9-5 はぐれ獣人
◇◇◇
「ヴァルじい、ファンばあ。ライジー知らない?」
カーラは今日も幼なじみを探していた。まずは里の住人に聞き込みから、だ。
里の端の方で、里一番の高齢番であるヴァルとファンが日向ぼっこをしているのを見つけて、カーラは早速尋ねた。
この弱肉強食の魔界で獣人が高齢になるまで番で生き残ることは難しい。大抵はどちらかが先に死ぬからだ。
だが生き残れば、番というものは生涯を共にするほど仲睦まじい。ヴァルとファンはそれを体現する珍しい存在だった。
いつも二人一緒に行動するのを見て育ったカーラも、彼らのような番になりたいと思った獣人の一人だ。もちろん番になってほしい相手は、今探している彼だ。
声を掛けられ、うっすらと目を開けたヴァルがしわがれた声で答えた。
「あぁ? 日の出と共に出て行ったぞ」
「え? 日の出に?」
カーラはその言葉に引っかかった。
ふつう獣人が活発に動く時間帯は夜で、日が高い間は洞窟の中でじっとしていることが多い。少なくとも里からは出ないものだ。
それなのに、これから日が高くなるという時分に里を出て行くとは。
(そういえば……最近、真昼間にライジーを見かけないことが増えたのは、里の外に出て行ってるから?)
見かけないのが夜中だったなら、カーラもそれほど気にすることはなかっただろう。
だが、これはどうにかして突き止めなければ。もちろんライジーが真昼間にどこへ行っているかだ。
「ね、どっちに行ったか覚えてない?」
カーラが尋ねると、今度はファンの方が答えた。
「そうさなぁ……“境の森”の方だったか。ほら、人間の結界がある」
(“境の森”? なんでそんなとこに?)
人間の張った結界がある、危険なあの森へ近づく獣人など、ほとんどいない。それなのにライジーはそんな場所に何の用があるというのか。カーラは見当もつかなかった。
(分からないけど、とにかく……ライジーを連れ戻さなきゃ!)
グッと脚に力を溜めたカーラを見て、ヴァルが口を開いた。
「カーラ。今からあの若造を探しに行くつもりか?」
「そりゃ、やめときな」
続いてファンにもそう言われ、カーラは振り向いて抗議した。
「何で? 日の入りまで待てないよ」
「そうじゃない」
ヴァルは首を振った。そして、カーラの思いもしなかったことを口にした。
「ライジーはな……はぐれ獣人になるのかもしれん」
「はぐれ……獣人に?」
その言葉に、カーラは目を見張った。「はぐれ獣人」という存在は知っているが、少なくともカーラが生まれてからは、この里から「はぐれ獣人」は出現していない。
成熟した雄の獣人の中には、群れから出ることを選択する場合がある。それは群れの中で生じた抑圧や葛藤が原因で起きるらしいが、実際に「はぐれ獣人」になることを選ぶ獣人は滅多にいない。
「はぐれ獣人」となった個体が、魔界で生き残れる可能性が低くなるからだった。
「そんな雄の番になってみろ。苦労するのはおまえだよ、カーラ」
ファンの声が重石のように、カーラの心にずしりと沈んでいった。




