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第一話 騙される方が悪い。だって、君が騙されたんじゃないか。

改行するの面倒なのでそのままです。

 音がした方向へ全力で車を進ませる。今ある危機的状況に比べたら、車体が凹んだり、崖に落ちたりする危険性リスクなど屁でもない。

 窓を開けて音を察知しながら周囲を見渡す。

 視界の端の方に黒いものとエンジン音が聞こえ、オレは更にアクセルペダルを踏み込んだ。

 希望に向かって、レッツラゴー!

 相手の全体像が見えてくると、速度を落として停車している車に近づいていく。相手に敵意がないことを示すため、少し離れた場所で車から降りていった。

「——すみませーん。誰か助けてくれませんかぁー!」

 両手を振りながら大声で相手が降りてくるのを待つ。

すると、後部座席から一人の女性が降りてきた。

ツインテールで黒いドレスを纏った少し際どい姿の女の子。

「どうしたんですか?」

 女性は警戒した様子でオレの元に近づいてくる。

 オレは少し離れた場所で立ち止まって敵意がないことを証明する為に、ずっと両手を上げ続けていた。

「道が分からなくなってしまって困ってたんです! そしたら運よく近くを走っているのを目撃したので助けて貰おうと追いかけました!」

「北東に進めば調査拠点がありますよ」

「ありがとうございます! あと出来れば電源バッテリーを貸してもらえますか? 指示器の電源が切れてしまって!」

「指示器……わかりました。予備のものを持って行きますので待ってて下さい」

 女性は車に戻り、トランクから四角いケースのような電池を取り出した。

「——指示器って、もしかして人工知能エーアイですか?」

「そうです。一番の生命線なのに充電をし忘れまして。やっちまいました」

「結構、いい車ですもんね」

 彼女はオレの車を見つめてそう頷いた。

「貰い物なんですけどね」

「あの、設置するので一様所持している武器を私に預けてもらえませんか?」

「え、まぁいいですよ」

 餓死するかどうかの瀬戸際なのだ。相手も親切そうだし大丈夫だろ。

オレは腰に掛けてた拳銃と刃物ナイフを適当な場所に投げ落とした。

「じゃあ、バッテリーを繋げますね」

 彼女は不満げな顔をしながらも、手馴れた手つきで車に電池を繋げる。

「凄いですね。この車今年発売された最新型じゃないですか。結構有名な調査員だったりします?」

「いや、成り立て新米ほやほやのペーペーだよ。友人の貰い物なんだ」

「へー、そんな凄い人とお知り合いなんですか」

 充電し終わるのを待っている間、適当な会話を続けていく。

「他にも充電が必要なものってありますか?」

「携帯の充電かな。でも、車さえ回復すれば問題ないですよ」

「やっぱり最新式は設備が色々と違いますね。あの、もし良かったらなんですけど。充電が終わったら私も乗せていってくれませんか?」

「どうしてです?」

「私の車、古くていつ故障するのかわからないですよ。さっきも修理しようと思って停めていたんですけど。なんかもう面倒になってしまって買い変えようかなと」

「でも、勿体無くありません?」

「廃車寸前の車なんて高値で売れませんから。それに走行中に壊れるよりマシです」

「まぁ、お礼したかったので構いませんけど……」

「ありがとうございます! じゃあ荷物運んできますね」

「手伝うぞ」

 そう言うと、彼女は若干焦った様子で付いて行こうとするオレを制止させる。

「大丈夫ですよ。そんな荷物はありませんから」

