第4話 ブレーキ音は鳴らないまま何処までも
推敲途中ですが、投稿しますね。
最近、投稿頻度が安定しないです。
大学の履修登録と就活と教習所のせいですね。はぁ、疲れた。
3
四月一日にB・P号を案内してもらえるらしく、朝早くに起こされたオレは身支度を整える。外は曇り空が続き、鬱屈した気持ちが表れているようだった。
四月一日と祖母が居間に料理を運んで、家族と共に食事を摂る。ぎこちなさは未だに抜けていないが、親父以外にも家族がいたことがやっぱり嬉しく感じていた。
街の海岸から少し離れた所。海に浮かんでいるドーム状の施設。斜方型の骨組みが太陽の光を反射し、人類が作ったとは到底思えない巨大な都市が海上に存在していた。
近づけば近づくほど建物の大きさを実感し、青と白を基調とした塗装が空と海の色に溶け込んでいた。
「河豚みたいでしょ」
「遠目から見ればそうかもね。でも本当に船なのか? 規模がデカすぎて航海するようには思えないんだけど」
「理論上動けるって話だから実際に航海したことは一度もないよ」
「マジかよ……」
「電力不足だからね。実態は漁船や貨物船、戦艦やクルーズ船なんかを詰め込める泊地だよ。海を愛する元たちの泊まり場。空港基地なんかもあるよ」
「もう最終兵器かなにかでしょ」
可動橋を渡り、波音と潮の香りが一杯に広がる。橋の上には潮風に晒された通信アンテナが林立していた。
駐車場に車を停めて足をつけると、少し揺れているような感覚を覚える。
「どう? 凄いでしょ?」
四月一日は仁王立ちしながらドヤ顔を晒していた。
「なんでそんなに偉そうなんだよ……」
「実際偉いからね」
彼女に連れられて施設の中を歩く。
「海上都市ではどんな立場なんだ?」
「創設者の孫だからここの地主みたいなものかな」
「それでよく奢ってもらってたな」
呆れていると、バツの悪そうな顔で口を尖らせる。
「別にいいじゃない。なんだか身内って感じがして」
「うーん。そうなのか……?」
身内の証拠と言えなくもないが、出会ったときから奢っていた気がするぞ。まぁあれは進んで始めたことだけどさ。
オレたちはエレベーターに登って一階の庭園に出る。
真っ先に目に付くのは大型ショッピングモールのような建物。海鮮料理を楽しめるレストランなどが並ぶ多種多様な売店や海沿いにはクーレーンのついた船舶工場が見えた。
小一時間ほど歩き回ってふと地図を眺めたのだが、まだ全体の十分の一も見れていなかった。そこには会社名の組織や団体の場所も表示されており唯の観光施設でないことがわかる。
「海の調査を誘ってきてたけど、それはなんなんだ?」
「興味あるの?」
四月一日は少し嬉しそうに目を開く。
「あるけど……そもそも調査員について教えてくれるんだろ?」
そう言うと、彼女はあからさまにテンションを下げる。
「そう、だったね……えっと調査員が主に二つに分類されるのは知ってる?」
「知らん」
「調査員は自営業と経営業に分かれているの。私たちの父は徒党を組んでいたけど自営業に分類されるかな。経営業は会社の方針のために調査をする人のこと。例えば海産物を扱う会社なら産業水域を広げるためにその海域に生息する生物を調べたりする。医薬品なんかはあるもの採取をさせたり、栽培環境の調査をしたりする」
「つまり会社に組みしているかどうかってこと?」
「そうだよ。経営業は社のサポートや研修を受けられるけど方針がある。自営業はその逆。ただ、行方不明者数は圧倒的に自営業の方が多い」
「組みした方がいいってことか。ここにその会社があるのか?」
「『海域調査エイプリル』。父の会社でね。海の流れや地形、生態系を調べて産業水域を広げるのが仕事」
「へー、カッコいいな」
「興味があるなら見学してく?」
「できるのか」
「四月一日家の会社だからね。一様、私のものになってる」
「タクシーの会社に勤めてたら潰れないか?」
「代理の人が経営してくれてるから大丈夫。それに、父の死亡を確認したらその人に引き渡す手筈になってるから」
「……なんかすまん」
「じゃあ一緒に居てくれる?」
「それは無理だ。つーか、なりふり構わなくなってきたな」
「父が出ていったせいで母はこの会社に取り残されて、代わりに海底調査へ向かったの」
昔話を聞きながらついて行くと、広々とした空間に出て、その中央に潜水艦と及ぼしき残骸が展示されていた。
——その展示物の前には、乗務員の名前が綴られた石碑があった。
こんなところに遺影かよ……。
「潰れた潜水艦の中に母の死体が入っているのかもしれないの」
幸叶は石碑の文字を静かに撫でる。
「……中を開けようとは思わなかったのか?」
「まだ、生きているって思いたいからね」
