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第1話 受け入れる者でしか、始められないことがある

 推敲してたら話が短くなりました。

 更新が不定期になってきてしまったので、基本二日に一度更新を目指してやっていきたいと思います。

 ごめんなさい。


*六月八日に前話を修正したため、推敲前の同じシーンが描かれています。話を消すのは面倒いので推敲し終えたらまた編集します。未だにこの作品を読んで下さっている方々は、本当にありがとうございます。

 ☆


 翌朝、見慣れた天井で目を覚ました。

 どうやら、眠ったまま家まで運び込まれたらしい。

 温泉川の号令で警察と及ぼしき武装した一団が突入し、連れて行かれる村田は最後にオレを見て「やっぱり、お前を受け入れられない」と呟いていた。

 彼が流した涙は、最初から真っ赤な嘘だった。寝起きのぼんやりとした頭の中で、昨日の出来事をなんとなく受け入れている。

 親父は異様なほど人に好かれていて、オレは人類に疎まれた存在だった。

 それが今の世界になった。

「——起きたか」

 ソファーでぼんやりとしていたオレを見て、直人が台所から歩いてくる。相変わらず、彼の顔と性格には似合わないアニメキャラのシャツがチラつく。そのチグハグな姿を見て、意気消沈していた気分が軽くなった気がした。

「聞いたぞ。なんか道端で倒れていたらしいな」

「えっ、あぁうん」

 どうやら直人は本当のことを知らないらしい。ホッとしたような、少し残念なような。自分でもよくわからない吐息が漏れる。

「大丈夫か?」

「お腹と背中がくっ付きそうだ」

「飯作るけど、食うか?」

「もらう」

 直人は冷蔵庫から卵とベーコンを取り出し、フライパンに油を引いた。

「にしても、昨日はなにしに行ったんだ?」

「図書館で調べ物するつもりだったんだ」

「ふーん、熱中症かな。車で送ろうか?」

「じゃあお願いするよ」

 オレはなんとなくテレビをつける。点いたチャンネルには今月の死亡者と失踪者に関するニュースが流れていた。毎月、十数人以上が外で行方不明になっているらしいが、今月は死者が一人も見つかっておらず、行方不明者が一人減ったそうだ。恐らく直人のことだろう。

 二人でベーコンエッグの乗ったトーストを食べると、直人が口を開く。

「明日、父親に挨拶しに行くんだけど、お前はどうする? 一緒に来るか?」

「まだ行ってなかったのかよ」

「報告書のまとめに時間が掛かってね」

 そういや、親父の調査書にはなんと書いてあったのだろう。手紙には嘘を混ぜたと書いてあった。誤った報告をして平気なのだろうか?

「いいよ。なに話せばいいのか分からないし、変に気を使わせそうだ」

 そう断ると、直人は若干残念そうな顔をした。

「わかった。図書館にはいつ向かうんだ?」

「そっちのタイミングに合わせよ」

「了解」

 直人は二人分の食器を片付けにキッチンへ戻っていった。

 オレはソファーに深く沈み込んだまま、自分がヒモであることを実感する。

 なんとなくスマートホンで『調査員、稼ぎ方』と検索すると、「一日で百万!」「これをするだけで生き残れます!」という胡散臭いものばかりが出てきた。

 シャワーを浴びて出かける準備をする。足場屋だった頃の服を着て鏡を覗くと、これからだって気のする自分が映っていた。


「——じゃあ今度は倒れるなよ」

「ありがとな」

 直人はオレが車から降りるのに合わせて麦茶のペットボトルを投げ渡した。

 深川図書館。歴史と現代的なデザインが調和した雰囲気を持ち、入口周辺の整えられた植栽とシンプルながら品格のある設計で、開放感ある吹き抜けや広々とした階段がレトロな空間を演出していた。

 受付の人に尋ねると、歴史に関する本は二階にあるらしく、ぱっと見てそれなりの人が本棚の前に立っている。奥に進むほど本の分厚さが増していき、手前にはお子様向けの絵本などカラフルなものが並んでいた。

 歴史というキーワードを探しながら歩き回り、四コマ漫画が描かれた『都市誕生の秘密』という本を見つける。

 お目当ての情報を手に入れたオレは座れる場所を探して三階の自習室に入る。しかし、そこは筆記用具の擦れる音が鳴り止まず、私語など聞こえないのに不思議と熱量に圧倒される場所だった。

 漫画を読むのに使うのは場違いな気がする。そう思って引き返そうとすると、視界の端に見覚えのある後ろ姿が映る。誰だっけと観察していると、その人物が振り返り一瞬目が合った気がした。

 咄嗟にそっぽを向いたオレは、逃げるように自習室を抜けて外のテラスにたどり着く。日差しは強いが風通しは良く、パラソルの下にはいくつもの空席があった。

 適当な席で本を開くと、書かれていたのは二十年以上も前のことだった。

 ——かつて人類はこの星ではなく別の惑星で誕生し、転送装置ゲートを通じてこの星に移住した。前の星は『太陽系第三惑星・地球』と呼ばれ、この星は北欧神話という宗教に由来した『スルト』、恒星は『ムスペル』と名付けられた。

