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アルとサーシャ

頭上の太陽がその有り余るエネルギーを発散するかのように熱線を容赦無く照りつけ


地上にいる者達の気力と体力、そして水分を否応なしに奪っていく。


 周りは一面の真っ白な砂、目の前の光景がゆらゆらと揺れ動くのは暑さのせいで視界が揺らいでいるのか?


それともこれが陽炎という現象なのか?その判断もつきにくいほど、いや判断するのすら億劫になる程暑いのである。


 そんな砂漠の中で一人の男がふと立ち止まり頭から被っている茶色いフードの中から恨めしそうに空を見上げた。


「また気温が上がってきた様だな、ここら一帯もすっかり砂漠化してしまって……


数年前まで何万人もの人が住んでいた都市とは思えないほどの荒廃ぶりじゃねーか」


 吐き捨てるように言い放った。フードの中からのぞかせた顔は十五、六歳の男子に見えるが


日に焼けた褐色の肌に身体中に帯びた無数の傷跡


そして見た目にそぐわない鋭い眼光がこの少年がいかに凄惨な人生を送って来たのかを物語っていた。


 この少年の名はアルフレッド・バーキュリー。かつていくつもの国を滅ぼし〈リストランテの悪魔〉と呼ばれた〈生態魔導人間兵器〉である。


 アルフレッドが周りを見渡すと崩れかけた建物の残骸がポツリポツリと視界に入ってくる


それは廃墟というより消滅した都市の墓標にも見えた。


 そんな建物の残骸を無感情の眼差しで一瞥した後、舌打ちして後ろを振り向いた。


 「ちっ、このままじゃあ今日中にこのケトラ砂漠を越えられねーぞ……


おい、サーシャもっと早く歩けねーのか?そんなペースじゃあ日が暮れるぞ‼」


 いら立ち交じりの声で呼びかけるように言い放った先


アルフレッドから20mほど遅れてトボトボと歩くもう一人の人間の姿が見える


同じような茶色のフードの下には美しい少女の姿があった。


年齢は十七歳、この荒廃した光景に似つかわしくないその容姿は気品すら感じさせる。


肌はどこまでも白く、知性を感じさせる青い瞳、そして見事なプラチナブロンド


まるで美術品の人形のような姿をした彼女の正体は元ベルドルア王国の第一王女、サーシャ・フォン・ベルドルア。


かつて〈ベルドルアの宝石〉と呼ばれた美少女であり、〈王国一の頭脳〉とも称された才女である。


 しかし今は力なく砂漠を歩く一人の旅人となっていた。


「ハアハア……うるさいわね……ちゃんと……歩くわよ……」


 目一杯強がっているが見るからに疲労困憊であり限界寸前といった様子が見てとれた


だがそれも無理からぬ事でこのケトラ砂漠を徒歩で越えるのは鍛え抜かれた屈強な男でも至難の業なのである。


「さっきの勢いはどうした?あとちゃんと水分補給はしておけよ


脱水症状で動けなくなっても知らねーぞ、お前が倒れても俺は放っておくからな」


 立ち止まりサーシャを待っていたアルフレッドはようやく追いついた彼女に容赦無く辛辣な言葉を投げかける。


「ハアハア、わかっているわよ……ちゃんと一人で歩けるわ……でももう水もないのよ」


 サーシャは首からかけている水筒を大袈裟に振って見せ、中身が空であることを伝える。


「もう全部飲んじまったのかよ、仕方がねーな……ほらよ」


 アルフレッドは自分の首からかけている水筒を無造作に投げ渡す。


サーシャはびっくりした様子で受け取ると驚きの視線を向ける。


「でもこれアルのじゃない、アンタはいいの?」


 サーシャはアルフレッドの事を愛称でアルと呼んでいる


これは親しみを込めてというよりも単にアルフレッドと呼ぶのが面倒なだけなのだが。


「ああ、俺は普通の人間とは違うからな、水分を一ヶ月ぐらい取らなくてもどうという事はない。


俺のことは心配ないから遠慮せず飲め。ただしゆっくり飲めよ」


 サーシャは受け取った水筒の蓋を外し、水を飲もうとした時、その飲み口を見つめて一瞬躊躇していた。


その様子を見て怪訝そうな表情を浮かべるアル。


「どうしたサーシャ、飲まないのか?」


「いやその……これ、アルが口を付けたのよね?」


「ああ、俺の水筒だからな……もしかして感染症でも疑っているのか?


いっておくが俺の体には特殊な免疫が備わっているから、おかしな病原菌は死滅する様にできている、安心して飲め」


 淡々と説明するアルとは対照的になぜかドギマギしているサーシャ。


「べ、別にそんな事疑っていないわ……でもこれって関節キッスに……」


「何だ、それ?新手の感染症か?四の五の言っていないでさっさと飲め、急ぐのだろう‼」


 躊躇している彼女に向かってアルは苛立ちまじりに言葉をかけた。


「わ、わかっているわよ、飲むわよ、飲めばいいんでしょう‼」


 何かを吹っ切るように水筒の水を勢いよく一気に喉の奥に流し込む。


「馬鹿、一気に飲むなといっているだろうが‼今さっき言った事を忘れるとか、ホウホウ鳥かお前は⁉」


「失礼ね、私はこれでも頭はいい方よ‼大体アルは……」


 周りには誰もいない砂漠の真ん中で不毛な言い争いをする二人。


サーシャの祖国〈ベルドルア王国〉はつい先日に滅ぼされたばかりの国である


そしてサーシャの祖国を滅ぼした国こそ〈リストランテ連邦共和国〉。


つまりサーシャの祖国を滅ぼした最大の原因、一番の戦犯はこのアル本人なのだ。


そんな敵同士の二人がなぜ連れ立って旅をしているのか?その理由を今からお話しすることにしよう。


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