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引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第一章

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4-3 憧れの女性

 その時、ほっこりしていた私にエレンが話しづらそうに口を開いた。


「お嬢様、あの……」

「大丈夫、もちろん結婚式には出席するわ。当たり前でしょう? 家族のお祝い事なんだから」


 いくら私が貴族の落ちこぼれだとしても、大好きなお兄様の大事な日まで引きこもっているわけにはいかない。久しぶりにまたあの人々の中に入っていくことに不安が無いと言えば嘘になるけれど、それでも直接お祝いしたい気持ちの方が断然勝る。


 エレンは恐らく、貴族をはじめとした大勢の人が集まる結婚式に参列することを私が躊躇うのでは、と考えていたのだろう。私がはっきりと参加の意志を伝えると、心から安心したような顔をした。エレンには心配させてしまってすまないと思う。


「それを聞いて安心しました。ヴァレリア様もお嬢様が来られるとお知りになったら、とても喜ばれると思いますよ」

「ふふ。それなら、何が何でも行かなきゃね。あぁ、お義姉さまに長くお会いしていないわ……お元気にされているかしら」


 お兄様の妻、そして私の義姉となる女性とは、私がこの辺境地に移る前に開かれた顔合わせの食事会と婚約パーティーの、まだ二度しか会ったことがない。

 それでも、彼女は充分に印象深かった。強く、美しく、気高く、勇敢で、私とは対極にいるような方だ。


 そんな彼女は一度お会いしただけで、すっかり私の憧れとなった。そんな人が私の義姉になるのだと思うと、飛び上がるほど嬉しい反面、私のような者が妹になることが申し訳なくなってくる。もちろん、お兄様とはすごく、すご~くお似合いなのだけれど。


「そうそう、式に向けて辺境伯家もこれから色々と忙しくなるんです。よろしければ、お嬢様も辺境伯家に戻られて準備を手伝って頂いてもよろしいですか? 無理のない範囲で、可能な時だけでいいですので。もしかすると、その時にヴァレリア様とお会いできることもあるかもしれませんしね」


 エレンはさすが、私の誘い込み方を心得ている。でも、お義姉様とお会いできなくても、喜んで手伝いに行きたいと思う。結婚の準備をお手伝いすることでお兄様とお義姉様を陰ながら祝福できるのであれば、こんなに嬉しいことはない。


「ぜひ、手伝わせて。私にできることがあれば、精一杯するわ」


 そう答えると、エレンは嬉しそうにしてくれた。


 それからの話題は、いつ頃実家に帰るかに移った。この辺りの地域は冬の雪は少ないけれど、寒さに閉じ込められる前に早めにした方がよさそうだ。式は来年の春なのでのんびりしていられないのもあるのだけれど。


 大体の日を決めると、あとの詳しい日程は二週間後の定期便でハイウェルと調整することになった。


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