 地球から持ち込んだ知識を駆使して、この地の生態系を破壊し、人のために次々と開拓されていった。しかし、突然の爆発事件によって地球とこの星を繋ぐ手段が消失し、文明は途切れ、取り残された人々は絶望に暮れていた。

 そんな中、立ち上がったのが転送装置の創設者の一人である榮直輝さかえなおきだった。彼は危機的状況の中で迅速に対応し、この都市だけで生き延びられる社会に変えていった。榮直輝はこの星で暮らす人々の英雄であり、なくてはならない人類の希望となった。

 最後の一文を読んでパタリと本を閉じる。オレにとって直人の父親は子が危険な目に遭おうと気にもしないクズだ。だから、続きを読む気力が失ってしまった。

「——やっぱりお前、直人と一緒にいた奴だな」

 別の本を探そうと席を立つと、背後から怒気を帯びた声が聞こえてきた。

 白ズボンに黒のTシャツをインした珍妙な男、榮壱真。ファションセンスは顔が良い分珍妙にして滑稽で、背丈は大人びていても直人と似た雰囲気を醸し出していた。

「……なんの用ですか、壱真さん」

「お前こそ、先程こちらを見ていただろう。なんの用だ?」

 顔を逸らしたことが裏目に出たようで、壱真は高圧的な態度で対面に座り込む。

「すみません。知り合いかと思って見ていただけで特に他意はなかったんです」

「視線が合ったのに無視したのか?」

「なんか咄嗟に……」

「まぁいい。それよりどうしてお前は弟と一緒にいるんだ?」

「兄弟なんですし、直人に聞いて下さいよ」

「弟に言っても仕方がないからな」

「意味が分からないんですが?」

「弟に近づくなと忠告しているんだ」

 なんだこいつ。そんなのオレの勝手だし。お前は直人の顔を忘れてたじゃないか。

「あんな冷たくした癖に兄貴ずらしたいんですか?」

「そんなんじゃない。榮家に関わると碌なことにならないと教えているんだ」

「それはオレたちが決めることです。直人をほったらかしにした奴らの忠告なんて聞く価値がない。そもそも、本当に兄弟なのか?」

「家族だよ。寧ろそれ以外の何者でもない」

「そんな風には見えない」

「他人がどう思おうと事実は変わらない。家を出たのはアイツの意思だし。血の繋がりだけが家族の証だ。寧ろ血縁のない相手を家族と呼ぶのはただの自己満足でしかない」

「言葉をそっくりそのままお返ししますよ。血縁であるからと満足しているのはそちらでしょう。家族足り得てないから態々そんな言葉を口にする」

「他者との関係に付加価値を付けたがる奴らが大っ嫌いだ」

「こっちのセリフですよ」

 知り合って間もない相手に大っ嫌いと言われるとは思ってみなかった。

 互いに睨み合うように沈黙すると、壱真は大きな溜息を吐く。

「すまん、感情的になった。最初は本当にお前との関係を知りたかっただけなんだ」

 壱真の真剣な視線に、オレは一度息を吐いて溜飲を抑える。

「——じゃあ、アイツとの出会いから話しますよ」

 父のことを紛らわしたいという気まぐれで、オレは直人にすら伝えていないありのままを答えた。

「……本気か?」壱真は拍子抜けした顔をする。

「お前らよりも長い付き合いだから別に家族といっても差し支えはないけどな。家族だとも、ただの友人だとも思っていない。あいつには複雑な感情を抱いているんだ」

「そっか……成程な……」

 壱真はしばらく考え込むような顔をしたあと、青空を見上げて呟いた。

「悪かったな。お前が直人の調査結果を奪うために近づいてきた寄生虫だと思ってたんだ」

「なら、ちゃんと謝れよ」

 絶対悪かったと思ってないだろ……。

「……でも、少し羨ましいかもな」

 不愉快さを感じながらも、仕草や言動が直人に似ていて複雑な気分にさせられる。

「直人はあんたよりもずっと性格がいいよ。雰囲気以外はそんなに似てない」

「まぁ性格は育てられ方次第で変わるからな。根本は変わらないだろうけど」

「そうですか。じゃあ、オレは本を探したいので……」

 そのまま逃げようとすると、腕をガッチリと掴まれる。

 振り離そうとするも、細身の癖に意外と力が強かった。

「なんの本を探してるんだ?」

「あんたには関係ないだろ」

 もう話しかけるなと言わんばかりに睨みつける。

「この図書館に詳しいんだ、欲しい本の場所くらいすぐに教えられるよ。権限で貸し出しもさせられる」

 図書館なのに貸し出しができないのかと驚くも、直人に「使えるものはなんぼでも使え」と言われていたのを思い出した。

「囚われの街の歴史と生物図鑑。できるだけ子供にも分かる奴がいい……」

「わかった。持ってくるから待ってな」

 壱真がしたり顔で去っていくのを見送りながら、いずれ直人もあんな姿になるのかと憂鬱な気持ちになった。鬱憤を紛らわす様に、万愚節に明日遊ばないかとメールを送る。

『デートですね!』

 と、すぐに返事が返ってきた。

 場所は移都市博物水族館。きっと生き物好きの彼女となら、この憂鬱な気分が晴れると期待して、本が届くのを律儀に待ってやった。


 次は火曜日に更新します!

 ブックマークよろしくね。(((o(*゜▽゜*)o)))


*6月15日推敲済

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