決戦間近
数ヶ月が経ちいよいよアンネローゼが臨月を迎えると計画は最終段階を迎えた。
子供が生まれる瞬間に魔法処理を行うのである。
城の地下にある魔法実験場では巨大な魔法陣の真ん中にお腹の大きいアンネローゼが横たわっている
物々しい雰囲気の中で儀式は進められた。
「う、生まれる……」
陣痛で苦しむアンネローゼを見守りながら唇を噛み締め祈るように見つめるベルハルト
そして巨大な魔法陣が眩しく光り輝き目の前が何も見えなくなるほどの光に包まれた、そして次の瞬間。
「オギャーオギャー」
赤子の激しくなく声が地下室に響き渡る。
「生まれました、立派な男の子ですよ‼」
ベルハルトに向かって産婆の中年女性が嬉しそうに語りかける、その手には小さな赤子が抱かれていた。
「これが俺の子……」
感慨深い目で自分の息子を見つめるベルハルト、一見普通の子供に見えるが
の全身には魔法処理によって様々な文字が刻まれておりその文字がうっすらと光っていた。
その時である、もう一人の産婆の女性が大声で叫んだ。
「大変です、アンネローゼ様が‼」
産後の妻の容体が急変したのである、慌てて駆け寄るベルハルト。
そこには大仕事を終え憔悴しきった妻の姿があった。
「子供は……子供は無事ですか?」
「ああ、元気な男の子だよ」
ベルハルトは生まれたばかりの子供をアンネローゼに見せる
元気に泣く自分の子供の姿を見て安心したのかアンネローゼは力無く微笑んだ。
「良かった……御免なさい、子供を立派に育てると約束したのに私もうダメみたい」
「何をいうのだ、これからじゃないか、これから家族三人で……」
涙ながらに訴えるが、アンネローゼがもう長くは持たない事は見てとれた。
最終魔法処理の段階で母体に過重な負荷がかかり産後の弱ったアンネローゼの体では耐えきれなかったのである。
「この子を、アルフレッドをお願いします……先に行きます、御免なさい……」
アンネローゼはそう言って息を引き取った、ガックリと膝を落としへたり込むベルハルト。
国王であるフリードリヒも娘の死を目の当たりにして人目をはばからず号泣した。
その翌日、アンネローゼの死は国民にも伝えられた。
その死因と内容までは詳しく発表されなかったが
〈アンネローゼは国の為、世界の平和の為にその身を捧げた〉とだけ伝えられた。
国民にも人気があったアンネローゼの死に皆は嘆き悲しみ、その死を悼んだ。
アンネローゼの死は国葬として大々的に執り行われ、フリードリヒは集まった国民の前で高らかに宣言する。
「我が娘、皆の愛してくれたアンネローゼはこの国の為、人類の平和のためにその命を捧げた。
私は誓う、必ずやこの国を、そして世界を平和にしてみせると、アンネローゼの死を決して無駄にはしないと‼」
この国王の言葉に国民は沸き立ち、自国のリーダーを支持した。
もちろんその死の内容は秘密にされ発表されなかったがフリードリヒの言動にはそれだけの説得力があった
他国も〈自分の娘の死を政治宣伝に使った〉という認識しかなかったのである。
それから約七年の月日が過ぎた。両大国も超破壊魔法の完成までは派手な戦いを仕掛けることをしなかった為、人類は嵐の前のかりそめの平和を謳歌していた。
そんな中でアルフレッドはすくすくと成長し立派な青年へと変貌していた。
僅か七歳の子供を青年と呼ぶのはいささか語弊があるかもしれないが
アルフレッドの体には成長促進の魔法処理もされており
見た目的にはもうすでに十五、六歳の容姿を兼ね備えていたのである。
父であるベルハルトは妻の遺言通り息子に対して目一杯の愛情を注いで育てた。
アルフレッドは父に似て頭も良く、さまざまな教養をどんどん吸収していく。
そしてその体は魔法耐性の処理がなされているだけではなく常人に比べて体力も大幅に強化されているので
知能も身体能力も一般人のそれを遥かに超える能力を持っていた。
