表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/38

第3話 ——人生は君が思っているより単純だ

推敲を出来た気がしないので、投稿したあと何度か修正を繰り返すと思います。

サーセン(゜ω゜)


 2


 早朝、発電所が爆発したと報道が流れた。

 報道といってもテレビではなく、無線通信ラジオによるものだ。

 当然、電気が流れていないのだから、都市中は一大事パニックである。

 外では騒ぎ出す民衆を警察が拡声器を使って常時落ち着かせていた。

 今後、防犯対策として電池式ラジオが流行るに違いない。早速、転売の準備をしなければ……。

 ——プルルルル。

 突然、端末から電話コールが鳴った。

『——少し話がしたい。時間はあるか?』

 一瞬、直人からじゃないかと期待を抱いたが、電話の相手は予想通り壱真だった。

「大丈夫だよ。こっちも停電について聞きたかったし」

『知っていると思うが、昨晩発電所が爆破して都市の主要電源が落ちた。復旧の目処は立っていないらしい』

「一部は使えるの?」

『お前が住んでいる榮ヒルズの他、電波塔や防衛設備なんかは別だ』

「ビルの周りに人だかりがあるから引き籠っているんだけどさ。都市はこれからどうなる感じ?」

『元に戻すだけだ』

 断言するのは、ちょっとカッコイイな。

「じゃあ、オレに連絡した理由は?」

『直人の居そうな場所を知っているかと思ってな』

「監視カメラは生きてるんだろ?」

『生きてはいるが、直人はカメラの配置が全て頭に入っているみたいで全く意味を成さない』

 あいつは忍者かよ……。

「オレに協力して欲しいなら、直人を追っている理由を教えてくれ」

『……』

「それが飲めないなら手を貸す気はない」

 はっきりとした口調で伝えると、壱真は数秒黙り込む。

『……昨日とは随分態度が違うんだな』

「これをやらかしたのは直人なんだろ?」

『恐らくそうだ』

「なんでこうなることをわかっていたんだ?」

『ずっと外にいた奴が突然お前を連れて帰ってきた。その癖、家族にはなにも言わずに発電所に向かっていた。当然、警戒するだろ』

「行方を知っていたのに防げなかったのか?」

『十二年越しにこんな事しでかすなんて誰が想像できるんだ』

「オレからしたらアンタらは恨まれてもしょうがないと思う」

『なにを知ってお前はそう思うんだ?』

「少なくとも、十歳の子供が外に出てなにも思わないって時点で異常だとわかる」

『異常ね。肉体と精神が必ず比例していると一体誰が証明したんだろうな』

「お前らは頭がいいんだからオレの言いたいことくらいわかるだろ」

『もちろん。君は直人を被害者だと思いたいから我々を敵と認識して嫌悪している。それで直人の味方になったつもりかい?』

 壱真は嫌悪感丸出しの相手にも平然と協力を頼み、直輝は見ず知らずの人に良くしようとしてくれている。確かに彼らを嫌いになる理由はない。その通りだった。

「そう、だな……」感情を飲み込んで、自分の気持ちを認める。

 壱真はオレが静かになると愉快そうに笑った。

『そんで、また協力してくれる気になったか?』

「余計な詮索せずに手を貸せってことだろ」

『そうだ。前にも言ったが、効率がいいから頼んでいるだけだ。捕まえるくらいなんとかなる』

「居場所も知らないくせにその自信は何処から来るんだよ」

『都市の出入り口を完全に封鎖すれば簡単なことだよ』

 どれだけ先の話になるんだか。

『それで、アイツの居そうな場所に心当たりはないのか?』

「わかるわけないだろ。そもそも、オレたちが追いかけたときに出て行ったんじゃないのか?」

『それはない。検問を抜けたという話は聞いていないからな』

「じゃあ、追われる身になった奴は普通どうするんだ?」

『こっそり出て行くか、どこかに身を隠すんじゃないか』

「オレたちが追いかけたときに出ていかなかったってことは前者じゃないよな。けど、後者も考えにくい」

『なんでだ?』

「あいつ、我慢強い性格してないからな。そもそも目的が……なんか情報ないの?」

『お前たちが来たとき、最初は要塞都市の技術で操られているんじゃないかと疑った。十年越しに帰って来るなんて前代未聞だからな。直人が榮家を恨んでいた可能性もなくはなかった』

