13-3 アイザック
◇◇◇
「あっ!」
森の中、向こうから歩いて来る仲間の姿を見つけて、ロガが怒ったような、ホッとしたような声を上げた。
「どこに行ってたんだよアイザック! いま、みんなでおまえのこと、さがしてたんだぞ」
「ご、ごめん」
「このあいだ、おまえとロイがいなくなって、おおさわぎになったばっかだろ! またおなじことになったら、こんどこそオレたちみーんな、外に出してもらえなくなるぞ!」
「うん……」
しゅんとしているアイザックを見て、ロガがひとつ息を吐くと、くるりと体の向きを変えた。
「ほら、オトナたちがしんぱいし出す前に里にもどるぞ。──おーい! アイザックがいたぞー!」
ロガがそう大声を上げると、あちこちに散らばっていた子どもたちがわらわらと集まってきた。
「アイザックのばかやろー。しんぱいしたんだぞ!」
「まいごになるなんて、あいかわらずどんくさいなぁ」
「でもよかったね。すぐ見つかって」
仲間の子どもたちが口々にぼやいたが、アイザックはこうして何事も無く戻ってきたので良し、だ。子ども6人揃って、今度こそ里に戻ろうと、歩き出す。
その途中、隣を歩いていたロイが、アイザックにこそっと尋ねた。
「アイザック、どこかケガしてる?」
「え? してないよ?」
「そっか? なら、気のせいだったのかな」
首を傾げているロイに、アイザックが口を開きかけた時、横からロガが割り込んできた。
「おいロイ! 今から狩りのとっくん、するぞ!」
「ええ~、今からぁ?」
「おまえ、まだうさぎも狩れないだろ? このおれがおしえてやるんだからありがたく思えよな!」
「わかったよぉ……」
ロガがぶすっとしているロイの肩を組んでいると、隣のアイザックとふと目が合った。
「お、アイザックもいっしょに来るか?」
「……今日はやめとくよ」
「そーか? でもおまえも狩り、にがてだろ? れんしゅうしろよな」
そうこうしているうちに里に着いたので、ロイはロガに引っ張られていった。他の仲間たちもそれぞれの寝床や親のもとに帰っていった。
一人残されたアイザックは、周りを見渡した。それはいつもと同じ光景のように見えたが、ひとつ違った。
アイザックは里のはずれにそびえ立つ大木に近付くと、その根元でうずくまっている獣人に恐る恐る声を掛けた。
「カーラ……ど、どうしたの?」
「アイザック……」
うずくまっていたのは、カーラだった。泣き腫らしてぐしゃぐしゃになったその顔は、それは酷い有様だった。
「……大丈夫だから、行きなさい。お母さん、待ってるんじゃないの」
「でも……」
「私はただ自棄になってるだけ。ライジーは人間の雌を選んだのよ。……里で噂になってるから知ってるでしょ」
ずず、と鼻をすすりながら、カーラは言った。声がかすれているのは、声が枯れるほど泣いたからだろう。
「……お願い。あっち行って。みんなが引くくらい、ひどい言葉が口から出てしまいそうなの」
カーラだってライジーに対する恨みつらみなど、彼を慕う子どもたちに聞かせたくはない。だが、アイザックはカーラのもとにしゃがみ込むと、こう言った。
「……ぼく、しゃべるのヘタだから、だいじょうぶだよ」
「は?」
「カーラがどんなひどいことを言っても、ぼく、ひとにうまく伝えられないから。だから、だいじょうぶだよ」
そう言うと、アイザックはニコッと微笑んだ。それがカーラの顔を再びくしゃりと歪ませた。
「アイザック……私ね────」
自分を選んでくれなかったライジーへの恨み。選ばれた人間の女に対する妬み。
カーラは胸の内に鬱積した想いを全て吐き出した──。




