20-3 私の理想郷
◇◇◇
──ずいぶんと長い夢を見ていた気がする。
そこは、燃えたはずの私の家だった。
日当たりのいい居間には、私とライジーだけでなく、様々な人がたくさんいて。
憩いの我が家で、皆と談笑したり、料理をしたり。
外の畑で収穫した野菜を運んでくる人もいて、これで何を作ろうかと相談したり。
そしておいしい料理をたらふく食べた後は、私が皆に本の読み聞かせをする。
そんな夢だった。
この夢が特徴的だったのは、その場にいたのが人間だけでなく、人間の姿でない者も混じっていたことだ。
そこはまさしく、人間と、人間ならざる者が隔たりなく、笑い合える場所だった。
率直に「いいな」と思った。
そして、これが私の理想郷なのだと。
もしも聖女様の言う通り、私に“浄化”なる力があるのなら、ひょっとすると、この理想郷を創ることができるのはないだろうか?
夢の終わりに、白い衣を纏った女性が私の前に現れた。まばゆい光を放つ、とても美しい人だった。女神様がいるなら、きっとこんなお姿なのだろう。
そんな彼女が私に尋ねる。
──あなたはどうしたいのですか?
◇◇◇
「……私は……」
そう呟いたところで目に映ったのは、薄暗い天井だった。
「リリー!!」
「ソフィー!」
ふたつの声がほぼ同時に聞こえたかと思うと、私の顔の前に現れたのはライジーの顔だった。
「大丈夫か!? どこも痛くないか⁉」
おろおろとするライジーを見てから、周りに見渡す。レジナルド様のお屋敷の、私が寝室として使わせてもらっている部屋だった。
私はあれから倒れ込んでしまったようで、こうやってベッドに寝かされたのだ。
この部屋には、私の目の前にいるライジーの他に、お兄様がいた。お兄様も私が目を覚ましたのに気付いて、ソファーから立ち上がり、私の元にやって来てくれた。
「すまない、ソフィー。怖い思いをさせてしまったね……。おまえが険悪な雰囲気が苦手なのを知っていたのに……」
眉をギュッとひそめて苦しそうな顔のお兄様に安心してもらいたくて、私はできるだけの笑顔で言った。
「お兄様、もう大丈夫ですから。そんな顔してたら、お兄様のきれいなお顔にシワが付いちゃいますよ」
それから前にいるライジーにも。ライジーのことだから、きっと片時も離れずに看病してくれていたのだろう。
「ライジーも。目が覚めるまでずっとそばにいてくれて、ありがとう」
「…………ッッ」
ライジーの顔がくしゃっとなったと思いきや、私をギュッと抱き締めた。
これほどまでに心配してくれていたことに対して、感謝はもちろんのこと、申し訳なかった。いつものお兄様なら私とライジーを即座に離させるところだけれど、さすがに今は何も言ってこない。
すぐ目の前にあるライジーの頭を優しく撫でながら、私はお兄様に尋ねる。
「私はどのくらい寝ていたのですか? 聖女様や皆さんは……?」
「数時間ほどだ。私としてはすぐにでもあの小娘をこの屋敷から追い出したいところだったけど、さすがにもうこんな時間だからね。追い出すのは明日にするとして、皆、今は夕食をとっているところさ」
「よかった。まだいらっしゃるのですね」
私がホッとした顔でそう言ったのを、お兄様は怪訝な顔で見た。
「……ん?」
「お兄様。お食事の後、皆さんを客間にお集めいただけないでしょうか?」
「いいけど……それはどういう……」
「聖女様にお話ししたいことがあるのです」




