いた。周囲には様々な残骸が山のように散らばっており、住人が捨てた物が蓄積されている。電子機器や机などの大きな家内製品なんかも捨てられてまだまだ使えそうなものもあった。

「おぉー」

 オレは直人に引っ張られ、初めて地上の土を踏みしめる。要塞とは違って少し黄ばんだ地面は乾燥していて足がいつもより深く沈み込む。

「警戒は怠るなよ。運が悪けりゃ、流れ弾を喰らって俺もお陀仏だ」

 直人は再びオレを壁側に引き寄せて、リュックから赤く点滅した端末を落とす。

「……なんだそれ?」

「発信機。これを使って壁からの距離を測るんだ」

 なるほど。それでオレたちの位置がわかるのか。

「ここから先は俺がリュックを背負うから、お前は俺を背負え」

「なにそれ、結局両方ともオレが背負ってるじゃん。もしかして緊張を和ませようとしてる?」

「バカだろお前。今みたいに抱きつきながらだと移動しずらいだろ。それに体をリュックで隠せば狙いにくくなる」

「確かに良いかもしれないけど。俺への負担が半端なくね」

「こんなときでしか役に立たないんだから頑張れよ。嫌なら見捨てるけど?」

「分かったよ……」

 拒否権は最初からなかったので、オレは渋々請け負った。

 成人男性一人を背負うのは、精神的にも肉体的にもキツイ。

「股間が腰に当たって気持ち悪いんだが……」

「我慢しろ。俺も最悪の気分だ」

「もう少し身体を浮かせよ。あと以外とデカくない?」

「リュックが重過ぎて無理。よくこれを背負えたな」

「もっと辛くさせたお前が言うな!」

 ………………一…………七十……八百八十九……八百九十……八百九十一……。

「八百九十八メートル。ここだな」

「一キロないじゃん」

「四捨五入すれば一キロだろ」

「んで、こっからどうするんだ?」

「なんのためにスコップ持ってきたと思う」

「撃たれないように穴を掘るのか。すげぇ面倒臭い」

「最低でも二メートルは欲しいかな」

 直人はそう言いながら取り出したスコップをオレに手渡した。

「やっぱり、お前は手伝わないんだな」

「当然だ。俺はお前が撃たれないよう盾になることしかできない」

 直人はハンカチで目元を拭うふりをする。若干苛立ちを覚えながらも、オレは言われるがまま地面にスコップを挿し込んだ。持久力なら父にさえ負けたことがない。黙々と作業を進めていくと日差しが真上に登り、深さ三メートル幅一メートルほどの大穴が完成する。

「意外と早いじゃないか」

 直人は飛び降りると上から目線にそう言った。

「次はどうすればいいんだ?」

「後ろに壁を作りながら掘り進めろ。一定の距離を離れれば、お前はこの要塞から完全に存在が消える」

「生まれも育ちもここだぞ。そんなことあるのか?」

「住民権を与えられてない奴は要塞に標的としてしか認識されない。監視カメラで確認されない距離まで離れるとリセットされ、再び認識されたときは外部から侵入してきた人間として扱われる」

生まれ故郷なのに、土地には一度も認識されていなかったのか。なんか悲しいな。

「直人はどうするんだ。精密機器は付けたら外せないんだろ?」

「見てな」

 直人はポケットから万能ナイフを取り出して、自分の髪をばっさりと切り落とした。

「あああああああああっ! なにしてんのっ勿体ない!」

 せっかくの綺麗な髪が落ちていくのを見て、思わず叫んだ。

「うるさいなぁ。お前には分からんだろうが男に長髪はおかしいだよ」

「少なくとも直人は違うだろ! お前が男子トイレに入るのを目撃するまで、ずっと女だと思っていたんだぞ!」

「うわっ、きも」

 直人は顔を引き攣らせ、軽蔑の眼差しを向けてくる。

「レベルの高い女装キャラが、ただの女みたいな男になっちまった」

「俺がいつ女装した。……そんな女みたいか?」

「童顔だもん」

「そうか……うん、まぁいい。どうやって俺が脱出するかの話に戻すぞ」

 直人が首の後ろを見せると、分厚い皮みたいなものが数枚重なっていた。

「チップって、直接付けなくていいんだな」

 外したら死ぬって聞いてたのに案外なんとかなりそうじゃないか。

「精密機器が必要とするのは、後頭下筋群と呼ばれる首の後ろ部分だけだ。この機械がどうやってそれを認識しているのか分からないが、実験を繰り返して誤認させることには成功した」

