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引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第一章

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6-1 冬のピクニック

 吐く息は白く、冬が来たなあと実感する。


 日に日に空気が冷たさを帯び、空もすっかり冬の色に塗り替えられた頃、私はテオと共に森の近くまで来ていた。


 本格的に冬に入ったというのにここに来た理由は、もちろんある。今日はライジーとピクニックをする約束をしているのだ。


 ライジーに誘われたとき、冬なのにピクニック? と思ったけれど、どうやら私に見せたいものがあるらしい。それが何なのかは教えてくれなかったけれど、彼が何を見せてくれるのか、とても楽しみだ。


 ワクワクし過ぎたせいで昨晩は中々寝付けず、若干寝不足だけれど、今日の予定には全く差し障りはない。ライジーと一緒に過ごせると考えただけで、いくらでも力は湧いてくるから。


 待ち合わせはここ、森の前にある丘の上だ。いつも家から眺めていた場所で、実際に来たのは初めてだ。今は寂しい色の地面だけれど、毎年春には色とりどりの草花で覆われる丘だと認識している。


 私たちが丘に着いた時、ライジーはまだ来ていないようだったので、座る場所を作ることにした。


 敷物を広げ、その上に座る。持ってきたバスケットは横に置いた。バスケットの中には、今日のためにたくさん焼いてきたお菓子が入っている。それに、温かい紅茶も。


 後で敷物一面にそれらを並べたら、ライジーはきっと目を輝かすだろう。そう思うと、思わず笑みがこぼれてしまう。


「早く来ないかな」


 思わず、口からぽつりと言葉が漏れた。それに気付いて、テオの他に誰もいないのに、一人顔を真っ赤にする。


 近ごろの私は寝ても覚めてもライジーのことばかり考えていて、本当に、私はどれだけライジーのことが好きなのだろう。我ながら呆れてしまう。


 ライジーに好意を抱いていると自覚し、さらにお兄様の訪問で会えない期間のおかげで、余計にライジーへの恋しさが募ったように思う。


 日中はライジーが家に遊びに来ないかとそわそわし、寝れば夢にライジーが出てくる始末だ。


 ライジーにこのことがバレたら、きっと呆れを通り越して、気味悪がられるに違いない。


「うう……大人しく本でも読んで待ってようかな……」


 ライジーに気持ち悪いと思われたくないので、持参していた本を読んで待つことにした。


 今日持ってきていた本は、是非ともライジーに読んでほしくて持ってきた本だった。ずっと探していたのだけれど、先日、自宅の本の山の整理をしていた時に発掘したのだ。


 私がその本を読み始めた頃、それまで近くでのんびりとしていたテオが突然、立ち上がった。そして、とすとすと丘を下り、近くの森の中へと消えていってしまった。


「テオ? どうしたのかしら……」


 一人残されるのは少し不安だ。魔族の領地に近い森はすぐそばだから。


 けれど、いつも守護者ガーディアンのように私の傍にいるテオが気にするでもなく私から離れるくらいだから、きっと危険はないのだろう。何となくだけれど、私もそう感じる。以前、森の奥に入った時に肌がひりつく感じがあったけれど、今はそれを全く感じないから。


 努めて冷静に本を読んで待っていると、やがてテオが戻ってきた。


「あ、テオ──」


 ホッとしたのもつかの間、テオの後ろにライジーがいるのに気付いた。彼の姿を見た途端、不安感などすっかり忘れて、心が弾む。呆れるほどに私は単純だ。


「ライ……」


 本を置いて立ち上がろうとした瞬間、彼の背後に小さな影がいくつもあるのに気付いて、体が固まる。


「うわあ! ほんとーにニンゲンだ!」

「ねーねー、あれなに?」

「おいしそうなにおいがする!」


 可愛らしい、高い声が次々に上がり、静かだった丘が一気に賑やかになる。


「ラ、ライジー……その子たちは……?」


 手で口元を押さえて、思わず飛び出そうになった言葉を抑え込み、代わりにそう尋ねる。


 ライジーの背中からわっと現れたのは、5、6人の子どもたちだった。


「うわっ」

「ニンゲンがしゃべったー」


 きゃっきゃっと言う彼らは、ぱっと見た感じは五、六才頃の人間の子どものようだ。


 けれど、頭にはふわふわの小さな耳、お尻には短い尻尾。それに、少しだけ尖った爪と歯。──この子たちは紛れもなく獣人だ。


 その上で、あどけない仕草に、幼児らしい丸みを帯びたフォルムは、まるで子犬のよう。


 獣人の成人であるライジーの耳や尻尾でさえ可愛いと思っている私のことだから、獣人の子どもたちに関しては、言うまでもなかった。一言でいえば、「たまらない」だ。


 つい、我慢していた言葉が出てしまう。


「かっ、かわいい~~~~!!」


 気付けば子どもたちをギュッと抱き寄せていたものだから、本当に始末に負えない。


 出会ってすぐに、しかも異種族である人間に抱き締められるなんて、子どもたちにとったら恐怖でしかないだろうに。


「ごっ、ごめんなさい!」


 我に返り、慌てて身を離せば、子どもたちはきょとんとした顔というか、何となく戸惑った顔でもじもじとしている。


 あぁ……本当にごめんなさい。私の奇行のせいでトラウマになってしまったらどうしよう。


 おろおろしている私に、ライジーが横から話しかけてきた。


「悪い……こいつら、どうしても付いてくって聞かなくて…………」


 ライジーがどんよりとした顔で言ったのだけれど、私の方は全くもって問題ない。


 というより、むしろ嬉しかった。ライジーが仲間を連れてきたことは私への信頼の証のように思えたし、何よりこんなに可愛い子どもたちに出会えたのだから。


「ううん、大丈夫よ。もしかして……同じ里の子たち?」


 そう尋ねると、ライジーは力ない様子で肯いた。


 この前の手紙のやり取りの中で、ライジーのことで新たに知ったことが一つある。それは、獣人の生活形態だ。


 獣人の大多数は、人間のように小さな集団を作って暮らしているらしい。稀に里を飛び出して「はぐれ獣人」になる獣人の男性がいるらしいけれど、それはほんの一握りだそうだ。


 魔族の世界には獣人の里がいくつもあって、ライジーはそのうちの一つの里で暮らしているらしい。この子どもたちは、その仲間なのだろう。

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