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第4話 ——人生は君が思っているより単純だ

 次で五章の最終話です。

 どうして誰も感想を書いてくれないのですかね。

 誹謗中傷を打つくらないなら、無くていいですけど。ハハッt!

 寂し(・ω・`)


 3


 電波塔の地下駐車場から一階へ上がり、エントランスホールに足を踏み入れる。

 外がずっと薄暗かったせいかLEDの照明が眩しく感じ、商業施設の前には人だかりが出来ている。すぐ隣の食品売場スーパーなんか店員が泣き叫んでしまうほどだった。

 店員が警察官である未來を見つけて必死に助けを求めていたが、彼女は「頑張ってー」と軽く応援エールを送るだけだった。

 階段を使って二階に登る。そこからは誰もおらず静寂と化していた。

「——なぁ、あんたはこれからどうなるんだ?」

「記憶の消去かスクラップといったところでしょう。折角の記録データがすべて消えてしまいます」

「死ぬってことか?」

「いいえ、違います。セーブデータが消えるようなものです」

「冗談を言ったりするんだし、感情があるんじゃないのか?」

「そう設定プログラムされているに過ぎません。なので、苦や幸せを感じていたとしても感情ではありません」

「意味がわからない」

 電波塔のメインデッキにはたった一人の警備員がエレベータの前にぽつんと立っているだけだった。

「……壱真の奴、どこが厳重な警備だよ」

「私が引きつけますので、貴方はエレベーターに乗ってください」

 未來は小声でそう言うと、警備員のおっさんの居場所に堂々と歩いていく。

「私、警視庁、公安部、未來誠です。電波塔に今回の爆破事件の容疑者が侵入していますので捜査にきました」

「は、容疑者?」

 警察手帳を見せたが、おっさんは彼女の髪色を見て訝しぶむ目を向ける。

「なので通してもらえませんか?」

「悪いが警察だろうがなんだろうが誰も通すなと言われている。帰ってくれ」

「それはできません。こっちもお仕事ですから」

「爆破事故からここを通った者はいないはずだ」

「その前から侵入している可能性がありますよね。通してもらわないと、共犯者として取り締まりますよ」

「やってみろ」

「私は嘘をつきませんからね」

 未來は手刀受けの構えを取り、警備員の顔に指先を突き刺す。

 後退りして手刀を避けた警備員は反撃に出るも、後ろに回り込まれて呆気なく両腕を拘束された。誘導(物理)で警備員が押さえつけられている間に、オレはこっそりとエレベーターに乗り込む。

「——お前、なにやってるんだ! おい警察、今誰かエレベータ内に入ってた!」

「はいはい。取り敢えず大人しくしてくださいねぇ。公務執行妨害ですよー」

「不法侵入者が目の前にいるだろうが! それでも警察かぁ!」

「これでもずっと前から警察です」

 未來は揚々とした態度で男に手錠をかけた。

オレは急いで閉じるボタンを押して此処から一番上の階層に進む。全面ガラス張りの窓からは真っ暗になった街を見下ろせて、廃墟のような景色が何処までも広がっていた。

 直人はこれからどんな罰を受けるのだろう。壱真に協力しといてなんだが、近づいていると思うと急に怖くなってきた。

 到着すると、警備員が数名見回りをしており、エレベーターに気づいた彼らは、一瞬戸惑った様子を見せた。

「誰だ……おい待てコラ!」

 駆けだすと、彼らは怒鳴り声を上げて追いかけてきた。

 三階から四階までの展望台エリアは階段で繋がっており、中心を囲むようにお土産屋やアイスクリーム店、写真撮影所、ゲームセンターといった様々な店が並んでいる。

 オレは追っ手を交わしながら直人が潜んでいそうな場所を手当たり次第に探し、十数分近く走り回っているうちに四階の端っこで関係者以外立ち入り禁止の看板が置かれたエレベーターを見つけた。

 その通り道を塞ぐように親父と同じくらいの図体を持った男が立っていた。

「なんだお前……爆破テロの犯人か?」

 男は不審なものを見る目を向けて立ち塞がる。

「さぁね。その犯人がこの上の階にいると思ったから探しているんだ」

 事情を説明するも男は表情を変えぬまま、こちらを押さえつけようと手を伸ばす。

 そのまま腕を掴み返して、追いかけて来ていた警備員に向かって投げ飛ばした。

「悪いけど。お前らとは鍛えられ方が違うんだ」

 押しつぶされた彼らに合掌して、オレは更に上の階に向かう。

 階数表示板には『五階・通信基地局』と書かれていた。

 五階に到着すると、目の前の廊下に職員と思われる人物が縛られた状態で転がっていた。

「——誰にやられた」

 口を塞いでいたガムテープを取り外す。

「……榮家だ」

 長い間放置され続けてきたのか男の声は酷く乾いていた。

「直人はどこにいる」

「あっちだ。非常口の作業通路」

「そうか。ありがとよ」

 オレは縄も解いてくれと懇願した男を放って駆け出していた。


 真っ暗な大展望台の上を、蛍光灯を頼りに進んでいく。

 ……こんなところに直人がいるのか?

