16-4 窓辺の懺悔
二階に幾つかある部屋のうち、ひとつの部屋の中、私は部屋を見渡しながら、ベッドの端に座った。
普段は使われていないのか室内は簡素な設えだったのだけれど、掃除は行き届いて、充分すぎるくらい居心地は良かった。勝手に泊めていただいている身としてはありがたすぎる環境だ。
「ふぅ……この一日、色々なことがあったなぁ……本当に」
宙を仰ぎながら、私は一人つぶやく。
昨晩のあの轟音から始まり、このお屋敷に来るまでの出来事は、たった一日の間に起こったこととは到底思えない。
けれど、嗅ぎなれないこの部屋のにおいも、ふわふわの布団の感触も、確かに本物だった。
この一日で私の心に襲い掛かってきた怒りも、悲しみも、絶望も、大分落ち着きを見せていたけれど、まだ私の中でくすぶっている。
──とりあえず眠ろう。疲れた頭と体でいては、ろくなことしか考えないから。
そう決めて、私の汚れた服で布団を汚さないよう、お兄様の外套を体に巻いていると、窓の方からコツン、という音が聞こえた。
聞き覚えのある音だと思いながら窓の方を振り向いた瞬間、外から投げられた小石が窓ガラスにコツンと当たるのが、ちょうど見えた。
──もしかして。
私はそちらに駆け寄り、ためらいもなく窓を上にスライドさせて開けた。夜中の冷え切った空気が顔をツンと刺激する。
「リリー」
頭上から声がして、窓の外に顔を出し、上を覗き込む。するとそこには、妻飾りに掴まりながら外壁に立つライジーの姿があった。
「ライジー!」
「起こしたか?」
「ううん、今から寝ようと思っていたところだから……どうしたの? あ、寒いよね。部屋に入って?」
そう言って私が頭を引っ込めようとしたのだけれど、ライジーは止めた。
「いや、ここでいい。寝る前にちょっと話したかっただけだし。兄ちゃんにリリーの部屋に入るなって言われたしな」
「そう……」
「リリー……その、大丈夫か?」
「え? うん、私は大丈────」
ためらいがちに尋ねたライジーを心配させたくなくて、私は反射的に問題ないことを伝えようとした。
けれど、ライジーにまで強がらなくていいと気付いて、首を横に振って言い直した。きっとライジーには気付かれているはずだから。
「ううん……まだ頭の中がぐちゃぐちゃしてる、かな」
「そっか……」
ライジーは一瞬目を逸らしてから、再びこちらに視線を戻すと言った。
「やっぱ、そこ退いて」
私が頭を窓の内側に戻すと、ライジーが上から降ってきて、軽やかに窓の縁に降り立った。そして窓枠の上にしゃがみ込み、ライジーは私の体を抱き寄せた。
「リリー、ごめん……俺のせいだ」
「……ライジー?」
突然のことに、私はキョトンとした。ライジーの顔を覗こうとしたけれど、抱きしめられているせいでその顔は見えない。
でも、聞いているだけでこちらの心も苦しくなってくるその声で、彼が自分を激しく責めているのは明白だった。
「ライジー……大丈夫だよ」
私はライジーの背中に手を回すと、そっと撫でた。そして気付いた──ライジーがずっと元気なさげなのは、このせいだったのだ、と。
ライジーが何のことで自責の念を抱いているのかは分からない。けれど、それがわかったところで、私が彼を責めることは無いだろう。
ライジーはすでに、こんなにも悔いているのだから。そして、それ以上のものを私に与えてくれてきたのだから。
「俺……まだ、リリーのそばにいてもいいか……?」
今にも消え入りそうな声で問う声に、私は微笑んだ。
「ふふ、何言ってるの? 当たり前じゃない。むしろ嫌だって言われても、私がライジーのそばにいるからね?」
そう言った後、私の背中に回された手にさらに力が込められた。




