カレンダーに未来を埋める
「お願い聞いて」
疲れ切った彼はいつもみたいにため息をつく。
「病み上がりだって、何度言えばわかる?」
「病み上がりだからこそ、楽しみを詰め込まないと」
私は卓上カレンダーを彼に見せつける。まだ空きばかりだ。
幼馴染の彼はある病に苦しんでいた。手術の成功率は低く、成功したとしても良くなる見込みも低い。何もしないよりは希望があるという賭けに近いような状況だった。
絶望的。それは本人が一番わかっていた。平静を装っていたけど、元気がなかった。
『確率的に助かる見込みはない。それなら早く終わってくれ』
全てを諦めたような彼は燃え尽きそうな夕焼け空を見ながら嘆いた。
彼は絶望して、最期を願った。
無茶言うな、て言いながら、いつも私につき合ってくれた彼が弱音を吐いた。
私の無茶にはつき合ってくれるのに、自分の無茶には向き合わないの?
確率に縛られる彼を見て、余計に数学の確率の問題が嫌いになった。×だらけの確率の問題のプリントなんて遠くへ飛んで行ってしまえと思ったせいか、無意識に紙飛行機を作っていた。
たとえ低確率でも生きる希望はある。
そんな思いで私はお願いしようとした。自分の無茶には目を背けても、私のお願いにならいつもつき合ってくれるから聞いてくれるだろう、と。
でも、彼の意志は強かった。彼は私に無茶なことを言った。
『あの星まで、その紙飛行機が飛んだら聞く』
叶えられるわけない。
言外に彼はそう言ったようなものだった。
私も無理だと思った。でも、何もせずにできないなんて言うのはもっとできない。
何もしなかったら、彼の命を否定するみたいじゃないか。
だから、私は一か八かで紙飛行機を飛ばした。危うい瞬間はあったけど、紙飛行機は遠く、彼が言った星の方へ飛んで行った。
見えなくなるぐらい飛んだ紙飛行機の行方はわからない。きっと、星までは届いていない。
だけど、それを知る方法はない。
そんなズルい考えで私は彼にお願いした。
『諦めないで』
それが私の願い。
結果、彼は私のお願いを叶えてくれたから、今こうして話ができる。
彼はもう少ししたら退院できる。退院したら諦めてきた楽しみを叶えてほしい。
「プラネタリウムとかどう?」
「お前が行きたいだけじゃ……」
「決まり!」
私はカレンダーにプラネタリウムと書き込む。未来が目に見えるように、こうしてカレンダーに予定を詰め込む。
こうして、彼と一緒に過ごす未来をカレンダーに埋めて、叶えていけたらいいな。
彼が無茶を言った夕焼けの日の話→「紙飛行機のキセキ」https://ncode.syosetu.com/n4170ju/