「じゃあ結局、あんたらも直人の目的は身内への復讐だと思っていたわけか」

『その可能性もあるってだけだ』

「そこまでわかっているなら、次に狙うとしたら電波塔じゃないの?」

『警備態勢を強めているから、今この時期に侵入する可能性はないだろ。そもそも人が大勢がいる所にオレたちが行く必要がない』

「そうとも限らないんじゃないか? 電波塔って商業施設も兼ねているんでしょ。電源が通っている場所なら此処と同様にかなりの民衆が集まっているんじゃないか?」

『そっちは、そんな大変なことになっているのか……』

「つーか、今どこにいるんだよ」

『お前らが通った検問所だ。手がかりがあればと思ったんだがな』

 そういえば外から持ち込んだものをロッカーに預けっぱなしにしていたな。

「……とりあえず合流しよう。迎えに来てよ」

 通話を切って迎えを待つ間、珈琲を作ろうと豆をゴリゴリと手動で削る。

 部屋いっぱいに広がった苦い香りで——ふと、村田に襲われた情景が蘇った。

 正体を知ったら、壱真も……オレを消そうとするだろうな。

 迎えにきた壱真の車に乗って、爆発現場である発電所に向かった。

 工場内から僅かに煙が上がっており、煙突のような建物がへし折れて他所の建築物を真っ二つに分断しているのが見えた。様々な工場の残骸が外に飛び散っており、道中の消防署と警官らしき姿からして、数キロ離れた住宅街にも被害が及んでいるそうだ。