 最近人を疑ってばかりだ。

 金属に滴る雨音が絶え間なく聞こえ、雨音に掻き消されないようありったけの声量で何度もアイツの名前を叫んだ。

 呼びかけに返ってくる言葉はなく。

 もう、自分の声すらも耳に届かなくなっていた。

 また別の場所に居るのかと思ったが、そいつは髪も服もずぶ濡れになりながら暗い甲板デッキの縁に座り込んでいた。

 身投げしてしまいそうなところで、なにも見えやしない空を眺めている。

 オレは怖くなりながらも恐る恐る彼に近づいた。

「——よく来たな」

 直人はこちらを振り返らずにそう言った。

 オレは苛立ちを覚えながらも、そっと彼の隣に座り込む。

「なにがよく来たなだ。盗聴爆破テロ童貞ホモ野郎」

「過去最低の悪口だな」

 直人は少し疲れたように笑った。

「なんなんだよ、一体なにがしたいんだよ……」

 呆れるようにぼやくと、直人は仰向けに倒れて瞼を閉じる。

「色々したかったんだ。感情のぶつけ先が欲しい。苛立ちの他にも、感謝だとか、悲しみだとか、深く思うようになっちまった」

「ちゃんと話してくれ。オレが空気を読めないことくらい知ってるだろ」

「自分のことを語るのは苦手なんだ。長い付き合いだし、わかるだろ?」

「知らんよそんなの。お前は隠しごとが上手すぎるんだから」

「どう話せばいいのか、わからない」

「いつも見下した態度でペラペラと語る癖に……だったら、要塞を出たときみたいにオレの質問に点数をつけてみるのはどうだ?」

「それでお前が納得するならいいよ」

「もう答えを渋るのはなしだからな」

 隣に腰を掛けると、直人は少し嬉しそうに微笑んだ。

 ムカつく顔しやがって、お前のせいで大事な一張羅がずぶ濡れになっちまったじゃないか。

 感情を整理しようと大きく深呼吸をする。

 質問の前に、頭の中にあった疑問を整理する。

「……お前は囚われの街について知られないように。そして、榮直輝に囚われの街を調べさせないために都市を破壊したのか?」

「五十点。細かく言うなら知られないようにではなく、知られるのを遅れさせるためだ。榮直輝が要塞の仕組みを知れば絶対に酷い決断を下す。その前に親父や街の住人を救う手段を見つける必要があった」

 つまり、直人は親父が隠していた問題の全てを知っていたと言うことだ。村田のこともやっぱり知っているんだろうな……盗聴されてたし。

「直人は未來と同じ人工知能ロボットなのか? だから、兄弟が沢山いるのか?」

「八十点。厳密には違う。未來は機械だが、俺たちは『永遠の人類を作ろう計画』で生まれた頭の中身が機械の半機械生命体だ」

「なにその陳腐な計画……」

「今の榮直輝は、本物の榮直輝によって作られた人工知能なんだよ。当の本人はとっくに死んでいて、未來と同じで生前の主人の命令通りにしか行動できない」

「その命令が人類の永遠ってこと?」

「そうだ。人類が未来永劫存在し続ける為に俺たちを作った。彼はたった一つの目的の為に全てを判断する。だから囚われの街のこと知られると凄く危ないんだ」

 危険分子であるオレを放っておくことはない。

 突拍子もない話だが、点が線になるような感じがして腑に落ちる。

「もっと別の方法があったんじゃないか? オレじゃ頼りにはならなかっただろうけど、親父や温泉川……村田にだって話せば協力してくれだろ」

「確かに親父さんの為だと言えば進んで協力してくれそうだ。けど、想像していたよりも時間が足りなかったんだ。この十二年で都市の防衛設備は外の世界と渡り合えるほど成長した。俺が帰ってきた段階で既に囚われの街の調査に本腰を入れていた」

