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世界の未来を憂う者

 魔族と人間が戦い続けて三百年、この不毛で終わりの見えない戦いに人類は疲れ果て不安と絶望を抱えながら生きていた。


 この世界フェイドラルでは圧倒的な身体能力を持つ魔族達に対し人間たちは一致団結し知恵と勇気で立ち向かった。


そう、ここは剣と魔法の世界、であった……


 なぜ過去形なのかというと今から五十年ほど前にある一人の男が出現しこの状況を一変させる。


その男の名はマルクシス・パテュクティ、不世出の大魔道士と呼ばれた男である。


 〈魔法の歴史を百年進めた〉といわれたマルクシスは次々と新たな魔法を生み出しその魔法で魔族どもを次々と蹴散らしていった。


そして数人の弟子たちを連れ魔王城に乗り込み、ついには魔王もろとも魔族達を葬ってしまったのである。


魔王と大半の仲間を失った魔族達にはもはや人間に抵抗できる力はなく


三百年以上続いた人間と魔族の長きにわたる戦いは事実上人類側の勝利という形でここに終結した。


各国の王は人類の勝利を宣言すると民衆は戦いの終わりに歓喜しマルクシスの功績を褒め称えた。


長きにわたる戦乱の時を超え人類にようやく平和が訪れたのである。


 しかしそんな平和も長くは続かなかった。魔族という共通の脅威があるうちは各国も協力して敵に立ち向かっていたのだが


いざそれがなくなると今度は人間同士、国同士で争う様になったのである。


 争うのが人間の性なのか、力を求めるのが人の業なのか、それはわからないが魔王のいなくなった世界で


〈どの国がこの世界のイニシアチブをとるのか?〉という醜い争いが起き始める。


 魔王を倒したマルクシスや百人以上いる弟子達を自国に迎えようと各国の王は激しく勧誘合戦を繰り広げたが


魔法以外の俗世に全く興味を示さないマルクシスは全ての勧誘を断り弟子達にもそれを徹底させた。


このたった一人の男の出現により今やこの世界は剣と魔法の世界ではなく魔法一強となってしまったのである。


 何せどれほど屈強な兵士が大軍で向かって来ようとも離れた場所から強力な魔法を放たれたら近づくこともできずに一蹴されてしまうのだ。


つまりどれほど強力な魔道士を数多く抱えられるかが国の軍事力を測るパラメーターとなり


各国のパワーバランスは大きく変化を遂げた。


 そんなマルクシスが存命の内は各国も国境付近での小競り合い程度で済んでいたのだがマルクシスが老衰で死去すると状況は一変する。


 マルクシスの〈どの国にも協力しない〉という方針により弟子の魔道士達の勧誘を諦めかけていた各国だったが


彼の死と共にタガが外れたかのように激しい勧誘合戦が再発したのである


各国の王はマルクシスの弟子たちに勧誘の条件として貴族家の美女との婚約を薦めて爵位を与え莫大な契約料を支払う事を約束した。


最初は師の教えに従い応じなかった弟子たちだったが金と名誉と権力と美女


この誘惑に勝てる男などほとんどいなかった。


一人が勧誘に応じるとそれこそ雪崩が起きるように次々と各国へと迎えられていった。


そんな各国による勧誘合戦の中でとりわけ多くの魔道士達を迎えたのは


【マルクシス魔法研究所】のある東の大国【バーゼナンデ帝国】とマルコシスの出身国で西の大国【ゲルゼド王国】であった。


 それぞれが〈我が国こそが偉大なるマルクシス大魔道士の意志を継ぐ国なり〉


という名文を掲げ世界のリーダーたる資格を主張し全世界を統一すると宣言した。


 この東西の大国は次々と周辺国を占領し勢力を拡大していく。そしてついにこの両大国は激突した。


 戦場となったのは【スリードヒ共和国】という国の首都でケトラという都市


両大国による人類初の魔法合戦がこの地で繰り広げられたのである。


〈第一次魔法大戦〉と呼ばれたこの戦いは熾烈を極め、ケトラの市民は両国の仕掛けた魔法に巻き込まれ約八万人もの犠牲者が出た


