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引きこもり令嬢の読み聞かせ  作者: 方丈 治
第三章

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19-4 聖女様とお菓子作り

 

 聖女様ご同行イベント第二弾。お菓子作り。


 昼食を終えると、デボラさんに断りを入れて、聖女様・ミリさん・ライジーと共に厨房に入った。お菓子作りが物珍しかったようで、レジナルド様も私たちと一緒に厨房に入ろうとしたけれど、デボラさんに「旦那様は書類整理を」と止められてしまい、渋々自室に向かった。レジナルド様さえよければ、後でお茶と共にお菓子を届けに行こうと思う。


「ソフィアリリー様、申し訳ありません。アリア様だけでなく、私までご厄介になってしまっていいのでしょうか……」

「もちろんです! 誰でも簡単にできるクッキーを作ろうと思いますし、なにより皆で作ると楽しいですから」


 申し訳なさそうにそう言ったミリさんに、私は明るく答えた。……けれどすぐに相手がやんごとなきご身分の方と貴族のご令嬢であることに気付いて、慌てて付け加える。


「あっ、もちろん強制ではございませんので! 気が進まれないようでしたら、そちらの椅子で──」

「いえ、私は是非参加したいです! こういったことは初めてですから、ソフィアリリー様のように上手くはいかないと思いますが」


 ミリさんが目を輝かせながらそう言ってくれたので、私は少しホッとした。それから、もうお一方はどのような反応を示されるか……聖女様の方をちらっと窺った。


「クッキーか……。何年ぶりかしら」


 のし棒を手に取り、そう呟くお姿を見て、聖女様は以前にクッキーを作ったことがおありなのかと私はふと考えてしまう。けれどすぐに思い直した。クッキーを召し上がるのが久しぶりなのだ、きっと。


 こうして、私たち四人はクッキーの生地作りから開始した。バターに砂糖、卵、小麦粉の四つの材料を混ぜるだけの簡単な作業だ。


「力仕事はこのミリにお任せください!」


 そう言ってくれたので、混ぜ合わせる作業はミリさんにお願いすることにした。ただ、その横でライジーがむずむずした顔をしていたので、もう一つのボウルに同じ材料を用意してライジーに尋ねた。


「……ライジーにもお願いしていい?」

「おう! 任せろ!」


 パッと顔を輝かせてボウルを受け取ると、ライジーは物凄い勢いでへらをぐるぐると回し始めた。きっとライジーは大好物であるお菓子を自分で作ってみたかったのと、あと、自分も役に立てるところを見せたかったのだろう。そんな彼を、私はついつい頬を緩めて見守る。


 そんな時、ストップがかかる。


「ちょっとちょっと! あんまり混ぜすぎたらダメよ!」


 聖女様がライジーからへらを奪うと、手本を見せ始めた。


「いい? こうやって切るように混ぜるの。サックリと、粉っぽさがなくなるまででいいのよ!」

「なるほど。勉強になります」


 混ぜ始めていたミリさんが、横から頷きながら覗いている。一方、ライジーは邪魔をするなと言わんばかりに聖女様を睨んだ。


「あ? 別にどんな混ぜ方でもいいだろ」


 相変わらずの不穏当な発言に心の中でヒッと叫んでいると、聖女様が真剣なまなざしでライジーを見据えた。


「……あんた、サクサクほろほろのクッキー、食べたくないの?」


「…………食いたい」


「なら文句は言わない! 言った通りにやる!」

「お……おう」


 聖女様から放たれる逆らってはいけない雰囲気に圧倒され、ライジーはその後、大人しく教えられた通りに混ぜ始める。


 こんなこと口には出せないけれど、聖女様とライジーは、実はいいコンビだなと私は思う。お互い思ったことは口に出すし行動するから衝突する時もあるけれど、そこにわだかまりは無い。


