13-5 ソフィアと獣人の子たち
そうして、子どもたちを引き連れて、ソフィアとの待ち合わせ場所に着いたのだが。
「かっ、かわいい~~~~!!」
ソフィアが子どもたちを抱き寄せるのを見て、ライジーは思った。
(やっぱ連れてこなきゃよかった)
他の魔物を連れてきたことで怯えたり怒ったりするどころか、むしろ嬉しそうなソフィアを見て、正直ホッとしたのは事実だ。
だが、愛しそうに子どもたちを見つめるソフィアの姿は、正直、面白くない。彼女から向けられる関心も、温かな眼差しも、お菓子も、いつもなら自分だけのものだったのだ。
ジトっと見ていると、それに気付いたソフィアがマフィンを差し出してきた。
「あ……ごめんね。ライジーも食べたかったよね」
(……違う)
ムッとしたライジーは、マフィンではなく、ソフィアの手首を取った。
「今はこれだけで我慢しといてやる」
ソフィアは解っていない。ソフィアの関心を向ける相手がたとえ幼子であっても、ライジーは激しく嫉妬してしまうということを。
とは言え、子どもたちを連れてきたのはそもそも自分だ。文句を言う筋合いは無い。だから今はソフィアを膝に乗せて、その手から直接マフィンを食すことで、そのどろどろとした感情を抑えることにした。
ただ、せっかくこれで我慢しようと思ったところなのに、ソフィアが膝から降ろしてほしいと言ったから堪ったものではない。冷たい地面の上にソフィアを座らせたくないし、何より離したくないからだ。
ソフィアと二人、ああだこうだと揉めていると、マカラがポツリと言葉を漏らした。
「やっぱり、おねえちゃんがライジーのつがいなの?」
その瞬間、ライジーの頭に一気に血が上る。
(おまっ……今日俺が言うはずだったことを、何先に言ってくれてんだーー!)
さっと横目で見ると、ソフィアはキョトンとしている。今ならまだ誤魔化せる気がして、怒鳴り散らした。
「ばっ、馬鹿言ってないで食ってろ‼」
だが、子どもたちはきゃっきゃと楽しそうで、まだその口は閉じそうにない。
「あ~、やっぱりそうなんだあ」
「オトナたちがこそこそ言ってたもんねー」
(頼む。頼むからその口を閉じてくれ……)
ライジーが心の中で一人悶絶しそうになっていると、ソフィアが恐る恐る訊ねてきた。
「あの、ライジー? えっと、番って……」
ライジーに答えられるわけがなかった。うまく誤魔化せる自信はないし、本当のことを言うにしても、今は言えない。然るべき場所、然るべき時に伝えたいからだ。
だからこそ、ライジーは答える代わりに顔を背けることしかできなかったのだが、有難いことに、ソフィアがそれ以上追及してくることはなかった。
その後、ソフィアの提案で、お菓子がたくさんあるからとソフィアの家に皆で行くことになった。
ライジーはその案に承諾はしたものの、やはりいい気はしない。
ソフィアの家は、ソフィアと自分の大切な場所。そんな場所に、誰も入ってほしくなかったからだ。
しかもその上、プロポーズの機会を駄目にされたのだ。不貞腐れるなという方が無理な話だった。
だから、だ。子どもたちに自己紹介しようとソフィアが自分の名を告げようとしたその時、その口を塞いだのは。
「ソフィア! ソフィアだよ」
──ライジーがソフィアに本名を名乗らせるのを妨げて、あえて今日はまだ「リリー」と呼ばずにいた理由。
せめて彼女の名前だけは、他の誰にも奪われたくなかったからだった。




