プロローグ 六章
最終章です。
つまり、書き溜めていた一巻分がこれで終わります。
第六章 ブレーキ音は鳴らないまま何処までも
【ブレーキ音は鳴らないまま何処までも】
私が、嫌いなものは三つある。
一つは、満員電車で優先席に座る若者。
二つは、人を傷つけといて、自分が傷つかない人。
三つは、夢を追いかけることを美徳だという人。
私には恋人がいた。
愛していたかは、自分でもよく分からない。
でも、学校の屋上で彼から告白されたとき、なにがかが弾けるような気持ちになった。
初めてのデートで知った。彼の優しさ、気さくさ、全部覚えている。
忘れられるわけがない。忘れてしまえる筈がない。
本屋で買ってきた生物図鑑を開いて童心に返った私と、一緒に笑ってくれたあの人。語るたび。彼が知るたび。私の憧れが彼の夢になっていく。
「夢はいつか叶う」
「努力は報われる」
「なにも成し得ないのは途中で諦めたから」
世間を知らない私は、そんな無責任なことばかりを言った。
暇つぶしで始めたアルバイト。退屈で辞めようかなと思っていたとき、見慣れない風貌の男が視界に入った。すぐに、外から来た人間なんだと悟った。
生き物が好きだった。
なにかを喰らうために発達した顎。機動力よりも質量を優先した図体。欺瞞で、戦略的で、手先の器用な物たち。
彼らの在り方が、なによりも美しくて、愛おしい。
そんな風に生きたいと彼に話してしまったことが、——後悔の始まりだった。
お察しいただけたかと思いますが、最終章は万愚節幸叶の話です。
野良が都市に来て最初に知り合った相手。
お楽しみに!




