表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/112

16-4 窓辺の懺悔


 二階に幾つかある部屋のうち、ひとつの部屋の中、私は部屋を見渡しながら、ベッドの端に座った。


 普段は使われていないのか室内は簡素な設えだったのだけれど、掃除は行き届いて、充分すぎるくらい居心地は良かった。勝手に泊めていただいている身としてはありがたすぎる環境だ。


「ふぅ……この一日、色々なことがあったなぁ……本当に」


 宙を仰ぎながら、私は一人つぶやく。


 昨晩のあの轟音から始まり、このお屋敷に来るまでの出来事は、たった一日の間に起こったこととは到底思えない。


 けれど、嗅ぎなれないこの部屋のにおいも、ふわふわの布団の感触も、確かに本物だった。


 この一日で私の心に襲い掛かってきた怒りも、悲しみも、絶望も、大分落ち着きを見せていたけれど、まだ私の中でくすぶっている。


 ──とりあえず眠ろう。疲れた頭と体でいては、ろくなことしか考えないから。


 そう決めて、私の汚れた服で布団を汚さないよう、お兄様の外套を体に巻いていると、窓の方からコツン、という音が聞こえた。


 聞き覚えのある音だと思いながら窓の方を振り向いた瞬間、外から投げられた小石が窓ガラスにコツンと当たるのが、ちょうど見えた。


 ──もしかして。


 私はそちらに駆け寄り、ためらいもなく窓を上にスライドさせて開けた。夜中の冷え切った空気が顔をツンと刺激する。


「リリー」


 頭上から声がして、窓の外に顔を出し、上を覗き込む。するとそこには、妻飾りに掴まりながら外壁に立つライジーの姿があった。


「ライジー!」

「起こしたか?」

「ううん、今から寝ようと思っていたところだから……どうしたの? あ、寒いよね。部屋に入って?」


 そう言って私が頭を引っ込めようとしたのだけれど、ライジーは止めた。


「いや、ここでいい。寝る前にちょっと話したかっただけだし。兄ちゃんにリリーの部屋に入るなって言われたしな」

「そう……」

「リリー……その、大丈夫か?」

「え? うん、私は大丈────」


 ためらいがちに尋ねたライジーを心配させたくなくて、私は反射的に問題ないことを伝えようとした。


 けれど、ライジーにまで強がらなくていいと気付いて、首を横に振って言い直した。きっとライジーには気付かれているはずだから。


「ううん……まだ頭の中がぐちゃぐちゃしてる、かな」

「そっか……」


 ライジーは一瞬目を逸らしてから、再びこちらに視線を戻すと言った。


「やっぱ、そこ退いて」


 私が頭を窓の内側に戻すと、ライジーが上から降ってきて、軽やかに窓の縁に降り立った。そして窓枠の上にしゃがみ込み、ライジーは私の体を抱き寄せた。


「リリー、ごめん……俺のせいだ」

「……ライジー?」


 突然のことに、私はキョトンとした。ライジーの顔を覗こうとしたけれど、抱きしめられているせいでその顔は見えない。


 でも、聞いているだけでこちらの心も苦しくなってくるその声で、彼が自分を激しく責めているのは明白だった。


「ライジー……大丈夫だよ」


 私はライジーの背中に手を回すと、そっと撫でた。そして気付いた──ライジーがずっと元気なさげなのは、このせいだったのだ、と。


 ライジーが何のことで自責の念を抱いているのかは分からない。けれど、それがわかったところで、私が彼を責めることは無いだろう。


 ライジーはすでに、こんなにも悔いているのだから。そして、それ以上のものを私に与えてくれてきたのだから。


「俺……まだ、リリーのそばにいてもいいか……?」


 今にも消え入りそうな声で問う声に、私は微笑んだ。


「ふふ、何言ってるの? 当たり前じゃない。むしろ嫌だって言われても、私がライジーのそばにいるからね?」


 そう言った後、私の背中に回された手にさらに力が込められた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