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引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第二章

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13-4 不服なれども同伴者

 


 ◇◇◇



 指輪は用意できた。


 ついにプロポーズするべく、ライジーはソフィアに野掛けに行かないかと誘った。


 プロポーズされるなどとソフィア自身は微塵も気付いていない様子だったが、それで良かった。プロポーズのその瞬間まで緊張させなくて済むからだ。


 待ち合わせ場所はソフィアの家の近くの丘だ。そこから少し歩いて例の場所に行き、そこで指輪とともに、想いを渡すのだ。


 ──それなのに。


「……なんだよ、おまえら」


 ソフィアと約束している場所に向かっていたライジーだったが、“境の森”に入る手前で立ち往生していた。


 里の子どもたち──いつもの6人の子どもたちが、ライジーの前に立ちふさがっていたからだ。


「ふふーん」

「ニンゲンのいるところに行くんだろ?」

「わたしたちもつれてってよ!」


 このところライジーを探しに“境の森”付近をうろうろしていたのだが、とうとう今日、本人に出くわし、子どもたちはしたり顔だ。


「は? 駄目に決まってんだろ」


 ライジーにそう即答されたが、もちろんここで諦めるタマではない。リャゴスが子どもたちを代表して、ニヤニヤとした顔で言った。


「里のみんなに、ライジーがなにかあやしいことしてたって言うぞ!」


 こう脅せば、ライジーは言うことを聞いてくれるはず。そう踏んでいたのに、ライジーの返答は実にあっさりしたものだった。


「あー言え言え。じゃな」


 手をひらひらとさせながら横を通り過ぎようとしたライジーに、子どもたちが慌ててすがりついた。


「わーーーーっ!」

「ライジーのバカーーーー」


 ライジーは6人の子どもにまとわりつかれ、さも面倒くさそうにしかめっ面になっている。


 ライジーとしては、子どもたちを振り払って行くことは造作もないことだ。今さら人間界に出入りしていると里の者や長老に告げ口されても、痛くも痒くもないのだから。


 しかし、ひとつだけ問題がある。


 このまま子どもたちを捨て置いて行けば、彼らはきっと自分を追ってくるだろう。そして“境の森”で迷子になったり、最悪もっと危険な事に巻き込まれる可能性もあるのだ。以前、ロイとアイザックがそうであったように。


 一度里に戻る手もあったが、わざわざソフィアに約束を取り付けた手前、反故にするわけにはいかなかった。


 ──非常に不服だ。不服だが、これは子どもたちの言う通りにせざるを得ない状況だった。


(仕方ねえ……こいつらを連れてくしかないか。少し人間界を堪能させてやりゃ、満足して帰るだろ。気は進まねえけど……)


 ライジーは深々とため息を吐いた。仕方ない状況とはいえ、本音を言えば、人間界に自分以外の魔物を入れさせたくなかった。


(まだガキとはいえ、魔物は魔物だもんな……リリーを怯えさせたくないし)


 頼みの綱は結界だ。結界が子どもたちを阻んでくれれば、彼らも諦めがつくだろう。


 そう心の中で願っていたが、“境の森”に入り結界の所まで来たら、子どもたちも何事も無く結界を通り抜けられる始末だ。


(おいおいおい! いいのかよ、こんな簡単に魔物を入れちまって!)


 初めて人間界に入り興奮している子どもたちを尻目に、ライジーは心の中で結界に突っ込んだ。だが、結界の力が弱まっていることなど、ライジーが知る由もない。


 魔界に生まれてまだ日の浅い彼らは、成人の獣人と比べれば確かに邪気が薄い。上位の魔族と比べると獣人の持つ邪気は薄いが、その子どもであればなおさらだ。だからこそ結界を通り抜けることができたのかもしれない。


(……ま、デカくなるにつれ、こいつらの邪気も強くなるから、そのうち結界も通れなくなるだろうけどな)


 そんなことを考えながら子どもたちを連れて歩いていると、森の向こうから白い犬が現れた。ジトっとライジーのことを睨んでいるのが遠目でも分かる。


(あー……なに勝手に魔物なかま連れてきてんだとか思ってんな……)


 テオとは同盟を結んだ。ソフィアを守り、害となることをしなければ、お互いのすることに口出しは無用と。


 今、テオはこの子どもたちが危害を加える者ではないかと品定めしているのだろう。目の前まで来ると、子どもたちの周りをぐるぐると歩き、じろじろと見ている。


 そんなテオを見て、子どもたちはキラキラとした目で尋ねてくる。


「うわあ~~! ライジー、これ、ニンゲンのせかいのいきもの!?」

「おいかけていい!?」

「つかまえていい!?」

「……ダメだ」


 そう一蹴してから、ライジーは思った──終わったかもしれない、と。この子どもたちが危険物認定されれば、それを連れ込んだライジーもテオに抹殺されるに違いない。


 バクバクという自分の心臓の音だけを聞いていると、やがてテオは元来た方向に体を向けた。一応お許しは出たようだ。フンと鼻を鳴らしたその顔を見れば、ライジーが子どもたちを連れて来ざるを得なかった理由を察してくれた様子さえある。


(ひとつ借り、ってとこだな……)


 ふうと息を吐くと、ライジーはその白い尻尾の後に続いた。


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