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壱拾捌

 壱拾捌


『ゆ』

『油断大敵』

 生活基盤に大きな違いが有った江戸と大坂で、同じ札というのはカルタの中では珍しい。

 それだけこの言葉の意味する事が、当時の人には重要だったのだある。

 今でもよく使われる言葉であり、油断【気のゆるみ】は失敗の元となるので、何時でも気を張っていなさい以上の説明もいらないが、それでは納得出来ないものがある。

 物事何をやるにしても、世の中は生き馬の目を抜く様な状態で用心に超した事はないものの、気を張りっぱなしでいるのは強靭な精神の持ち主でも不可能である。

 それに対して攻撃する方は気楽な物で、相手が疲れた頃にチャイチャイとチョッカイを出しては引っ込む。暗闇に紛れて足元をすくっては逃げるの繰り返し。

 奇襲攻撃の恐怖や疲れから何れ敵はギブアップする。

 アメリカがベトナムで大敗したのも、同じ戦法によるベトコン(ベトナムコンバット)からの、執拗なゲリラ攻撃にあったからだ。

 ゲリラ戦は古代から存在していた。初歩的且つ効果的で安価な戦法である。

 多くの武器や資金を持たない民衆の戦い方の基本と言えるこの戦法によって、多くの大規模軍隊が苦汁を舐めている。

 今でこそ非人道的だと避難の的となる枯葉作戦のような無差別大量破壊を、相手が分かっていないままアメリカは容赦なくやった。

 東西の代理戦争である。ここで負ける訳には行かないとばかりに、両陣営の肩入れは並々ならぬものがあった。

 戦争に正義もク〇もあったものではない。

 大日本帝国軍が大きく関わり、日本の敗戦が切っ掛けとなったと言えなくもないベトナム戦争。

 地獄絵図以上に悲酸な戦争であった事を語り出すとキリが無いのでひかえるが、莫大な軍事予算を使い近代兵器を投入し、多くの人命と兵士の正常な精神を犠牲としたにも関わらず、竹やりを仕込んだ落とし穴やワイヤーに足を引っ掛けると飛んで来る無人の弓矢のようなブービートラップに、あの軍事大国アメリカでさえ負けた。