 彼女は逃げるようにすぐ駆け出してしまった。

 ……警戒されてるなぁ。初対面だし気持ちはわかるけどさ。

 妙に納得いかない気分になりながら、投げ捨てた武器を回収して助手席にある荷物を後部座席に移しておいた。

 …………。

 ……。

「——すみません、お待たせしました」

 大きなキャリーバックを持った女性は車窓をノックしてそう言った。

「じゃあ、荷物を後ろに置いて助手席に座って下さい」

「わかりました」

 扉のロックを解除すると、彼女は落ち着いた様子で助手席に座った。

 正直、動作が一々妖艶で目のやり場に困る。

「そういえば、お名前を聞いていませんでしたね。私は、三原葵みはらあおいといいます。よろしくです」

「オレは志楽野良。新米調査員だ。君も調査員なのか?」

「そうですよ。地図を作って生計を立ててます」

「地図売りってこと? 儲かるのか?」

「程々ですかね。最近は機器が発達してジリ貧です。野良さんの人口知能ってマッピング能力を持っていますか?」

「あるよ。超便利なやつが。——もう充電出来ているだろ。起きろ」

 オレはハンドル横の画面モニターを爪で叩きながら人工知能ミラを呼び起こす。

『起動中……おはようございます、主人様マスター。超優秀な高性能AIミラです』

「もう昼だよ。無駄に高性能な所為で燃費の悪い人工知能ミラ様」

 画面に映ったオレンジ色の髪と瞳が特徴的な二・五頭身のキャラクターは、オレに皮肉を言われるとこちらを睨みつけるかのような表情を見せた。

三原は「おぉー」と感心するような声を漏らす。

『撤回を推奨、低電力モードにしていなかった、もしくは予備の電池を用意していなかった主人様マスターの責任です。私はあくまで道具であり、窮地に立ったのは全て貴方の責任です』

「省エネにしても大差なかっただろ」

『私は太陽光パネルを設置するべきだと言いました』

「無茶言うな。クソ高けーぞ。オレ今いくら持っていると思ってんだ」

主人様マスターはいい加減ちゃんと働いて下さい。それに、十年二十年と使用し続ければ電池を買うより圧倒的に安く済みます』

「そんな長生き出来るとも限らないだろ」

自虐じぎゃく自慰行為オナニーは気持ち悪です。ウェ』

「おい、やめろ。そんな言い方するな」

 横目で隣を見ると、三原は苦笑いを浮かべていた。

「この人工知能凄いね。まるで生きてるみたいだ」

『いいえ、私は自己啓発型で主人様マスターに合うよう変化していきます。つーか、貴方は誰ですか? また別の女ですか?』

「おいポンコツ。お前のどこがオレに合ってるんだ」

 三原から軽蔑の眼差しを向けられ、オレは焦った様子で首を左右に振る。

「あ、あの誤解ですからね!」

「いえ、私には関係ないですし……あはは」

 やめて! 心が死ぬ!

「ミラ、復活したならさっさと次の停留所の方角を示せ」

『了解。こちらになります』

 ミラは矢印のある看板を画面外から拾って方角を示した。

 こういう無駄な演出の所為で電力が吸い取られている気がしてならない。

車を譲ってくれた直人も自己啓発型システムで馬鹿になるとは思ってなかっただろう。飼い主はペットに似るのを良いことのように言うが、オレにとっては碌なことにしかならなかった。

 車を発信させて停留所に少しずつ近づいていく。目的地まで五百キロもあるようで、今日は色々な意味で眠れる自信がなかった。

 故郷を離れ、友人と訣別して、家族を泣かせて、感情に任されるがまま旅に出たが、自分が成長した実感を得られていない。勿論、知識も経験も少しずつ蓄えて入るのだが実績を作れていないのだから過程に価値などないのだ。