 混ぜ終わったら、次はしばらく生地を休ませる工程だ。その間、私たちは厨房に椅子を並べて休憩することにした。紅茶を飲みながら、ひと時の歓談を楽しむ。


「皆さま、お疲れではないですか」


 私の問いに、聖女様がケロッとした顔で答える。


「まだほとんど何もしてないじゃないのよ」

「平気ですよ。お気遣いありがとうございます、ソフィアリリー様」


 ミリさんが微笑みながら、呟くように言う。


「ふふ、皆でこうやって何かを作り上げるのって楽しいんですね。何だか新鮮です、実家を出た後は騎士団での穏やかではない暮らしばかりでしたから」


 ミリさんの凛とした中にある女性らしい表情にドキッとしながら、私はふと尋ねる。昨日ミリさんの名前を聞いた時、もしやと思ったのだけれど。


「そういえば……ミリさんはもしかして、クロス子爵家の……?」

「はい」


 恥ずかしげに笑うミリさんを見て、私の中の「もしかして」が確信に変わる。


「やっぱりそうだったんですね! お父様がエルンス城主をされていらっしゃるのですよね。お兄様方も、確か騎士団でご活躍されているとか」

「弱小貴族のことですのに……ソフィアリリー様がそこまでご存じでいらっしゃったとは、大変恐縮です」

「弱小だなんて、とんでもないです! クロス家といえば、優れた武官を輩出してきた名家ですもの。世間知らずな私の耳にさえ、クロス子爵家の御高名は届いていますから!」


 昔から、騎士が登場する物語は私の大好物だった。本の好きな夢見る少女にとって、強く勇ましく、麗しい騎士様ほど憧れるものはないと言っても過言ではなく、私もまさにその一人だった。


 だからか、この話題の前では妙に心が浮ついてしまう。ミリさんに引かれてしまうのではないかとどこかで不安に思いつつも、ついつい饒舌になってしまう。


「それにしても、王国初の女性騎士ってミリさんのことだったんですね! 私が王都にいた頃、どこへ行ってもその噂で持ち切りでした」

「お恥ずかしい限りです、私などのことで世間様を賑わすなんて……。きっと物珍しさで話題に上っていたのでしょう」

「えっ? そんなわけは無いですよ!?」


 私はびっくりして思わず大きな声を上げてしまった。

 辺境地に引きこもる前の、まだ王都で社交生活をしていた頃のこと。日々参加していた舞踏会やお茶会などでは、その女性騎士に対して肯定的な意見しか聞かなかったからだ。


 物珍しさはあったのかもしれないのだろうけれど、それだけではないはずだ。実際にミリさんの人となりや実力を見た人がいたからこそ、あれだけ世間で話題に上ったのだ(出会ってからたった一日の私でさえ、ミリさんには良い印象しかない)。


 けれど、それはほんの一部の見え方でしかなかったらしい。ミリさんが躊躇いがちに口を開いた。


「当時は、女が騎士などけしからんと面と向かって言われることもありましたから。今はさすがに落ち着いてきましたが……」

「そんなことが……」


 ミリさんは強い人だ、と思った。もし私が同じ立場だったら、もう二度と人前に出られなくなってしまうだろう(現に、引きこもり生活を送っているのだけれど)。


 ミリさんの強さを、そして自分の弱さを改めて痛感していると、頬杖をついた聖女様がけろりとした顔で言った。


「騎士になれたのは実家の権力使ったからとか、聖女に同性の護衛が必要だったからとか、失礼なこと考えるヤツがまだまだいるのよね。ホント、馬鹿なこと言ってんじゃないわよって感じ。そういうことはミリに剣で勝ってからほざけっての!」


 聖女様の物言いに少し驚いてしまったけれど、聖女様の言いたいことはよくわかったし、聖女様がミリさんの味方であるのが分かって嬉しくなってしまった。私も聖女様と同意見なのだ。


「……アリア様、口がお悪いですよ?」


 ふうとため息をつくミリさんに、聖女様はまだまだ収まらない。怒りの矛先が、今度はミリさんに向く。


「でも、あんたも悪いのよ? 何言われても全然言い返したり、やり返さないんだから!」

「それでは子どものケンカになってしまいますからね」


 そう言うと、ミリさんはフ、と頬を緩めた。


「私は何を言われても平気ですよ。ありがたいことに、自ら望んだ生き方をこうして許されているのですから」

「……望んだ生き方」


 私が思わず呟くと、ミリさんはニッコリと笑った。


「はい。子どもの頃から、ドレスを着てお茶会に参加するよりも、サーコートを着て兄たちと一緒になって剣を振っている方が好きだったんですよね。普通なら駄目だと言われることでも、私はそれが許される環境でした。ならば、その許された生き方で誰かのために生きる。それが、私の使命だと思うのです」