 ゲリラは気まぐれである。何時攻撃してくるかなど予想は不可能。

 攻撃に備えて気を張り続けていたのでは疲れ果ててしまう。

 加えて、ゲリラは歩く度に要所要所にトラップを仕掛け回っている。

 もはや仕掛けた本人でさえ、どこに仕掛けたか分からなくなってしまう程大量のトラップで、避けて歩くならばおのずと歩みが遅くなるのは必至。

 油断は大敵であるが、気を抜く時を造らなければいずれは崩壊してしまう。典型がベトナム戦争である。

 いかに大国を謳っていても、其の場シノギの戦略では、生きるのに一生懸命な多くの人達には勝てない。

 油断大敵。

 年中無休ばかりが生きる術では無い。

 人々はそれを知っているが、勝つ事しか頭にない大将に仕えていたのでは、そのうち共倒れである。

 限界を感じたら素早く撤退。十分な休養の後に体制を整えて再出陣もまた有効な戦法。

 困った大将に見切りをつけるのもまた生き残る術である。

 たまに油断してみると、世界には色々と見えてきたりするものもある。

 油断は大敵であり、親切な友人でもある。


『幽霊の浜風』

 いったい何時誰が言い出したのか、幽霊には足が無い。 

 海辺は他に比べて常に強い風が吹いている。

 十米二十米はそよ風。

 足場の悪い砂浜で強風に吹かれると、幽霊は足が無いばかりに踏ん張りが利かずフラフラとしてしまうと言われている。

 この様な姿を想像して、元気が無いとか迫力に欠けるといった意味として使う言葉なのだが、迫力は別として元気が無い様ってのはちょっと。

 元気のいい幽霊を見た事がない。

 それ以前に、足の無い幽霊を見た事もない。

 よりなにより、幽霊を見た事が無い。

 同じ思いの方は多いと思う。

 私の周りには若くして他界した者が大勢いる。

 病気・事故・犯罪被害・思い切って等々、理由はそれぞれだが、生前よく皆で集まると冗談で「誰が一番だろうが死んだら必ず皆の所に化けて出るように」と約束した。

 今までに、ただの一人も現れていない。

 それは約束して生き残っている者も同じで、私や友人達が神や仏の世界観を信じない理由の一つになっている。

 私の場合は約束していない【見ず知らずの婆あ幽霊】に会ってしまった事が一度ある。

 他にも、たまに変なのがうろついているのを見かける。

 幽体離脱というやつも一度経験したが、なかなかに面白い体験だった。

 妖怪変化や宇宙人・恐竜にはまだ出くわしていない。

 しかし、約束した奴等はいっこうに現れない。一気に本格的に死んだので化けて出る暇が無かったのか。

 幽霊は幽霊だから幽霊なのである。

 居るか居ないか、何時現れるか予想がつくならそれはテンパイとかリーチとか王手とかチェックメイトとか鉄板とか一番人気とか本命とかフィーバーなどと呼ばれている。

 そんな現象自体、幽霊やオバケでは無い。

 いずれにせよ幽霊がいる証明は困難で、存在の明らかでない者を例えに出して、とやかく言っても始まらないと昔の人も思ったのだろう。

 現代では殆ど使われていない。

 私が関東人だから聞きなれないのか、京都辺りでは今も使われているのだろうか?


『め』

『目の上のこぶ』

 自分より優れていたり地位が上の者を、邪魔者として表現する時に使う言葉である。

 考えてみるに【たんこぶ】は頭以外には出来ない。目より上にあるのは当たり前である。

 それをもってして目より上だから邪魔だと言っているとは思えない。

 目の上、瞼などに出来るのはたんこぶではない。【こぶ】というからには、きっと瞼に出来て膨らんだ物を指しているのであろう。

【こぶ】が大きくなれば成る程、瞼は重くなって目を塞ぎ広い世の中を見え難くしてしまう。

 この場合の【目の上】は【の】を取り除いて【目上】と解釈した方が解り易い気がする。

 実力や地位が上であっても、下の者の面倒見が悪い者はいずれ嫌われる。

 下の者は何時か上に居る者【こぶ】を潰さなければ先に進めない。

 何かとあれこれ指示されているうちに、格下の者が上に居る者を目障りだ邪魔者だと思い始めたとしても、何の不思議はない。

 それでもついて来てくれる格下の者には感謝すべきであろうが、上の者はどの様に謝意を示しているのか。

 瞼のこぶの様に膨らむ程度ならば、何時か引っこみも付くだろう。

 しかしこの出っ張り具合が【出る釘】となってくると、打つなり抜くなりする方々が増えて来る。

 長く【目の上のこぶ】でいるのも何かと大変なのである。


『盲の垣のぞき』

 いいのかよと思う方もいるだろう。

 完全に差別用語として定着し、公共の場での使用を自粛すべき言葉のトップテンに必ず入っている。

 しかしながら、私が言ったのではない。大昔の人が有り難いことわざとして残してしまったから仕方ない。

 どんな時でも不謹慎。不本意ながらビビりながら書き進めている。

 眼の不自由な方が、覗き見とはいかがなものかといったところである。

 気持ちは解らないでも無いが、やろうとしても出来ないのだから諦めた方が無難ですよ。と言いたいのである。

 差別が当たり前の江戸時代だからまかり通れたことわざ。

 昨今、脳の視覚中枢にカメラからの電気信号を直接流し込む事で、眼球が無くとも物の視覚的確認が出来る補助具の実験に成功している。

 今日明日すぐにとはいかないが、このことわざも過去の物に成る日がいずれはやって来るだろう。

 随分と昔に、盲の垣のぞきと同じ様な表現をして障害者を笑い飛ばした奴がいた。

【無理だ無理だ、水〇し〇〇の合掌。無理だ無理だ、ス〇ィ○○ー◯◯ダ◯の一目惚れ】恐ろしい程身勝手なブラックジョークで、分からない人は一生分からない方が幸せな話である。

 ジョークとはほど遠い表現であるが、笑う人と笑えない人がいるのは事実である。

 自分としては当たり前これでいいと思ってやっている行為や表現が、他人様から見ると酷く厭らしく見えたりする事もあるのだと、少しだけ気にかけながら生きて行きたい。

 何事にも相対する感情を抱く人がいるのは世の常。何が悪いだの良いだのなんて野暮は言いたくないので、この辺にしておきますか。

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