 目に見える範囲だけだが、あまりにも悲惨な光景に沢山の死人が出たんじゃないかと怖くなる。

「——付いて来い」

 車を脇道に駐停車させ、壱真は工場の裏口から中に入っていく。

「なぁ、勝手に入って大丈夫なの?」

「許可は取ってある」

 壱真はヘルメットを装着すると、手にしてもう一個をオレに投げ渡した。

「準備がいいな」

「お前が見たいって言ったんだろ」

「だって、どう爆破したのか知らないっていうし。直人が犯人だって確たる証拠も見つかっていないんでしょ」

「まだ捜査中だから当然だ」

 奥に進めば進むほど足場は不安定になる。もし躓いたら瓦礫やガラスの破片が手に入り込んで大変なことになる。

 窓が吹き飛び、吹き抜けとなった建物を進んでいくと、ヘルメットを被った警察官らしき姿の女性がいた。

 腰まで伸びたオレンジ色の髪。振り返った顔はオモチャの人形のようで髪色と同じ瞳のカラーコンタクトが入っていた。

 コスプレみたいな警官だな……。

「えっと、貴方たち一体なに用ですか? ここは立ち入り禁止ですよ」

 女性は警官らしからぬ能天気な態度でオレたちの前に立つ。

「連絡した榮壱真だ。捜査協力しにきた」

「あぁそうですか。私、警視庁、公安部、未來誠みらまことといいます」

「爆発物が仕掛けられた場所はわかったのか?」

「はい。超高圧変電所です」

 未來が元気よく答えると、壱真は納得したように顎に手を当たる。

「そこなら完全に都市に送る電気を停止できる。普及を遅らせるために続けて発電所も爆破したってところか」

「そうなりますね」

「ここまでの大規模な崩壊で、どうやって爆破地点を調べたんだ?」

「最初に爆破した方角を作業員の方が覚えていたみたいなので」

「この惨状で生き残ったのか……」

「といいますか、全員生きてます。定例会議で皆さん一箇所に集まっていましたし。警備員も誰かに呼ばれてその近くで待機していたそうです」

「誰かって誰だよ。一番調べるところだろ」

「言われた内容と服装がチグハグで捜査が難航しているんです」

「ふーん」

「他に情報はないのか?」

「全く」

「じゃあ、お前何者だ?」

「……はい?」

「警察手帳も見せろ」

「構いませんよ。——ほら手帳も本物ですよ?」

「……みたいだな。最近はカラフルに染めるのもアリなのか?」

「いえ、これ染めたのではなく植毛です。目も機械です。最近の技術はすごいですよね」

 へー、ロボット人間なのか。凄いなぁー。

 関心するオレとは違い、壱真はバツの悪そうな顔をする。

「疑って悪かったな」

「いえいえ、こんな成りですから信用されないのは慣れてます。貴方たちは我々とどう協力するつもりですか? 粗方調べましたし、ここで犯人の手がかり見つけるのは難しいですよ」

「なぜ容疑者が直人と決まったのか気になってな」

「理由はシンプルに作業員、警備員、その他諸々の関係者を除いた中で近日出入りした人物だからです」

「作業員の中に犯人がいる可能性は考えないのか?」

「他に怪しい人物はいませんし。全員に調書を取らせましたが特に犯行に及ぶ動機も見つかりませんでした」

「爆発物はなんだ?」

「携帯電話を使ったものでした。振動ワンコールで起爆するもので規模は小さかったですが、連鎖するようにコンポジションが設置されていました」

「ここは発電所だろ? 妨害電波を飛ばしているから電話なんて繋がらないだろ」

「ですので直人が容疑者だと仮定した場合、協力者が最低でも一人いると考えています」

「直人が何処にいるかもわからないのに、もう一人探さなきゃならんのか……」

 壱真は面倒臭そうに呟きながら、オレの顔をじぃーと見つめていた。

「え、なんでこっちを見るの?」

「協力者ってお前くらいだしな。まぁ能力的にないだろうとは思うけど」

「ならこっちを見るな」

 顔に皺を寄せると、未來が「まぁまぁ」と言って間に立つ。

「お二人さん。現場を調べてもこれ以上の情報は出ないと思いますよ」

「だろうな。思ったより……というか、よく半日でここまで調べられたな」

「私は優秀ですので。えっへん!」

「だが、捜査協力すると言った以上もう少し僕は協力させてもらう。野良はどうする?」

「やっぱり電波塔に向かうよ」

「まぁ……好きにしろ」

 壱真は納得とまでは行かなかったが、渋々オレの意見に合意してくれた。

「では、私がお送りしますね」

「おぉ、気が利くね。帰り道わからなかったから助かるよ」

「いえいえ、お気になさらず。サボりの口実ですから」

 未來と話しているうちに、壱真は背を向けて工場の奥へと進んでいった。


 人生初の警察車両パトカーに乗せてもらい、窓から外の景色を眺める。ぽつりぽつりと雨が降る街は、電気がついていないというだけで陰鬱な姿に変わっていた。

「——未來さん。やっぱり、電波塔には向かわなくていいです」

「どうしてですか?」

「雨が降り始めたのでもう星は見れないですよね」

「それを言ったらそもそも営業しているとは限りませんよ」

「そうですけど。直人はオレと同じくらい星を見るのが好きだったので」

「そうなんですか。貴方の知っている彼は一体どういった人だったんです?」

「頭が良くて、冷徹で、見た目は女みたいで、星が好きで、知ることが好きで、冒険が好きで、他人が嫌いなんだと思う」

「どうしてそう思うんですか? 聞いている限りだと貴方はご友人なのですよね?」

「そうだけど。あいつに嫌いって言われたから」

 ため息を吐くように答えると、未來は少し呆れるような顔をする。

「私は常々、言葉をそのまま受け取るべきではないと思っています。放った言葉に価値などなく、そのときの状況や相手の表情に意味というものが入り込んでいるのです。だからこそ、言葉による誤解が存在する」

「それはそうですけど。誤解や勘違いじゃないですよ。はっきりと嫌いな訳も説明されましたし。正直、納得しちゃってます……」

 未來は目の前の赤信号を見つめて、再び口を開く。

「有言実行。嘘をついたつもりがなくても結果が伴わなければ嘘になってしまいます。今ある情報で予想した回答なのですが、嫌いになりたくて貴方に嫌いと宣言したんじゃないでしょうか。私は嘘をつきませんが、一生嘘をつかない人間は存在しませんから」 