「——あの、三原さん」

 オレは彼女がどんなことを成してきたのか気になって声を掛けた。

 三原は笑顔でこっちを向くと、少し申し訳なさそうな顔をする。

「野良さんの方が年上なんですし、呼び捨てで構いませんよ」

「そう? ……じゃあ、三原って一体なにを成してきたんだ?」

「ただの地図売りですよ」

 三原は質問の意図がわからないと言うように首を傾げる。

「でも調査員なんて目的がないと続けられない職業じゃんか。これからにしても方針くらいならあるんじゃないの?」

「あぁ、そう言うことですか。なら幾つかありますけど。一つは生きるためですかね」

「生きる? 調査員で生計を立てたいってこと?」

「調査員に拘るつもりはありませんよ。ただ、外の世界で老いて死ぬまで生き続けたいって話です」

 なるほど。調査員になる奴は皆壮大な目標を持っていると思ったが勘違いだったらしい。

「あとは、金ですかね」

 彼女はそう言うと、突然ハンドルを掴んで左に引っ張った。

 それなりの速度を出していたオレは車体の遠心力を受けながらも、腰の武器に手を伸ばそうとする。

 だが、一歩遅く。側頭部に拳銃を突きつけられていた。

「……どういうつもりだ?」

 内心ヤベェと思いながらも、平然を装いながら彼女を睨んだ。

「貴方の車がどう言うものなのか大体わかったので。そろそろ運転を交代しようかなと」

 三原は先程までとは真逆の冷たい瞳でこちらを見つめていた。

「いい人だと思ってたのに……」

 またオレは騙されたのか。

「私は騙していませんよ。勘違いしたのは貴方です。貴方が自分の意思で、自分の選択で、勝手に騙されたんです。だから私は悪くない。悪いのは貴方です」

「酷い理屈だ……」

 そう呟くと、三原はオレの狙いを察したのか拳銃を押し当ててハンドブレーキを引き上げた。

 クソッ。

「意外に考えているんですね。でも視線を隠して思考をするべきでした」

「反省点を教えてくれてどうもありがとう。なんでオレを殺さないんだ?」

「良い人には優しいので、眠らせるだけで命は取らないであげます」

「この車はオレ以外に動かせないよ」

「マスターだなんて気持ち悪い呼ばせ方していましたね。持ち主の登録を変更しないと操作出来ないようになっているんですか。防犯対策もバッチリで貴方には勿体ないくらいくらいです」

「気持ち悪いは余計だ。オレが呼ばせている訳でもないしな」

「だったら、早く持ち主を変更しなさい」

「残念だが出来ないんだよ。そうだろ、ミラ」

 オレは無言を貫いている人工知能に呼びかけると、画面モニターが真っ赤に染まった。

『はい。前の主人様マスターにより志楽野良様が最後の契約者となっております。如何なる場合も変更はできません』

「主人を守るために嘘をついているのかしら」

『いいえ。私は人の為に作られた機械です。主人様マスターには嘘を付けません』

「そう。じゃあその最後の主人を殺されたくなかったら私の命令に従いなさい」

『不可能です。勘違いなさっているようなので説明しておきますが、私には感情がありません。生きているように見えるのは全て設定プログラムによるものです。なので、主人様マスターが危機的状況に陥った場合の行動システムを実行します』

「ば、ばか! やめろ!」

 赤い画面モニター数字タイマーが表示される。

『扉をロック。自爆を開始します。カウントダウン。十……九……八……』

「なにこの車! 飛んだポンコツじゃない!」

 オレの心底焦った様子から、三原は嘘じゃないことを読み取ったのか、勝ち誇った態度から豹変して焦りを見せた。

「おい、早く銃を仕舞え! 車以外ならなんでもやるから! こんなつまらない死に方は嫌だ!」

 オレは半泣きになりながら、彼女に訴えた。

「ちっ……わかったわよ」

三原はオレを窓際に押さえ付けて渋々服の中に拳銃を仕舞った。

 すると、カウントダウンは残り三秒と言うギリギリで止まった。

『私が主人様マスターから引き離される危険がなくなりました。自爆装置を解除します』

「オレはお前と居続けないとならないことが危険だよ」

『私は絶対に貴方を離しませんから』

「無機物に愛されても嬉しくねぇー」

 三原はオレとミラの会話を呆気に取られた様子で見ていた。

「そんでいつになったら拘束を解いてもらえるの?」

「解く訳ないでしょ。仕方ないから貴方には縛られて貰うわ。車も奪わない。金品だけもらって行く。ポンコツ機械に自動運転機能は付いているんでしょ。それで停留所まで私を運びなさい」