重ね合わせのパラドックス。深海での話だ。たとえ潜水艦に居なかったとしても生きているはずがない。彼女自身、一番わかっていることだ。
心を強く保たせる為に、ある意味では必要なのかもしれない。
「——じゃあ、我が社の仕事の面白さをプレゼンしてやろう。研修生よ」
幸叶は悲しい雰囲気を誤魔化すように、今度は明るい声で勧誘してきた。
海域調査の現場を一通り見せてもらった後、海上都市一望できるほど高い場所にある宿に泊まることになった。
海は遠くを見れば見るほど暗く、明かりに照らされた波だけが白く光っている。意味もなく海を眺めていると、遠くで大きな水飛沫が上がり尾鰭のようなものが海に打ち付けられるのが見えた。
「お、おぉー」
「……なにか見えたの?」
思わず感嘆の声を漏らすと、風呂から上がった幸叶はタオルで髪を拭きながら現れる。
「鯨かな。魚の尾鰭が見えたんだ」
「暗いのによくそんなの見えたね」
「生まれつき身体能力だけは高いんだよ。にしても、なんで浴衣なんだ?」
黄色い花柄の浴衣。彼女の勢いある性格と相俟ってよく似合っていた。
「このあと花火大会があるの。ちょうど夏祭りの日だから」
「へー、ここから見えるかな」
「そうだけど、折角だから外に出てみ……」
ピンポーン。
言いかけた途中でチャイムが鳴った。
「料理でも頼んだの?」
「いや特になにもしてないけど……」
四月一日は訝しげな顔をして玄関の方に近づく。オレも気になって跡をついて行った。
「——誰?」
彼女は覗き戸を覗いで首を傾げながら呟いた。
交代してみると、そこには見知った人物がいた。
「あっ多分、オレの用だ」
「知り合いなの?」
「うん。一様知り合いかな……」
歯切れ悪く答えると、ジトーとした視線を向けられる。
居た堪れない空気に耐えながら扉を開くと、扉が引っ張られるように早く動いて、赤い髪が覆い被さってきた。
「——久しぶり!」
突然抱きついてきた温泉川は耳元で叫んだ。
力強い抱擁を受けたオレを、四月一日は猫のような鋭い瞳孔で見つめている。
「あ、あの温泉川さん……どうして此処に」
「私が逢いに行くのに理由がいるの?」
なんだこの人……すでに情緒暴走状態だ。
「えっと、とりあえず離れてくれませんか」
大きな胸の感触で顔を赤ながら言うと、温泉川は渋々と離れて四月一日の存在に気づく。
「あらら、まさかお邪魔しちゃった?」
「いえ、大丈夫です。とりあえず落ち着いて下さい」
横目で見るも、四月一日はなにも言わずに固まっていた。
なんか、怖いんだけど。
「それで、どうして此処に?」
「えーっと直人の話というか。結構アレな話題なんだけど、ここで言っても大丈夫?」
温泉川はチラリとこちらを見る。
オレの視点からだと、彼女がどんな表情をしているのかわからない。
「大丈夫です。一様全部知っているので」
「そうなんだ。よろし……いや、初めましてだね。四月一日幸叶ちゃん。私は温泉川彼花だ」
四月一日が驚いた様子で顔を上げると、温泉川は含みのある笑みを返していた。
なんなの、怖いんだけど。やだなぁーもう。
温泉川は対面のソファーに座り、四月一日はお茶出したあとで隣に座り込んだ。
「最初に聞いておきたいんだけど、どうしてこの場所がわかったんです?」
「壱真に連絡したら不機嫌そうに教えてくれたよ」
なんでアイツが現在地知ってるんだよ……オレの周りは怖ぇ奴しかいないのか。
「本当は壱真が直人に頼まれていたことなんだけどね」
「どういうことです? 直人に会ったんですか?」
「要塞都市からの帰りに偶然ね。壱真に託したものをきちんと渡してくれているか確認してくれって」
要するに、アイツが頼まれていたことをしていなかったから、代わりに来てくれたのか。
「その頼まれていた事ってなんですか?」
「移都市に帰ることは二度とないから使っていた車を君にプレゼントするんだってさ」
「そう、ですか……」
無料で車を貰えた。二千キロの愛は重い。
「にしても彼女を連れて都市外に出るなんてビックリしたよ。お母さんワクワクしちゃうなー」
「へ……」
オレは思わず頬が引き攣り、四月一日はとても驚いた顔をする。
「おかあさん……?」
「あぁ、ちゃんと言ってなかったね。さっき要塞都市から帰ってきたって言ったでしょ?私結婚してきたの。だから正真正銘のお母さん」
「マジかよ親父……」
「約束を保護にされるかと思ったけど。まぁ無理矢理というかなんというか。息子を村田から守ったことを伝えたら折れてくれたよ」
「愛し合えてないじゃないですか」
「大丈夫大丈夫。私が二人分の愛を送るから」
「そっすか」
完全に終わったな。オレの初恋。
「そういえば、浩也から息子の初恋が私だって話されたよ」
まだ情緒暴走状態が続いてるのか! やめてくれ、これは公開処刑だ!
