第3話 後悔しなかった道を選んでも、きっと後悔する
ちょっと短いですね。
くっつけちゃうか迷ったんですけど。
一個前と場面が違いますし。また次の話も場面が変わって区切りをつけたかったので。短いのが続きます。
ごめんなさい。でも見捨てないで下さい(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
2
山脈の谷間を越えると、緑の茂った平地が広がっていた。
双眼鏡を覗くと、平地の先に金網に囲まれた軍用車などが点在している軍事基地が見えた。
「——着いたな」
「あれが直人の故郷か……」
「『第一東京移都市』。人類が来て最初に作った都市だ」
なんだそれ……。
言い回しに違和感を覚えたが、そろそろ自分で調べろと突っ込まれそうで黙っておく。
近づいていくと、こちらに気づいた兵士たちが慌ただしく動き始める。
「……外から人が来るのって珍しいのかな」
「さぁな。この方角から来るのは珍しいんじゃないか?」
「なんで?」
「南方が一番危険とされてるからだよ」
案外余裕じゃんって思って来たけど、そんなことなかったのか。
金網の前に立つと、武装した兵士たちに囲まれる。オレたちが武器を所持しているせいか、彼らは高圧的な態度で身分証の提示を求めてきた。
「ほらよ。これが俺の身分証で。隣にいるコイツは外で生まれた人間だ。だからその血縁者のものだ」
直人は堂々とした態度で自身と親父の運転免許を差し出した。
それらを確認した検問官は若干顔を引きつらせる。オレは外で持ち物の確認をさせられ、直人と交代で小屋のような応接室に呼び出された。
「名前は?」
「志楽野良です」
「父親の名前は?」
「志楽浩也です」
「母親の名前は?」
「物心つく前に亡くなったので覚えていません」
「どこから来た?」
「囚われの街って呼ばれているところです」
「どうして街を出た?」
「外の世界を見たくて」
「仕事は?」
「足場屋の社長をやってました」
「都市でなにをしたい?」
「世の中のことや、故郷のことを知りたいです」
「榮直人との関係は?」
「友人です」
「どうやってあの街から出たんだ?」
「直人に助けてもらいました。でも、具体的な方法は自分でもよくわかりません」
一通り質問が終わると、彼らはカードキーを渡してきた。
再びバイクに乗り、舗装された道を進む。両脇には戦車や軍用車などがあり、遠くに戦闘機の滑走路なんかが見えた。
二つ目の金網を抜けると、先ほどより軽い武装をした人達に囲まれる。案内された部屋でカードキーを使い、衣類品を含んだ全ての持ち物をロッカーに預けさせられる。シャワーを浴び、用意された患者衣に着替えると、スピーカーからオレの名前が呼ばれる。指示された部屋には医療機器がずらりと並び、これから検査が行われることを悟った。
天井のLEDライトを眺めながらソファーでぐったりしていると、次に検査を終えてきた直人が上から覗き込んできた。
「どうした?」
「もうお婿に行けない……」
オレは両手で顔を覆ってみせた。
「なにがあったんだ?」
「股を弄ばれた」
直人は呆れた顔をして「尿検査だろ。変な言い方するな」とズバリ言い当てた。
「なんだよあれ、めっちゃ恥ずかしいんだけど」
「知らんがな」
「他人のしょんべん見て、嫌そうな顔をしている女医の姿を想像しちまった」
「きもいなぁ。夜鶴のこと綺麗さっぱり忘れちまったんだな。可哀想に」
「そういうこと言うなよ。マジで友達なくすぞ」
「つまらない冗談ばかり言っている奴に言われたくない。お前のそういうところはマジで嫌いだ」
「酷い!」
直人はオレからソファーのクッションを引っこ抜き、適当な場所に投げ捨てる。
衝撃で起こされたオレは、患者衣のまま外に向かっていく彼の後を追いかける。
「……どこにいくんだ?」
「外の空気を吸いに行こうと思ってな」
「オレも行く」
外履き用のサンダルを履いて、外に飛び出す。
舗装された道の先に、高層建築物と呼ばれる巨大な建物が並んでいる。映像で見たものよりも立派で、過密に入り組んだ街だと思った。
「……俺が住んでた頃と随分違うな」
直人はそう呟いた。彼がこの街を見たのは十二年前。変わっていない方がおかしいくらいだ。
「そういえば、結局一発も拳銃を撃たなかったな」
「問題なく都市に入れたんだから無駄じゃない。それに、これから先で使うかもしれないだろ?」
「都市の中でか?」
「また旅立つかもしれないだろ。そもそも都内では銃器の所持や、外からの持ち込みは原則禁止だ」
「そうなんだ」
もう一度、都市を眺める。手元に双眼鏡がないのを悔やまれるが、幼い頃から妄想を膨らませて夢みてきた場所に向かうのだ。
——やっとだ。やっとオレはスタートラインに立てた。
「早く行こうぜ」
「検査結果で出るまで一週間は掛かる。それまでは検疫所で待機だ」
「えぇ……ここに来て焦らしプレイかよ」