 知ったようなことを……。

「見ず知らずのためによく喋るんですね」

「警察ですから人の命と心を守るのが、私のお仕事です」

 未來はニコッと笑いながら敬礼した。

 オレはつまらない理由で気を立ててしまったことを後悔する。

 パトカーは静かに住宅街を右往左往と移動し、榮ヒルズの前を通る。しかし、車は道端で速度を落とすことなく進行していた。

「——通り過ぎちゃいましたよ?」

「折角ですので、やっぱり電波塔に向かいませんか?」

「はい?」

「私も星が見たくなりまして」

「そうなんですか。って、いや雨ですよ」

 もう土砂降りになってきている。星を見るどころか空を見上げることすらままならない。

「大丈夫です。これから晴れますよ」

「でも、営業しているかだって……」

「商業施設はやっていますよ。でなきゃこの辺りが渋滞になることはないです。皆さん、馬鹿みたいに災害が起こってから防犯グッツや食料品を買いに行っているんですよ」

 パトカーは制動灯が連なる大通りを避けて走行している。妙に小馬鹿にした物言いが直人や壱真に似ていた。

「じゃあ、折角だs……」

 プルルルルルル。プルルルル。

 言いかけた途中で、ズボンのポケットが震えた。

「……壱真からだ。ちょっとすみません」

 未來にお辞儀して電話に出る。

『——なぁ、お前今何処にいる?』

「どこってまだ車の中だけど」

『容疑者が増えた。いいか、落ち着いて、そして冷静にポーカーフェイスで聞けよ』

「わかったよ」

 一応、警察の未來にも聞こえるよう拡声器状態スピーカモードに切り替える。

『随分と昔のことで忘れていたんだが、アイツには俺と同じ人工知能を一機持っている。これなら直人に協力者がいたことが成り立つ』

「あーうん、そう……。人工知能ミラのことならオレも知ってたよ」

『そうじゃなくてだな。他の警察にも調査状況を聞いたんだ。そしたら起爆地点の調査どころか、まだ誰にも調書を取っていない状況らしい』

「どういう事?」

『つまり、お前と同じ車に乗っている女。未來が直人の協力者だ』

 やっべ、拡声器状態にしちまってた。

『お前が一緒にいるなら出来る限りそいつと行動を共にしろ。俺が交流するまで余計なことはするんじゃねーぞ』

「……」

 未來は会話の内容を聞いても平然とした態度で運転を続けている。

『とにかく場所を教えてくれ。……おい、急に黙り込んでどうしたんだ?』

「スピーカーモードにしていましたので会話の内容が聞かれちまってます」

『……』

「ねぇ、どうしたらいい?」

『死ね』

 そう言葉を残して電話を切られた。

「酷い! ちょっと今オレを独りにしないで!」

 端末に向かって叫び、ルームミラー越しに映るミラの顔を恐る恐る覗き見る。

 彼女は口端を高く上げて不気味な笑みを浮かべていた。

「ぎゃあああああ!」

 車から飛び降りようとノブを引っ張るもビクともしない。

 パトカーは内側から開けられないように出来るとドラマで見たことがあった。

「ふふ、ふふふ」

「いやあぁぁ殺されるぅぅ!」

「冗談です」

「え?」

「なにもしませんよ。確かに私は人工知能ミラ本体ですが快楽爆発魔ではありません。あくまで主人の命令に従っただけです」

「……直人はなんのためにこんなことを? つーかなんで冗談を?」

「やれと言われたことをやるだけですから意図など伝えられておりません。ですが、恐らく様々な思惑と感情を持って貴方の為にしたことだと推察します」

「どういうこと?」

「私に聞くより本人に聞いた方がよろしいでしょう」

 電波塔、地下一階。未來は計画通りと言わんばかりに会話を終えたタイミングで駐車させた。


*6月22日推敲済

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