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引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第一章

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6-8 また明日

 


 ◇◇◇



 子どもたちが昼寝から目を覚ますと、夕刻に近い時間になっていた。


 あまり遅くなってはいけないので帰宅を勧めようかと思っていた矢先、ライジーが率先して帰りを急かしてくれた。なんだかんだで子どもたちのことを考えてくれていて、ライジーは本当にやさしい。


 けれど、子どもたちは全然納得していない様子だった。


「やだー! かえらないー!」

「もっとソフィアとあそぶんだもん!」

「馬鹿言うな、ソフィアに迷惑だろ! ほら、行くぞ!」


 ライジーはそう言って子どもたちを掴んでいこうとするけれど、子どもたちは私の足にしがみついて離れようとしない。


 そんな時、ロイが私の顔を見上げて言った。


「……そうだ! ソフィアがぼくたちの里でいっしょにくらせばいいんだよ。ソフィアが来たらみんなよろこぶよ!」

「お! それ、いいかんがえだな!」

「そしたら、ソフィアねえちゃんとずーーっとあそべるもんね!」


 私がきょとんとしている間も、子どもたちはわいわいと話を盛り上げている。


「おい、無茶言うな。ソフィアを魔族の土地に連れていける訳ねーだろ」


 途中、ライジーが呆れ返った様子で話に割って入ったけれど、子どもたちは真っ向から反対した。


「なんで? ニンゲンたちはソフィアをなかまはずれにしてるじゃんか! さっきの本のおはなしみたいに!」

「ソフィアがひとりですんでるのって、ニンゲンたちにおいだされたからでしょ?」

「そんなやつらなんかほっといて、ぼくたちの里においでよ! ぜったい、たのしいよ!」


 子どもたちのキラキラとした瞳は真剣そのもので、本心からそう言ってくれていることが分かる。


 私はしゃがみこむと、子どもたち一人ひとりの顔を見ながら微笑みかけた。


「ありがとう、誘ってくれてうれしいです。私も、みんなの住む世界を見てみたいな」

「じゃあ……!」

「でもね、みんなのお父さんやお母さん……里のお仲間さんの大切な里に勝手に立ち入るわけにはいかないわ。それに私は、自ら望んでここで暮らしているから、仲間外れにされているわけではないのよ。だから安心してね」

「ちぇっ! いいかんがえだとおもったのにな」

「えー、ざんねん~~」


 口を尖らせて悔しがる子どもたちを見渡して、私は尋ねた。


「あの……私たち、もうお友達ですよね?」」


「なに言ってんだよ、あたりまえだろー」

「おともだちー!」


 子どもたちが次々とそう言ってくれるので、胸がじいんとなる。自然と笑みがこぼれて、彼らに提案する。


「じゃあ、約束をしませんか? 今日はこれでお開きだけれど、今度もまた皆で美味しいものを食べて、楽しいことをする。どうでしょう?」


「するする!」

「やったー!」


 ライジーは後ろでやれやれと呆れ混じりの顔をしていたけれど、子どもたちは次の約束を凄く喜んでくれたので、どうか許してあげてね?


 その時、背中に温かいものを感じて振り返ると、アイザックが私の背中に抱き付いていた。


「どうしたの、アイザック?」

「……おわかれの、あいさつ」


 そう呟いたのが胸にきゅんときた。あまり喋らない子だけれど、こうやって懐いてくれているのが分かって嬉しい。本当に、獣人の子どもたちは、どうしてこんなにもいとしいのだろう。


「アイザックだけずるい~! わたしも!」

「ぼくもー」

「お、おれも!」


 次々と他の子たちも私に抱き付いてきて、終いには押し合いへし合いのおしくらまんじゅうみたいになっていた。


 危うく総倒れになりかけたところを、ライジーが私だけを助けてくれた。ムッとした顔をしているところを見ると、ライジーもおしくらまんじゅうに入りたかったのかな。


 子どもらしいところも可愛い、と思ってしまうのはライジーに恋しているからかもしれない。





 それから皆で居間から玄関に向かった。子どもたちがはしゃぎながら先を行くのを見ながら、ライジーと一緒にその後を付いて行く時だった。


「……あ、ライジー。そういえば、私に見せたかったものって何だったの?」


 元はと言えば、ピクニックに行くことになったのも、それが発端だった。思わぬお客様が現れてそれを見に行くことは叶わなかったけれど、ずっと頭の片隅で気になってはいたのだった。


 私が訊ねると、ライジーは頬を赤らめ、言葉を濁した。


「……あー……え、っとだな……」

「??」


 そんなに言いにくいものなのだろうか。私が首を傾げていると、ライジーがちらっとこちらを見ながら、こっそりとつぶやいた。


「……また二人だけの時に、な」


 そう言われたら、楽しみにならないわけがない。私は笑顔で頷いた。


「……うん。楽しみにしてるね」


「明後日から領都に行くんだろ?」

「うん。前にも言った通り、一週間程度で帰ってくる予定だよ」


 お兄様の結婚準備を手伝うため、実家の辺境伯家に帰ることをライジーにはもう伝えてあった。


 またしばらく会えなくなるけれど、お兄様が我が家に訪問した際の三週間程度と比べると今回は短いので、ライジーから不満はほとんど出なかった。


 ……と思っていたのだけれど。


「……しばらく会えなくなるんだったら、明日も、来てもいいか? 明日は、その、ひとりで来るから」


 そう尋ねたライジーは、少し拗ねたような顔をしている。


 今日は子どもたちが一緒だったから、過ごし足りない、と思っていたのは私だけではなかったようだ。私は嬉しくなって、笑顔で答えた。


「待ってるね」



 ◇◇◇



 ライジーたちを玄関前で見送った後、私はテオと一緒に部屋の中に戻った。


 そして部屋の片付けをして、夕食に近い時刻だったのでそのまま食事を作った。食べ終えると食器を片付け、それからお風呂に入った。


 その後は少し休憩をしてから、寝る時間になるまで物語を書いた。


 長らく書いてきたこの物語は区切りのいいところまで書けたので、しばらく置いておこうと思う。


 そして、筆記帳はレターケースの奥の、さらに奥の方にしまい込んでしまおう。




 これから思い描くべきは、新しい物語なのだから。



ここまでお付き合いくださりありがとうございます。

次回から新章に入ります。

ただちょっと新章は、この、のんびり~まったり~した雰囲気がガラッと変わり、びっくりするかもしれません。

こんなお話の書き方ってありかな……?と自分的に実験しているような感覚です。

不穏な展開で始まりますが、悪いようには致しませんのでどうか見捨てないで……!

新章もお付き合いくださるならこの上なく幸せです。

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