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引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第三章

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18-2 お兄様からの伝言

 ハッとそちらの方を振り向くと、屋敷の外壁すぐの地面に鉄製の装飾がめり込んで落ちている。


「なんとまァ、妻飾りが落ちたのかい? 縁起でもないね、この屋敷が建ってから妻飾りが落ちるなんて初めてだよ」


 デボラさんがブツブツ言う隣で、私は屋敷を見上げた。確かに妻側外壁の屋根近くに、釘を刺していた跡が見える。ちょうど寝室として私が使わせてもらっている二階の部屋の、ちょうど上部だ。


 その時、庭園で何か作業をしていたラピドスさんが、音に気付いて慌てて駆け寄ってきた。


「お、お怪我はございませんでしたか? 申し訳ございません、すっ、すぐに付け直します!」

「あんた、屋敷の外回りだからって管理をサボってやしないだろうね、まったく……。申し訳ございません、ソフィア様。ささ、修理中に近付いては危険ですので、こちらへどうぞ」


 デボラさんがそう言って私を庭園の中央にあるテーブルセットに誘導しようとするのを横目に、私はラピドスさんが恐縮した様子で地面の妻飾りを拾うのを見ていた。


 ……あれ?


 あの妻飾り、見覚えがある気がする。いつ、見たのだろう。この屋敷に来たばかりの時な気がする。


「……あ」


 思い出した瞬間、私はひゅっと息を呑んだ。


 あの夜──この屋敷に来た初めての夜、二階のあの部屋で、ライジーと窓越しに話していた時だ。部屋を訪ねてきたライジーは、確かに、あの妻飾りに掴まって外壁に立っていた。


 ……もしかして、そのせいで釘が緩んで落ちてしまったのでは!?


 私はいつも真面目に仕事をこなすラピドスさんを見ていたので、ラピドスさんが管理を怠る姿なんて想像できなかった。だからあの妻飾りが落ちてしまったのは、きっと──いや、確実にライジーの体重がかかった所為に違いなかった。


「ラ、ラピドスさん! 高所の作業は危険ですから、修理はライジーにお願いしてはどうでしょうか⁉」


 思わずそう口走ってしまったのだけれど、ライジーも私と同じことに気付いていたようで、こくこくと激しく頷いている。


「え? や、でも──」

「ライジーはとても身軽なので、あのくらいの高さならへっちゃらですよ!!」

「そうそう! 年寄りがあんな所のぼるの、危ないって!! 俺がやるし、ジーサンはここで待ってろよ!?」

「ほ……本当にお願いしてしまってもよろしいのでしょうか……?」


 私とライジーの必死の説得が効いたのか、ラピドスさんはためらいながらも承諾してくれたので、私たちはこっそり胸を撫で下ろした。万が一この修理でラピドスさんが屋根から落ちて怪我するなんてことが起きていたら……。私たちは悔やんでも悔やみきれなかっただろう。


 それからラピドスさんから妻飾りと修理道具を預かったライジーは、ひとっ飛びで屋根に上がった。それを見て、梯子に案内しようとしていたラピドスさんが腰を抜かしそうなほど驚いていたので、先に言っておけばよかったなと少し反省した。


 下からラピドスさんの指示を仰ぎながら、ライジーは屋根にぶら下がり、妻飾りの修繕をする──。

 その様子を見ながら、私はデボラさんに勧められた椅子に座った。


「ライジーが下りてきたらお茶にしましょう。用意しておきますね」

「はい、ありがとうござい──」


 デボラさんにお礼を言おうとした瞬間、目をぱちくりとさせた。目の前に突然、光る鳩が舞い降りたからだ。


 恐ろしさや驚きは無く、ただその美しく、幻想的な光景に心を奪われていると、デボラさんがハッとした様子で声を上げた。


「ソフィア様! それはサーレット様からのご伝言──」


 デボラさんの言葉が言い終わらないうちに、その光る鳩はまばゆい光を放った。咄嗟に閉じた目を恐る恐る開くと、目の前には鳩の代わりに、文字が宙に浮かんでいた。ぼんやりと光るそれを、私は目で追った。



 ──すまない、ソフィー。急に押しかけてくる奴らがいるだろうけど、追い返していいからね──



 デボラさんの言う通り、その口調は確かにお兄様のようだった。けれど、「急に押しかけてくる奴ら」とは一体……?


 私が首を捻ったところで、庭の向こうの門からカシャンと音が鳴り、ハッと振り返った。


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