 だから、直人は一人で決行したのか……。

「オレたちは助けられてばかりだな」

「どういたしまして。でも、俺がやりたくて始めたことだ。お前が気にすることじゃない」

「じゃあ足場屋の経営を助けてくれたときも、そうなの?」

「いや、あれはお前たちの会社を乗っ取ってやろうと思って始めた」

「だよね。あのときのお前、めちゃくちゃ猫被ってたもん」

「大人たちに好かれてた俺を見て、お前よくキレてたもんな」

「最終的には親父の拳骨を食らったけど」

「なぜか俺も喰らわせられたけどな」

「へへ、ザマァみろ」

 雨水が服に染み込んで凍えてしまいそうなほど冷えているのに、直人に拒絶されたときよりも心なしか暖かい。

「ねぇ、残りの点数がわからないんだけど」

「これからの話だ」

 あぁ、そうか……。不思議とこのまま関係が続くと思ってしまった。

「直人はもう一緒に来ないのか?」

「九十点。まぁ、お前が嫌いだからな」

「嫌っててもいいから一緒にいてほしい」

 雨が瞳に染みて、目元が熱くなる。

 きっと、此処まで世界を知れたのも、後悔して幸せでいられたのも、生きてこられたのだって、直人が側にいてくれたからだ。

「俺は榮家に捕まったら終わりなんだよ。記憶メモリーを覗かられたらこれまでの行動が全て無駄になる」

「一緒に逃げればいいじゃんか」

「足手纏いだ。それに、俺がいてお前は成長できるのか?」

「それは……」

 自堕落な生活を思い出して返答に戸惑った。

 直人はすぐに人差し指を立てる。

「問題です。夢を叶えるのに一番必要なものはなんでしょう」

「やる気、じゃないか?」

「それも大事だけど。最も必要なのは心が独りであることだ。孤独力もしくは独創的。どんなものだろうと夢は一人で叶えるものだ。他人の意見に頼り過ぎると簡単に濁ってしまう」

「でも、一人じゃ出来ないことだってあるだろ。なにかを学ぶにしても誰かと話すことで見えてきたりする」

「相談して得るのは自分のためだ」

「音楽家とかはチームだろ? 同じ夢を持って一緒にいる」

「それでも夢を叶えているは本人だけだし。誰かと夢を共有したつもりでも、どこかでその誰かの意思は含まれていない。最初に掲げた奴の目標に過ぎない」

「そんなわけない。親父は昔仲間と共に調査していた」

「野良と俺の調査に対する目的は違うだろ? もしかしたら君は夢の先で安寧と地位を求めているのかもしれない。温泉川の部下が俺の話に乗ったように。親父さんが囚われの街に残る選択をして、村田孝宏だけが帰ってきたのは彼らの夢が少し違っていたか、もしくは夢が途中で変わってしまったからか」

 直人はその気持ちを知っているかのように語る。何処まで理解しているのかと、その才能が羨ましいと思う。

「嫌だよ。絶対に嫌だ」

 子供のようにそう訴えるしかなかった。

 母親がいたのなら、もう成人しているんだからちゃんとしなさいと怒られている。

「お前がどう思おうと関係ない。俺の意思で始めたことで、もう嫌なんだ」

 一緒に居るのを苦痛だと言われ胸が苦しく締め付けられる。

「じゃあ、残りのパーセントはなんだよ……」

「不必要なことは答えないよ。解いてすらいない問題に模範解答は与えられない」

「そもそも問題なんて出されてないだろ」

「お前が嫌いだから言いたくない」

「嫌い嫌いってしつこいぞ。せめてヒントくらい……もうお別れだろ。最後の頼みだ」

 オレは意気消沈しながら直人の顔を見る。

 すると、直人は体を起こして仕方なさそうに溜息を吐いた。

「こんなことをした動機だよ」

「囚われの街のためじゃないのか?」

「俺がそんな殊勝な性格を持ち合わせていると本気で思うのか? そんなものお前が要塞を出ない理由を探してたのと同じだ」

 言われてみればそうだった。直人は決して善人と呼べるような人間ではない。というか、善人なら都市の電源なんて落とさない。

 なら、どうして直人はオレと一緒に来てくれた。この都市に連れてきて、テロを起こして、どうして今更嫌いだと言って距離を取る……。

「——オレのことが好きなんじゃないか?」

 言ってみて凄い恥ずかしいが、それ以外考えられなかった。

 直人は鼻で笑い、こちらに背を向ける。

「九十八点。頭の点検を長いことしてなかった所為で頭のネジが壊れちまったらしい」

 ……照れてるのか? つーか、残り二点はなんだよ。

「お前ってなんつーか面倒臭い性格してるよな……なんでそんな拗れちまったんだ」

「五月蝿い。お前には関係のないことだ」

 直人には沢山の感情を抱いてきたし、もっと溢れんばかりの思い募らせていた。

 だから、親友だなんて過小評価なくらいで。

 でも、その気持ちに応えることは出来ない。

 世界はオレが思っていたより複雑で——

 ——人生は君が思っていたより単純で。

  自分を嫌いになってくれた方が、簡単に離れられたのだ。


(=^▽^)σ



*6月22日推敲済

 

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