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決別と旅立ち

戦後の協定によりバーゼナンデ帝国とゲルゼア王国はリストラン王国の降伏勧告を受け入れ


要求通り超破壊魔法の開発を断念し研究内容の破棄や研究施設を閉鎖した。


これにより世界は人類滅亡の危機から脱却し人々には平和な生活が訪れた……


と思われたのだが、事はそんなに上手くはいかなかったのである。


 両大国の軍の者や一部の貴族達がリストランテへの降伏を良しとせず反乱分子となり各地で暴動や略奪が頻発する


次々と起こるテロ活動の前に治安は乱れる一方であった。


両大国の軍はアルフレッドにより壊滅的なダメージを負い、その一部が国から離脱し野盗と化したため


軍として機能しなくなっており治安維持もおぼつかない状態となってしまっていた。


仕方がなくその都度リストランテが軍を派遣し暴動を鎮圧し野盗を撃退していたのだが


度重なる暴動やテロ行為は不安と混乱を招き市民の生活は困窮し治安は悪化の一途をたどることとなる。


そんな中で市民が平穏な生活など遅れるはずもなく人々は不安に怯える生活を送っていた。


そして市民の不満は戦勝国であるリストランテに向いた。


世論は〈リストランテが戦争を起こしたから俺達の生活は厳しくなった〉という風潮に傾いていく。


しかもそういった一連の暴動やテロ行為、そしてリストランテを批判するという世論の風潮は


〈戦争で負けた両大国の王族や貴族が裏で手を引いている〉という噂が流れはじめたのである


もちろん証拠は何もないのでリストランテ側も動くに動けないでいた。


こうした度重なる暴動と内外から発せられる不満と抗議の声が次々とリストランテの国王であるフリードリヒの耳に届いた。


「なぜ娘や孫を犠牲にしてまで人類を救ったはずの私がこれほど責められねばならぬ


私がいなければ人類は滅亡していたかもしれないのだぞ‼」


 そんな言葉を度々口にしながら内外から浴びせられる批判の声を受け続け


やりきれない気持ちを抱えながらフリードリヒは心身共に疲れ果て次第に心を病んでいく


そしてついにある決断をするのである。


「この治安の乱れと民の貧困は全て国家の体制が不安定で統率に欠ける事からくるモノである


したがって私はバーゼナンデ帝国とゲルゼア王国を我が国に完全併合し統一巨大国家を作ることを宣言する。


そして世界の国を全て統一し世界に恒久的な平和をもたらすことを約束しよう


今、私はここに【リストランテ連邦共和国】の樹立を宣言する‼」


 そしてフリードリヒの話は続く。


「今、民の生活が困窮しているのは既得権益を貪る王族や貴族が原因である


したがって私は民の生活を守る為、王族と貴族の制度を廃止し


数々の非道を行ってきた彼らにそれ相応の罰を与えることを約束しよう


そして軍備を強化しテロや反乱をおこした犯罪者にはその親族もろとも極刑に処し。


そして治安を乱すような風評や政府に不利益な言動をおこなった者には重い厳罰を処す


こうすることによって法と秩序に守られた理想の国家が出来上がると私は確信する


さあ国民達よ、世界の平和と安定の為に王族、貴族どもを排除し国民の為の社会を手に入れようではないか‼」


 この一見滅茶苦茶な理屈と言いがかりに近い難癖で王族と貴族に全ての罪をなすりつけ


武力による世界征服と厳しい処罰と言論統制による軍事独裁制度を宣言した。


だがこの恐怖政治ともいえるフリードリヒの宣言を民衆は大いに支持したのである。


なぜならば民衆は長年の間、王族や貴族の圧政や横暴に不満を持っており


これがきっかけで民の怒りが爆発したのだ。


これを境に民衆達の不満や怒りの矛先は元王族、貴族達に向けられる。


民衆達は武器を取り武装集団となって王族、貴族達の屋敷に向かい


感情に任せて彼らの屋敷を焼き討ちし逃げ出す貴族達を捕まえ民衆の前で公開処刑を行った。


あれほど栄華を誇っていた元バーゼナンデ国王であるハインリヒですら民衆によって捕らえられ無惨に殺された。


しかし新生リストランテ政府はこれを黙認、〈これは正義の為の必要な儀式であり罪ではない〉


という見解を公式に発表したのである。


 こうした一連のフリードリヒの暴走を止めるべく、ベルハルトは何度も説得を試みた


だが心を閉ざしてしまったフリードリヒはもはや誰のいうことも聞かず全く聞く耳を持たなかった


それどころかフリードリヒは次第にベルハルトを疎ましく思うようになり


ベルハルトからの面会の希望もその都度言い訳をつけて断っていた。


 こうして全ての権力を手に入れたかのように思えたフリードリヒだったが一つだけ問題があった


それはアルフレッドのことである。全世界をその手に収めるにはどうしても孫であるアルフレッドの力が必要になる。


しかしアルフレッドはその強力すぎる力故にある取り決めがなされていた