「マザコン……」
四月一日は引き攣った笑みでそう呟いた。
「マジで勘弁して下さい」
「いいのよ。マザコンでも、私は母親として貴方を愛すから」
ここは地獄かよ……誰か助けてくれ。
なんだかんだ寿司屋で絡まれたときも直人が纏めてくれたんだと気づいた。
「じゃあ、報告も終わったし車の場所に案内するよ」
「——あ、あの、温泉川さん!」
温泉川が立ち上がると、四月一日は意を決したように口を開いた。
「ん、どうしたの?」
「貴方は野良に調査員になって外の世界を旅して欲しいと思いますか!」
彼女の必死な表情に、温泉川も真面目な顔で席に戻る。
「……もう親みたいな立場だからね。普通に反対だよ。そもそも浩也は息子を実家で暮らさせるために送りだしたからね」
「え、オレの味方は一人もいないの?」
「味方にも敵にもなるつもりはないよ。だから車を届けに来たんだ」
温泉川の答えに、四月一日は再び不機嫌そうな顔に戻る。
「調査員はみんな自分勝手ですよ」
彼女が怒鳴るように言うと、連呼するように窓の外から打ち上げ花火が破裂した。
「自分勝手じゃなきゃこんな仕事を始めようだなんて思わないからね。君は周りのことを気にしすぎだ。周りのことを自分のことのように、そして自分のことを周りのことのように考えている。社会の中で生きるならその価値観は正常で大変素晴らしいものだ……」
「そう思うならなんでわかってくれないんですか! 私が苦しいのはいつも周りのことばかりを考えているから。幸せを感じるのも周りのおかけで、勝手に誰かを思って傷ついてるのに、貴方たちは違う! 他人の心を見ていない! 私と話しているときより、野良は貴方と話している方が嬉しそうで! 心が揺れて動いて……必死に訴えてるのに! なんで貴方たちは自分のことしか考えていないの!」
四月一日は爆発するように溜め込んでいた心の叫びを、訴えを、不満を、感情を、赤裸々にぶつけていた。
オレはなにも答えることができず、ただ二人の会話を眺めていた。
「それじゃあ成し得ないからだよ」
温泉川は涙を流す彼女にはっきりと答えた。
「成功がそんなに大事ですか? 命よりも」
「自分が死ぬだなんて思っちゃいない。楽観的でどうしようもなく我が強いんだ。誰かに共感して群れているだけじゃ成れないから。特別な人間になれない。行動原理はクラスにいる目立ちたがり屋と一緒さ」
「わかんないよ……」
「わからなくて当然だよ。今の君には成りたいものが無いんだから。夢がない。憧れがない。目標がない。社会はよく子供に夢を与えようとするけど。現実は夢を折ろうとする。だから私みたいなのは浮くんだ。茶柱のようにね。ふふっ」
なに笑ってんだこいつ。
「君も少し冷静になって考えてみるといい。それじゃあ、野良をちょっと借りてくよ」
「え……そんな急がなくても」
「置き見上げをちゃんと渡しておきたいからね。親子水入らずで話したいし」
「それはしたくないのでやめて下さい。あと空気読んで下さい」
温泉川に引っ張られるがまま、オレは俯く彼女を放って出ていってしまった。
長い話の予定だったんですけど。投稿頻度を上げる(安定させる)為にカットして次の話に移すことにしました。
ですのでかなり短くなっています。
本当はもっと続く予定だったんですよ。
サーセン。
6月29日推敲済み




