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引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第一章

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22/112

4-4 私が人間で、ライジーは魔族だから

 話が一段落ついたところで、紅茶を飲みながらエレンがため息を吐いた。


「はぁ……お嬢様が戻るとおっしゃってくれて本当に良かった。もし戻らないなんてことになったら、旦那様と奥様に何と言われていたか」

「あぁ、身内の結婚を祝うつもりがないとなると、温和なお父様とお母様もさすがに怒るでしょうからね……」


 父と母からきっと無言の圧力を掛けられていたのかもしれない。エレンには本当にいつも苦労をかけて申し訳ないなと思いつつ、私は苦笑いをした。


 突然、私のつぶやきにエレンは眉をひそめた。ティーカップをテーブルに置くと、熱弁を振るう。


「違いますよ! お二人ともお嬢様成分が不足してるんです! もう限界なんだそうです。抱き締めて、ぐりぐりして、撫でくりまわしたいって!」

「お、お父様……お母様……」


 使用人と仲が良いのは結構だけれど、何でもかんでも話してしまうのはあの二人の悪いところだ。幼子相手ならいいにしても、いい年した子どもに対してその態度は、娘から見てもどうかと思う。


 そんなことを話していると、途中、リックが懐中時計を取り出した。時刻を確認すると、エレンの方を向く。


「……エレン、そろそろお暇した方がいいんじゃないか」

「えーっ、もうそんな時間? お嬢様とまだまだお話ししたいのに……」


 エレンが残念がる気持ちは、私も同じだ。けれど、辺境伯家からここまで、馬車を急がせても半日ほどかかる。聖女様の結界で守られているとはいえ、辺境領を夜遅くに出歩くのは避けた方がいい。


「続きは次回にしましょ。辺境伯家には近いうちに戻るから。リックが一緒とはいえ、こんな辺境地を遅い時間に移動するのは危険だもの」

「何言ってるんですか、お嬢様なんてそんな場所に住みついてるくせに」

「あはは、それもそうね」


 そう言い返されてしまってはぐうの音も出ない。けれど、もう帰らなければいけないことはエレンも解っていて、名残惜しさを残しつつ、帰り支度を始めた。


 馬車の用意をするために一足先に外に出たリックに続き、私とエレンも玄関先に移動する。その道すがら、エレンが思い出したように口を開いた。


「二週間後の定期便で運ぶ食料なんですが、今回と同じくらいの量でいいんですよね?」

「ええ、そうね。ハイウェルによろしく伝えて」

「わかりました」


 そう言ったきり、エレンはただじっと私を見る。何か忘れ物でも思い出したのだろうか。


「どうしたの? リックが待ってるわよ?」

「お嬢様……春頃と比べて、食料の配達量がかなり増えていますが」


 エレンが何を考えているのかを瞬時に理解して、私はぎくっとした。


 ライジーが家に遊びに来てくれるようになって、食料の配達量は確実に増えた。けれど、エレンたち使用人はライジーの存在を知らないから、大量の食料を私一人で食べていると思っている。

 不審に思われないよう、ここは誤魔化しきるしかない。


「な、なぜかしら、最近食欲がすごくて」

「その割に体型はお変わりないですね?」

「ほ、ほら、畑を広くしたでしょ。その分たくさん体を動かすからかな!?」


 ライジーが食べてくれるからと、最近畑の面積を増やしたのは確かだ。けれど、その作業のほとんどはライジーがやってくれたので、私が体を動かす機会は少なかった。


 嘘がばれませんようにと願っていると、エレンがぽつりとつぶやいた。


「なるほど、そうですか……」


 けれど口とは裏腹に、まだ訝しんでいる目だ。


「でも、そんなに野菜作ってどうするんですか? さすがにお一人じゃ食べきれないでしょう? テオが食べるんですか?」


 私のそばにいたテオが、そんなわけなかろうとでも言いたげな顔でフンと鼻を鳴らした。

 うぅ、テオにまで迷惑を。


「そ──それはもちろん! 私が育てた野菜をお屋敷の皆に食べてほしいからよ!」


 咄嗟に口をついて出た言葉だったけれど、これはいいかもしれない。一人暮らしさせてもらっている恩返しに、家族や使用人の皆に何かしてあげたいとは考えてはいた。野菜くらいで恩返しにはならないけれど、私にできることはこれくらいしか思いつかない。


 ドキドキしながらエレンの反応を窺うと、彼女はポカンとしていた。やがて顔をゆがめるようにして微笑む。


「……うれしいです。旦那様も奥様も、サーレット様も、それはお喜びになりますよ。私も、使用人一同、お嬢様の育てた野菜をいただく日、楽しみにしていますからね」


 エレンの目に涙が浮かんでいるのを見て、私は慌てた。泣くほどのことではないだろうに。


「お、大げさよ! それに、ちゃんとうまく育つかもまだ分からないわよ!?」

「どのようにしていただこうかしら。帰ったら早速料理長に相談しなきゃだわ……」


 ぶつぶつと独り言を言いながら外に出るエレンは、私の言葉はもはや耳に入っていない。


 けれど、獣人の友人の存在を何とか誤魔化すことができたようでホッとした。


 本当は隠したくない。家族や使用人たちにいい友人ができたことを知ってもらいたいし、ライジーにも家族たちを紹介したい。


 けれど、それはできない。なぜなら私が人間で、ライジーは魔族だから。


 私が魔族とひそかに交流しているなんて知ったら、父や母は卒倒するだろう。王宮魔導士であるサーレットお兄様なんかは、魔族と戦うのが仕事だから、すぐさまライジーを滅しにかかるだろう。

 そんなことになっては決してならない。私の大切な人たちが傷つき、悲しむなんてことは絶対に防がなくては。


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