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引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第一章

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3-1 収穫日和

 大きくて分厚い白雲が、真っ青な空に浮かんでいる。私とライジーが出会ってから季節がひとつ移ろいだ。


 今日はライジーと畑に出ている。


 春に蒔いた野菜の種が順調に育ち、収穫の時期を迎えていた。畑着としていつも着ているエプロンドレスを今日も身に着け、私の気合いも一段とこもる。


「リリー! こんな大っきいの採れたぞ!」


 見ると、向こうの畝でライジーが大ぶりの人参を掲げていた。嬉しそうな顔をして、大きな野菜が収穫できる喜びは獣人でも同じのようだ。


「わあ! こんな大きな人参、よく折らずに抜けたね」


 私は手を止めて、ライジーの方に駆け寄った。ライジーはすっかり得意顔だ。


「こんなの、コツをつかんだら余裕だし」

「……ふふ、顔に土がついてるよ」


 ライジーの頬に付いていた土を手でそっと落としてあげると、大きな狼耳がぴくりと動いた。ライジーはむっつり顔だったけれど、何を考えているのかは分かる。照れくさいのだ。


 愛しいな。そう思いながら、私も意気込んで隣にしゃがみこんだ。


「ようし、負けないわよ。私も大きいの採──」

「あ、リリー」


 その時、ライジーの手が私の顔の方に伸びてきた。けれど、触れる直前でピタリと止まり、ためらうように引っ込んでいった。


「?」


 どうしたんだろうと思ったのもつかの間、次の瞬間、私の顔はモフモフの尻尾で埋もれていた。ライジーが自分の尻尾を手で掴んで、尻尾の先で私の顔をポンポンと優しくはたいているのだ。


「わっ、ふ、ふふっ……く、くすぐったい、なに、どうしたの? ふふふ」


 ふわふわの毛がくすぐったくて笑いながら聞くと、ライジーが言った。


「いや、おまえの顔にも土がついてたから」

「あら? お互い様ね」


 そうして二人で笑いながら、収穫作業を続けていく。テオはそんな私たちの傍で、日向ぼっこをしている。


 ──ふと、思う時がある。人間と魔族の領土は別けられているわけだけれど、それは何故だろうと。


 もちろん、凶暴な魔族から身を守るためだというのは解っている。そのために、聖女メサイア様が聖なる能力ちからを用いて結界まで張ってくださっているのだ。


 けれどライジーを見ていたら、「魔族=凶暴」とは一概に言えないのではないかと思えてくる。獣人である彼はカッとなりやすいところもあるけれど、こんなに優しくて、人と通わすことのできる心を持っているのだ。


 魔族は凶暴だから近づいてはいけないと言い切るには、私たち人間は彼らのことを知らなさすぎるのではないか。


 ライジーと出会ってからは、そんな考えが私の頭によぎることが多くなっていた。


「……さ、人参はこれくらいでいいかな」


 収穫した人参がたくさん入った籠を見ると、ついほくほく顔になってしまう。畑をやる楽しさはいろいろあるけれど、頑張って育てた野菜を収穫する時がやはりダントツ一位だ。


 次は、ジャガイモの収穫だ。二人でジャガイモを植えてある畝に移動すると、並んで座り込んだ。


「まずは株元から少し離れたところにスコップをさして……空いた手で茎を持ちながら土を掘り上げると──よいしょ、ほらね、簡単でしょ」


 ジャガイモの収穫の仕方を説明していると、ライジーが残った穴ぼこを覗いて言った。


「下の方にまだ残ってるぞ」

「そうなの。だから、埋まってるジャガイモは手で掘り起こしていってくれる? こうやって優しく……」


 私が埋まっているイモ周りの土を指で丁寧にかき分けるのを見て、ライジーが呆れたように言った。


「面倒くせ。掘れりゃ何でもいいんだろ? 見てろよ──」


 ライジーが両手の鋭い爪を立てて、物凄いスピードで穴を掘り始める。その光景に、ものすごく見覚えがある──そう、犬かきだ。高速犬かき。


 そんなことを考えていると、ライジーの後ろにごとんごとんと掘り上げられたジャガイモが落ちていった。あっという間に、一か所を掘り起こしてしまったのだ。

 すごい。私がしたら何倍も時間がかかるのに。


「どうだ、リリー──」


 得意顔でくるっと振り返ったライジーが、私を見て固まった。それはもしかすると、私と、それとそばにいたテオが、全身土まみれだったからかもしれない。


 高速犬かきのあの凄まじい勢いなら、当然土が飛び散るだろうけれど、ライジーは予想だにしなかった出来事だったようだ。顔を青くして、見るからに狼狽している。耳と尻尾もしゅんと垂れていく。

 そんな姿をかわいいと思っている私は、やはりどうかしてるかもしれない。


「リリー、俺、こんなつもりじゃ……」

「……ふ、あははは」

「!?」


 思わず笑ってしまった私に、ライジーはギョッとする。


「ごめんごめん。大丈夫だよ、土を被るくらいいつものことだから。それよりライジーこそすごいよ?」


 ライジーの方が、私とテオよりもずっと土まみれだ。ライジーの髪に付いていた土をポンポンと落としてあげると、ライジーが「あぁ、」と言いながら、犬のようにぶるぶると身を震わせた。


「俺こそこんなのヘーキだ。ふるい落とせば一瞬だし…………あ」


 さっぱりとした顔していたけれど、私の方を見てまた身を固くする。ふるい落とした土が私とテオに直撃して、さらに土まみれになっていたからだ。


 今度はライジーも笑いを堪えきれなかったらしい。二人して大笑いした。テオだけが迷惑そうな顔をしていたけれど。


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