「ちょ、ちょっと待って、じゃあその首についているのって……」

「さっき言った人の部位だよ」

 オレは背筋が凍りつくのを感じる。

「……誰の?」

「俺の護衛のだ。でも安心しろ、別に俺が殺したわけじゃない。脱出方法を探るために少し死体から拝借させてもらっただけだ」

 状況が状況だけにしたかないと言えばそうなのだが、平然と語る姿は常軌を逸している。オレがなにも言わなくなると、直人は頭を荒々しく掻きむしった。

「なんで俺が自分の首にチップをつけたと思う?」

「え?」

「お前が撃たれないのは、チップをつけた俺がそばにいたからだ。つまり、お前の父親に頼めば俺は一人でいつでもこの要塞から出られたんだ」

「じゃあ、直人は親父に頼まれて自分にチップを埋め込んだってこと?」

「八十点。その報酬は封筒の調査報告書。彼の調査記録が欲かったから、これを請け負った」

「そうか……」

「失望した?」

「いや、親父のこと全然知らなかったんだなって……」

「まだまだこれからだ。君の知らなかった世界は次々と増えていく」

「楽しみだなぁ」

 直人は変色した人皮を掴んで勢いよく引っ張った。

 瞬く間に皮はブチブチと剥がれ、彼の首から多量の血が溢れていた。

「大丈夫?」

「問題ない。骨まではいってない」

 精密機器から放たれた光が厚い皮を貫き、首には焼け爛れた炎症が残っていた。

 オレは目の前で起きた光景に茫然とするしかなかった。

 直人は痛みに耐えながら慣れた手つきで首に包帯を巻く。

もし、なにも対策をしないでチップを付けていたら呆気なく死んでいた。

「こっちはいいから、さっき説明したことを始めろ」

 直人は若干イラついた様子で言った。

 肉体労働しかできない自分を少し恨めしく思いながら、必死に腕を動かし続ける。計画通りに物事は進み、護衛の人の命と多くの人間関係を犠牲にして、オレたちはついに囚われの街からの脱出に成功した。

 外の世界からしたら、オレは二十二年間この要塞に囚われていた人なのだろう。

 自分が来た道を振り返り、ただの絶壁にしか見えない要塞を見上げて思う。

 ——本当に、ホールケーキみたいだ。

 直人はリュックから双眼鏡を取り出してオレに手渡した。

 最後に故郷を焼きつけておこうと注意深く覗き込む。要塞の周辺は全体的に廃棄物の山で囲まれており、壁がシャターのように開閉して新たなゴミが排出されている。壁面に設置された監視カメラや機関銃が体毛のようで、まるで巨大な生き物のようだった。

「……圧巻だな」

 始めて自分が住んでいた場所を直視した。

 双眼鏡を返そうとするも、直人は首を左右に振って「外周の縁を見てみろ」と言った。

 再び覗き込むと、そこには同じように双眼鏡を手にした男が立っていた。

 互いに視線があった気がすると、相手がこちらに向かって手を振ってきた。

「——別れの挨拶、したかったなぁ」

 男手一つで懸命に育ててくれた父親に、オレは心を込めて振り返した。

 相手が先に手を下ろすのを待っていると、親父は突然驚いたように体を弾ませる。

不思議に思いながら視線の先を追いかけ、親父に詰め寄ってく夜鶴の姿を発見した。

 彼女は親父が手にしていた双眼鏡を崖下に叩き落とし、酷く荒れた様子で地団駄を踏む。なにやら怒っているのが側で見てとれる。

 初めて見る光景に溢れ落ちそうになった涙は乾いてしまった。

「——どうだった?」直人は黙っているオレに首を傾げる。

言い争う二人を見て、意外にもほっとしていた。


「……なんか、スッキリしたよ」


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