それは【フリードリヒとベルハルト、両者の許可がない限り絶対に戦ってはいけない】という制約である。


アルフレッドは親であるベルハルトと祖父であるフリードリヒから強く言い聞かせていてそれを忠実に守っていた。


それゆえに今では疎ましく感じているベルハルトでも更迭できないのである。


 そんな時、この横暴ともいえるフリードリヒの宣言に対して真っ向から異議を唱える者が現れた


それがベルドルア王国の王オストマルフ・フォン・ベルドルアだった。


「リストランテ王国のやっていることは軍事独裁による侵略戦争である、我が国は決してそれを認めない‼」


 今や世界最強ともいえるリストランテ王国の王フリードリヒの方針を真っ向から否定したのである。


オストマルフは周辺諸国との連携を強め【反リストランテ連合】を形成しつつあった。


これを危険と判断したフリードリヒは【反リストランテ連合】の中心であるベルドルア王国を攻め滅ぼそうと考えたがベルハルトは当然のごとく猛反対した。


「ベルドルア国王の言っている事の方が正しいです、武力による侵略戦争など断じて認めるわけにはいきません。


陛下、どうか目を覚ましてください‼」


 ベルハルトによる必死の説得も今のフリードリヒには届かなかった


それどころか秘密裏にベルハルトを拘束し地下牢に幽閉してしまったのである


そして目障りなベルハルトを排除した後、アルフレッドにはこう伝えた。


「今ベルハルトには大事な用事で他国に交渉に行ってもらっている


だからしばらくは帰ってこられない。ベルハルトには許可がとってあるので


世界の平和を乱すベルドルア王国を倒せ、良いな」


 アルフレッドは祖父の言うことを微塵も疑いもせず素直に頷いた。


こうしてフリードリヒの思惑通りアルフレッドにより強襲を受けたベルドルア王国は三日と持たずに滅ぼされオストマルフ国王は捕らえられた。


 だがリストランテ国内にもフリードリヒの暴走をよく思わない者達が増え始め


その者達の手によって牢に幽閉されていたベルハルトは解放されると


〈反体制派のリーダーとして立ってくれ〉と頼まれる


ベルハルト自身もフリードリヒの説得はもはや不可能と判断しそれを引き受けた。


そして味方の手引きにより息子であるアルフレッドにこっそりと会いその意思を告げた。


「いいかいアルフレッド、私はこれから陛下の横暴を止める為に地下に潜って反体制側として活動する


陛下がこうなってしまったのは私の責任だ、だから私は命をかけてでもこれを止めてみせる、わかって欲しい」


 衝撃の事実を聞かされたアルフレッドは愕然とする、今まで世界の平和の為と思い戦ってきたというのに


実は侵略戦争の駒として働かされていたと言う衝撃の事実


そして実の祖父に騙されていたということが何よりショックだったのだ。


「父上、ならば俺も父上と共に戦います、俺も連れていってください‼」


 もはや祖父であるフリードリヒを信じられなくなったアルフレッドは父と共に戦うことを提案したのだがベルハルトはゆっくりと首を振った。


「いや、これは私と陛下の責任で起こってしまった戦いだ


血を分けた祖父と父との戦いにお前を巻き込むことはできない。


そして何よりこれはあくまで私の見解だ、陛下には陛下の言い分もあろう


どちらが正しくてどちらが間違っているかなど本当のところはわからない


それは後世の歴史家が判断してくれるだろう。私も陛下も己の信念と信じる未来の為に戦うのだ。


だからアルフレッド、これからお前は自分の意思で戦え、いいな」


 共に行くことを拒絶されたアルフレッドは困惑した表情で問いかける。


「しかし父上、じゃあ俺はこれからどうしたらいいのですか?」


 戸惑う息子に対し、ベルハルトは優しく語り始めた。


「いいかいアルフレッド、これからお前は一人で旅をして世界を見てきなさい


お前には一人でも生きていける力がある、知恵も知識もある、だが経験が圧倒的に足りない


だから色々な世界を見て知って色々な人と出会って自分で判断するのだ。


その結果例え私の敵になったとしても決して咎めはしない


自分の人生を生きなさい。そして色々な出会いをしていっぱい友達を作りなさい。


そして母さんのような素敵な人と出会えたら人生においてこれ以上の幸せはない、その喜びを知りなさい。


次に私と会う時には〈友達といえる仲間ができた、好きな人ができた〉と言う報告を聞かせてくれると嬉しい


今まで色々なしがらみでお前を縛り付けておいて今更勝手だとは思うが私はお前の幸せをいつまでも願っているよ」


 ベルハルトはアルフレッドの両肩に手を乗せながらしみじみと語った


その両目にはうっすらと涙が浮かんでいてアルフレッドにもその思いがひしひしと伝わってくる。


複雑な思いを抱えながらもアルフレッドは大きく頷き父の背中を見送った。


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