人々で栄えていたケトラの都市は一晩で廃墟と化したのである。


しかも強大な魔法の影響で環境にも変化が起き、ケトラを中心に砂漠化が進み、ついには人が住めない場所へと変貌してしまったのである。


 この日を境にスリードリヒ共和国という国は地図上から姿を消しケトラ砂漠へと名前を変えた。


このあまりの惨劇に人々は恐怖し戦争を仕掛けた当事国であるバーゼナンデ帝国とゲルゼド王国ですらその思いもよらない結末に驚愕したのである。


 このまま戦いを続ければ人類存亡の危機であると判断した両国は慌てて停戦協定を結び戦争は一旦終結した。


しかし人々はこれがかりそめの平和でありいずれ両国が覇権をかけて再び戦うのだろうとわかっていた。


 そんな人類の未来を憂い、平和を求めるために一人の男が立ち上がる。


リストランテ王国の国王〈フリードリヒ・ヴァン・リストランテ三世〉である。


この両国の暴走を何とかして止めようとマルクシス研究所のあるバーゼナンデ帝国へとわずかな家臣を連れて訪れた。


お忍びとはいえ一国の王が同盟関係の無い他国に訪れるという行為は無茶を通り越して無謀な行為である


なぜならば見つかり捕まればよくて牢獄行き、悪ければ処刑されてしまうからだ


それでも世界を救いたいという一心でフリードリヒ国王はこの無茶を強行したのである。


 一時期百人以上の魔道士が在籍していたマルクシス研究所だが


ほとんどの魔道士達は各国の勧誘により出て行ってしまっており、今では十数名を残すのみであった。


 そんな中でも一人だけ異才を放つ者がいた、その男の名はベルハルト・バーキュリー


大魔道士マルクシスの一番弟子であり師からこの研究所を任されたマルクシス公認の後継者である。


 師であるマルクシスの死後ベルハルトに対する各国からの勧誘は凄まじかったが


ベルハルトは師の言いつけを守りどこからの勧誘にも耳を貸さずこの研究所を守ってきた。


フリードリヒ国王はそんなベルハルトを勧誘すべく危険をかえりみずこの研究所を訪れたのである。


「国王様自らこのような遠い場所までわざわざお越しいただいたのは大変恐縮ですが


私はこの研究所を離れる気はありません。申し訳ありませんがお引き取りを」


 危険をかえりみずここまで来た一国の王が直々に頭を下げてもバルハルトの意志は変わらなかった。


しかし世界の行く末を思うフリードリヒは引き下がれなかった。


「ベルハルト殿、今や世界はバーゼナンデ帝国とゲルゼド王国による侵略が進んでおります。


周辺国は次々と侵略吸収されこの両大国は誰も止められないほどの強大な力を持ちました。


世界の全ての国がこの両国によって統一されてしまえば必ずこの二つの国は激突するでしょう。


 そうなればあの【ケトラの悲劇】が再び引き起こされるのです、いや人類そのものが絶滅してしまうかもしれません。


あなたの師、マルクシス大魔道士が魔族から救ったこの世界が人間の手で滅びるかもしれないのです。


しかし私は無力だ、人類存亡の危機だというのに嘆くことしかできない。


ですからベルハルト殿、何卒お力をお貸しくだされ、世界のために、人類のために何卒‼」


 涙を流しながら頭を下げるフリードリヒ。バルハルトはしばらく目を閉じジッと考え込んでいたが、大きく頷いたあと口を開いた。


「わかりました、私がどれほどお役に立てるかはわかりませんが協力させていただきます


ですからお顔をあげてくださいフリードリヒ国王」


 こうしてマルクシスの後継者ベルハルトは共に行く事を決意する。


この時フリードリヒはベルハルトの手を取り涙ながらに何度も頭を下げたという。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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