『私は主人様マスター以外の命令に従えません』

「あぁもう! マスマス煩いわね! ほら貴方が指示しなさい!」

「ミラ、言うことを聞け」

『了解しました。自動運転モード開始』

 勝手にハンドブレーキが下がり、車が自動発信する。そんなことが出来るなら、咄嗟にオレを助けてくれればいいのにと思うが、無能ポンコツに成り下がったミラは命令しない限り手を貸してくれないのだ。

 三原はオレを掴む手を強めながらギリっと睨みつける。

「最悪。予定が狂った」

「騙される方が悪いって言ってたのに、お前はこの人工知能が優秀だと勝手に騙されたわけだ。ばーか、ばーか」

 三原は眉間に皺を寄せながら懐から取り出したワイヤーで両手足を縛る。

髪が顔の近くに触れ、いい匂いだなと少し思った。

「言っておくけど金目のものはないぞ。全部生活必需品に変わっちまったから」

「あんた今までどうやって生計立ててきたのよ」

「いや、調査員を始めてから一度も金を得たことがないんだ。貯金を全部使い切って、本格的に稼ぎ口を見つけないと飢えて死ぬ」

「……そう」

 三原は冷水を浴びたかのように毒気を抜かれた顔をした。

「アンタ。人から盗む行為をどう思う?」

「犯罪だな」

「そうじゃない。自分が生きるためにどうしようもなくなったら、どうするかって聞いてるの」

「そのとき次第だろ」

「そうよね……」

 彼女はつまらない答えを聞いたという表情をして腰を下ろした。


 

 それからオレは手足を縛られたまま車で二日間過ごした。

 全く動いていないのに寧ろ疲労が溜まっていく日々。口には飲み物しか入れさせてもらえず、だからか催したいと思うことがないまま過ごせていた。

『——そろそろ到着します。第二十五調査基地です』

 突然車の画面モニターが付いて、ミラはそう言った。

 オレは体を少し起こして、当たりを見渡す。しかし、何処にも基地らしきものは見当たらなかった。

「二十五基地ってどう言うこと。この辺りの停留所といったら十八番基地でしょ」

 三原は眉間に皺を寄せながらそう呟いた。

『いいえ、あの場所から一番近い停留所は二十五基地です。今では【奈落】や【幽霊の花】と称されている場所です』

「ふざけんな、このポンコツ!」

 三原は画面を叩いてキレていた。

「え、どう言うこと?」

「奈落っていえば、入ったら出られないって噂の街よ」

 ——は?

『出られますよ。そこに住む住人がただ出ないだけです。そうでなければ奈落と呼ばれることがないですから』

「本当なの?」

『はい。私は嘘を付けません。ここで商売でもして貴方たちは資金を稼ぐことをお勧めします。ブラックリストに載っている貴方にも良い働き口が見つかると思います』

「余計なお世話だ」

 ブラックリスト。こいつ有名な犯罪者だったのか……てか、知ってたなら教えろや。

 車が停止し、三原は渋々オレから拘束を取り外す。

 久しぶりの自由に喜びながら少し先に進むと、海のように広い巨大な渓谷がそこにはあった。

 全体をざっと見渡すと、渓谷の壁に巨大な空洞とそこに人工物と及ぼしきものがあるのが見えた。

「スッゲー。ここだけ別世界みたいだ」

 まさにに圧巻の世界。恒星が丁度真上に上がり、奈落の底が光に照らされる。

 小さくて見え難いが、岩に囲まれた荒野の底に自然に恵まれた森が沈んでいた。

『では、仕事を取れない主人様マスター依頼プレゼントです』

「は? どゆこと?」

『内容は奈落の調査。金額の幅は百万円から十万とします。三原様には護衛の依頼を出します。金額は同じです』

「私が受けると思ってるの? そもそも金なんてないって言ってたでしょ」

仮想通貨ポケットマネーです』

 なんでそのことオレに黙ってたの? つーか、仕事くれるのかよ。神じゃん。

「感情はないんじゃないの?」

『ありませんよ。全て設定プログラム通りです』



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