一般教養から高度な魔法理論まで、まるでスポンジが水を吸収するかのように身につけていく
しかし知能と身体能力が高すぎるアルフレッドは同年代の子供がいる一般的な学校には通わせられなかった
その理由は〈能力が違い過ぎて他の生徒に対して被害が出てしまうかもしれない〉
という懸念もあったが両大国への秘密漏洩を恐れたフリードリヒがアルフレッドには完全隔離体制で育成せよと命令を下したのである。
それ故に父であるベルハルトがマンツーマンで教育しアルフレッドもその教えを身につけていく。
その結果、アルフレッドは高い知識と知能を持ちながらも一般的な社会常識や社会経験のない歪な人間として成長してしまったのである。
皆が戦いのない平和を堪能し戦争を忘れかけそうになっていた時、フリードリヒの元へある情報が飛び込んできた。
「国王陛下に申し上げます、〈バーゼナンデ帝国〉にいる密偵より報告、〈超破壊魔法は最終実験段階に入った〉とのことです‼」
その報告にフリードリヒの顔は歪みベルハルトは唇を噛んだ。
「それは誠か⁉︎」
「はい、密偵に何度も確認をとりましたが間違いないとのことです」
それを聞いたベルハルトが思わず口を開いた。
「思っていたより随分と早い……このままだとあと一年以内には実戦投入が可能となるでしょう、どういたしましょうか国王陛下?」
重鎮をはじめそこにいる全員が国王に視線を向ける、フリードリヒはしばらく目を閉じ何かを考えていたが
意を決したように目を見開き言葉を発した。
「我がリストランテ共和国はバーゼナンデ帝国に対して宣戦を布告する‼」
国王の言葉に驚きを隠せない重鎮達、誰もが慌てふためき狼狽えるような態度でそれぞれの思いを口にしはじめた。
「あのバーゼナンデ帝国に戦争を仕掛けるのですか⁉正気の沙汰とは思えません‼」
「兵力、国力において我が国の五倍以上あるバーゼナンデ帝国と戦っても勝てる訳がありません、陛下、どうかお考え直しを‼」
「そもそも魔道士の数が比になりません、向こうは世紀の大魔道士マルクシスの高弟達が三十人以上いるのですぞ⁉︎
それに比べて我が国には高レベルの魔道士はベルハルト殿たった一人、相手にすらならないです‼」
「その通りです、陛下どうか冷静になってお考え直しを。ベルハルト殿からも国王様に言ってくだされ」
圧倒的なまでの戦力差に絶望を口にする重鎮達、どうにか戦いを思い止まらせたい彼らはベルハルトに説得を託し全員がベルハルトに注目した
だがベルハルトの口から出た言葉は皆の予想をはるかに超えたものであった。
「ついにこの時が来ましたね、陛下」
「ああ、もうアルフレッドの方は大丈夫なのか?」
「はい、いつでも実戦を迎える準備はできておりますが……」
その言葉を口にした瞬間、ベルハルトの顔が歪んだ。
前からわかっていたこととはいえ自分の息子を最前線に送り込むという事にやはり激しい葛藤があった。
子供と過ごした日々や息子の笑顔が脳裏に浮かぶ。
父として、人間として耐え難い苦痛がベルハルトの胸をかきむしる。そんなベルハルトの様子を見て小さく頷くフリードリヒ。
「お主の気持ちはわかる、ワシとて自分の孫を戦争の道具として送り込むことに激しく心が痛む
しかしワシは国王じゃ、国民の為、世界の人類の為にやらねばならぬ
決断しなければならぬ、わかっていたことであろうベルハルト」
フリードリヒの諭すようなその言葉に思わず目を閉じ、唇を噛むベルハルト。
だが周りの重鎮達は二人が何を言っているのかさっぱりわからない
アルフレッドの事はこの二人と実験に関わった一部の人間以外には秘密にされていたからである。
こうして〈生態魔導人間兵器〉であるアルフレッドの初陣が決まった
アフフレッドを要するリストランテ共和国と超大国バーゼナンデ帝国との運命の決戦が火蓋を切ろうとしていた。
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