表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/112

20-1 聖女の能力

 


「ど……どういうことでしょうか……」


 聖女様の言葉が理解できず、ただそう呟くことしかできない。聞き間違いかと思い始めた私に、聖女様はさらにはっきりと告げて、私の退路を塞いだ。


「あなたが次代の聖女になるのよ」


「わ、私が、聖女…………?」


 ようやく言葉の端々をぼんやりと受け取ると、精一杯、今の私の状況を伝えた。


「申し訳ございませんが……理解しかねます。そもそも私は魔力を持っていませんし──」

「あなたには確かに聖女の能力(ちから)がある。私が今、確認したから間違いないわ」


 確認、とは一体何だろう。今はただ、本の読み聞かせをしていただけなのに。


 到底受け止めきれない情報が頭の中をぐるぐると回る。私が目を回しているのに気付いたミリさんが、慌てて仲介に入ってくれた。


「アリア様、アリア様。ソフィアリリー様が混乱しておいでですよ。順番に説明なさってください」

「仕方がないわね……」


 聖女様が肩にかかっていた後ろ髪をふわりとかき上げると、居住まいを正して話し始めた。


「五年前に聖女となってから、私は王宮の中で“唱歌”を歌ってきた。この“唱歌”こそが、私を聖女たらしめた魔力なのは知ってるわよね?」


 そう問われ、私はこくこくと頷いた。この国に住んでいれば、空に流れていく“唱歌”を、そしてそれが魔の手から王国を守っていることを知らぬ者はいないだろう。


「は、はい……聖女様の唱歌は魔族をほろぼし、退ける効果をもつ、聖なる魔力なのだとか。魔界との境に張られた結界も、聖女様の唱歌のおかげで維持されているのですよね」

「そう。王国の中心から辺境地まで響き渡る私の歌はじゃをもつ者たちを塵と化すし、それらが王国に入ってこれないように『壁』を作ってるの。私が歌っている限り、絶対に魔族の存在を許さない」


 こうしてご本人から聞かされて、改めて聖女様の魔力は他の魔導士とは一線を画していることが分かる。サーレットお兄様をはじめとした優れた王宮魔導士たちでさえ、王国全土に魔力を広げることはできないし、広範囲に渡って大方持続可能な境界を作ることもできないのだ。


 聖女様の頼もしさを痛感すると同時に、混乱する。これっぽっちの魔力さえ無い私なんかに、どうして聖女様は「次の聖女に」と言ったのだろう?


 その時、聖女様の顔がふっと暗くなる。


「──でも、それも昔の話。もう、私じゃ王国を護れない」

「え……それは、どういう意味、でしょうか……?」


 聖女様の言葉の意味をはかりかねている私に、聖女様がポツリと言った。


「……魔力が弱まってきているみたいなの。だから、“唱歌”を歌っても結界が思ったより強化されない。この屋敷に来る前に結界の修復をしてきたけど、結界の目の前で歌ってもどうにか直せたってとこだったし」


「あの、魔法の素人が差し出がましいことを申し上げますが……聖女様の魔力は弱まっているだけなのですよね。何か、元に戻す方法はないのでしょうか?」

「修練の時間を増やしたり、私なりに思いついたことをやってはきたけど、ダメね……。このままじゃ、あと一年もすれば魔力が尽きるでしょうね」

「そんな……」


 これは確実に重大な国家機密だろう。私なんかが聞いてしまっていいものではないけれど、知っておかなければいけない人たちはすでに知っているはず。そう思いながら、私は恐る恐る尋ねた。


「あ、あの……このことは王宮の方々はご存じなのですよね……?」

「さあ? 城にいるのはボンクラばっかだし、歴代聖女に魔力が落ちるなんて前例なかったし、王国に危機が迫ってるだなんて考えたこともないんじゃない? それに今のところ、魔力が弱まってることはどうにか隠せてるしね。これでも不良聖女なりに、王国をパニックにさせたくないって気持ちはあるのよ?」

「……ボン……不良……」


 耳慣れない言葉に私が戸惑っている間も、聖女様の話は続いていく。


「でも、サーレットは何か気づいてたみたいね。で、今回の結界壊れた騒ぎでしょ。調査団も来てるし、もう確実に分かったでしょーね。私の魔力が原因だって」


 聖女様はふうっと息を吐くと、ソファーに背を預けた。


「だから、聖女をクビになる前に残しておきたかったの。この国を護れる人をね」

「で、では新しい聖女が現れたら、聖女様は聖女を辞めさせられてしまうのですか?」


 魔力が弱まったからといって、今まで国を護ってくださった聖女様を王宮が蔑ろに……?


