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引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第一章

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4-8 “第4章 恋情”


 

 ◇◇◇



 今、私はかなり動揺している。


 何年前だったか、私が初めてこの章を読んだ時は、ふうん、と思ったくらいだった。

 それは、自分には関係のないところにある感情だと思っていたから。


 けれど、今は痛いほど解る。


 初めの頃は、ライジーの傍にいると、ただ居心地の良さだけがあった。けれど最近では、ドキドキとした緊張感がそこに加わり、何だか落ち着かなかった。


 それに、ライジーに抱き締められたことがあるからわかるけれど、ライジーの体温の高さも、お日様のような匂いも、私の名を呼ぶ少しだけかすれた声も、ずっと浴びていたいくらいに心地が良い。


 ライジーが家に遊びに来てくれた日は嬉しくなり、反対に来なかった日はライジーは今何しているかなとか明日は来てくれるかなとか考えてしまう。


 ──そして、何より。


 今までは考えたことなど無かったけれど、ライジーが誰か他の人──いえ、女の人に私にしてくれることをそっくりそのまましているところを考えると、腹の底に大きな鉛を埋め込まれたかのように胸が苦しくなってくる。


 ライジーとは別に特別な関係というわけではないのだから、そんなふうに思ってはいけないのに。

 どこで何をするかなんて、ライジーが決めることなのに。


 それでも、ヴィスタンが他の女性と会うとポワラが知る場面を読んだ時、私の頭の中でライジーを我が物にしたいという感情が浮かんでしまった。ライジーが私だけのものなればいいのにと願ってしまった。



 ──ポワラは、私だ。



 私は今、ポワラと同じことを感じ、考えている。

 つまり、ポワラが女神の啓示で手に入れた感情を、私も手に入れたということになる。


 私は閉じていた本をそっと開き、先ほど読んでいた頁を恐々と覗く。


 その頁の上端には、その章番号と章題が書かれていた。



 ──第4章 恋情



 そう。私は、ライジーに──恋をしている。



 ◇◇◇



「……リリー?」


 ライジーのその声で、ハッと我に返る。


「やっぱりおまえ、調子が悪いんじゃないか? 顔が赤いし」


 そう言って、ライジーが私の頬に優しく触れる。爪で私の肌を傷つけないよう、指を折り曲げた手の甲で。


「~~~~」


 今、触れられるとよくない。そう直感した通りになった。


「!? もっと赤くなったぞ!? リリー、熱あるんじゃないか。そーだ、確かこの前読んだ本じゃ、人間ってこうやって──」


 突然、沸騰した私の顔に影が落ちる。気付いた時には至近距離にライジーの顔が。


「……やっぱり熱い」


 ライジーが私の額に自分の額をくっつけると眉をひそめるのが分かった。


「ラ、ライジー」


 目が回って意識が遠のきそうだったけれど、何とか声を絞り出す。

 もう許してください。これ以上は、もう、破裂してしまい、ます。


 つい先ほどまで何のためらいもなく話し合ったり、触れ合ったりしていたのに、今は、とてもではないけれど、できそうにない。


 特別な感情を持っていると自覚してしまっただけで、ライジーと目を合わすことさえ恥ずかしくなってしまう。


「リリー、寒くないか? あっためてやる」

「んんんんん!?」


 ライジーが良いことを思い付いたかのように顔をパッと明るくさせると、突然、私を体ごと両腕でギュッと抱き込み、全身で包み込んだ。ライジーの体温と香りと毛皮のふわふわとした感触が顔に直接触れる。


 きっと私を気遣ってしてくれたのだけれど、これでは逆効果であることにライジーは気付いていない。


「……あ、」


 心臓がドクドクと波打ち、頭がぐらぐら沸騰したところで、ギリギリの所で踏ん張っていた私の意識がついに遠のいていく。


 ──その時。


「バウッバウバウッ」


 屋根の下から犬の鳴き声がした気がして、遠のきかかっていた意識が呼び戻され、ハッと我に返る。


「……あいつが鳴くなんて珍しいな」


 ライジーが下を覗きながら呟く。確かにテオは普段、ほとんど吠えない。老犬だから、ではなくて、昔からそうだった。


「たぶん、早く下りてこいって言ってるんだと思う……。こんなに長い時間私から離れているのは珍しいから」


 ライジーの胸板の前であっぷあっぷともがきながら何とか答えると、ライジーが苛立ちと呆れの混じった声で呟いた。


「……過保護かよ」

「あはは、そうかも……」


 テオは辺境地で暮らす時に私の守護者としての役目を背負ってくれたけれど、テオが過保護に見えるなら、それはきっと私が頼りないからだ。老犬のテオが過保護にならざるを得ないほどに。


 半笑いで答えたけれど、老犬を過保護にさせている自分が恥ずかしい。それに加え、テオに負担をかけていることに対する申し訳なさが胸をちくりと刺す。


「ま、とりあえず下に降りるか。ワンコロに後でぼやかれても面倒だし」

「テオが……ぼやく?」


 テオがぐちぐちと文句をこぼす姿──。あり得ないけれどあり得そうな光景を想像して、少し笑ってしまった。


 それを見られてしまっていたみたいで、ライジーが目元を優しく細めた。


「……ん。少し元気そうでほっとした」


 ようやく落ち着いてきたところなのに、再び顔が上気していく。


 それから屋根を下りるためにライジーが私の体を抱き上げたので、この顔を見られずに済んだのが幸いだ。


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