 まさかそんな恩を仇で返すようなことは無いとは思うし、あってはならないことだけれど、聖女様の言葉を聞いて、私は急に心配になってしまった。


 そんな私の動揺を見て、聖女様はひらひらと手を振りながら軽い調子で答えた。


「あぁ、ヘーキヘーキ。辞められるなら早く辞めたいってずっと思ってたから」

「……えっ」

「確かに聖女になりたての頃は王宮の生活が珍しくて楽しかったけど……いまは早く解放されたいってのが本音。ほら、聖女ってさ、歴代の聖女像見ても逸話聞いても、おしとやか! まじめ! 清楚! って感じでしょ。それって私と対極にあるものじゃない? 性に合わないのよね、五年前まで庶民だった私じゃ。はじめから無茶な話だったってワケよ」

「あ……」


 その瞬間、先ほどレジナルド様にクッキーを届けた時のことを思い出す。



「──もしかして聖女様は、王宮や貴族社会とは関わりのない場所からいらっしゃったのでしょうか?」


 不敬にも思わずそう尋ねてしまった私に、レジナルド様は誤魔化すことなく「そうだよ」と答えてくれた。詳しいところは避けて教えてくれたのだけれど、聖女様は五年前まで、この国の辺境町に住んでいたらしい。


 それを聞いたところでどうするわけではないのだけれど、聖女様のいい意味での「上級階級らしくなさ」に妙に納得してしまった。


 と同時に、私は聖女様の心の内を勝手に案じてしまった。結界崩壊の危機に瀕していたあの頃のことだ。聖女様は否が応でも、聖女という立場を引き受けざるを得なかったのではないだろうか。


 あの時の、レジナルド様がふと漏らした「聖女様の自由を奪った」という言葉。そして、聖女様の寂しげな瞳。


 これらから、故郷の町を想いながらも国中から求められた「聖女」を必死に演じてきた一人の少女の姿が、私の脳裏に浮かんでくる。


 それに比べ、私は何なのだろう。周りに甘えてばかりいる上、聖女様の言葉に狼狽えるだけで正面から受け止めることさえできないのだ。


「私からも申し上げてよろしいでしょうか」


 自分の不甲斐なさに視線が伏しがちになった私に、ミリさんがためらいがちに口を開いた。


「これまでの歴史上、同じ時代に聖女が二人同時に存在したことはありませんでした。ですから、アリア様はご自身の魔力を失う前に、王宮魔導士団に聖女の魔力の研究を依頼なさろうと考えておられたのです。研究を遺しておけば、それを活かして国を護ることができるかもしれない、と。先代の聖女様がお隠れになられた後アリア様が誕生されるまで長い年月を要したように、アリア様が聖女の能力を失った後、すぐに新たな聖女が出現するとは限りませんからね」


 そこでミリさんは一呼吸おいて、続ける。


「そんな時、結界が破壊されたという情報が入り、やがてサーレット様からソフィアリリー様のお住まいが魔族に襲われたことをお聞きになりました。そしてソフィアリリー様が獣人のご友人をお連れになっていることを知った瞬間、アリア様は直感なさったのです。この国を護る次なる聖女はあなた様だと。同じ時代にもう一人聖女がいると分かった時のアリア様の喜びようといったら……」


「ソフィアリリー、あなたの“読み聞かせ”には魔物の心を浄化する能力ちからがある」


 その時、ミリさんの言葉を継ぐようにして、聖女様が口を開く。私をまっすぐ見据えて。


「これは、どんなに有能な魔導士でも持ってない、特別な能力よ。その獣人があなたに懐いているのはそのせいだし、家が襲われたのも、あなたが聖女だからよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