 ミリさんの言葉を聞いて、まるで生まれ変わったかのように、世界が新しく見えた。


 私の場合もそうだ。ミリさんが剣を握るのを許されたように、私も本ばかり読み、辺境地に一人暮らすという令嬢らしからぬ生き方を家族は許してくれた。


 けれど、そんな生き方を誰かのために役立てようなんて思ったことはなかった。役に立つなんて思ったこともなかった。


 確かに剣は人を守ることができるけれど、本や辺境地暮らしでは守ることができない。でもきっと、そういうことではなくて、心の問題なのだろう。その心を持っているかどうか、なのだ。


 ミリさんの言葉が終わっても放心している私に、聖女様がニヤニヤとした顔で口を開いた。


「どうよ? 私のミリはカッコイイでしょ?」

「……はい!!」


 思わず勢い込んで答えてしまったけれど、聖女様は私の答えに満足そうに頷いている。それに対し、ミリさんは「どうしてアリア様が得意げなのですか……」と呆れ顔だ。


 そして、隣のライジーが一瞬ピクリと眉をひそめるのが見えて、私は我に返る。しまった、私が誰かのことを褒めるとライジーには面白くないのだった。


「あ、あのね、ライ──」


 慌ててなだめようとした瞬間、ライジーがすまし顔で口を開いた。


「別に何とも思ってねーよ。だってリリーにとっちゃ、俺が一番なんだろ?」


 そうなのだけれど。そうなのだけど、今、この場で言わなくても、と思うのはきっと私の我儘だろう。


 聖女様は朝の時のような呆れ顔だし、ミリさんに至っては微笑ましいものを見るかのように暖かく見守られてしまっている。


「う、うん……」


 ようやくその一言だけ返すと、この微妙な雰囲気のまま、残りの休憩時間を過ごすことになった。とりあえずライジーの機嫌が良さそうなのが幸いだ。





 生地の寝かしが終わると、いよいよクッキー作りの最も楽しい工程、型抜きだ。


 台の上でのし棒で生地を均一に伸ばすと、皆の前にたくさんの型抜きを用意する。様々な模様の型抜きは、見ているだけでワクワクする。


 とにかくたくさん生地があるので、四人で手分けして作業をする。


 ミリさんは最初に少し説明しただけで要領を得たのか、テキパキと生地を型で抜いては鉄板に並べていく。初めてなのにとても上手だ。


 ライジーにとっては少し苦手なやや細かい作業だけれど、この作業の先に美味しい未来が待っているからか、我慢強く慎重に型抜きを続けている。


 最後に聖女様の方をちらっと見る。彼女の型抜きスピードは私たち四人の誰よりも早く、しかもきれいな仕上がりだ。何と言うか……手際が良すぎる。これ以上は余計なことを考えてしまいそうなので、それからは私も手元に集中する。


 こうして皆で協力して型抜きを全て終わらせると、あらかじめ準備しておいた石窯の中に鉄板を並べた。あとは、いい焼き色が付くまで焼くだけだ。


「ふ~~、久しぶりに集中したわ。何かに没頭するって案外悪くないわね」

「ふふ、いい気分転換をさせていただきましたね」


 聖女様が一つにまとめていた髪をほどきながら言うと、ミリさんも微笑みながら肯いた。


 それから聖女様がくるりと私の方を向いたので、私は不覚にもビクッとしてしまった。


「ソフィアリリー、あなたってあんまり喋らないのね」


 その言葉に私は思わず、うっとなる。聖女様の言うことはもっともで、お喋りが得意な方ではないという自覚はあった。聖女様を退屈させてはいけないと思い、今日は私なりに会話を弾ませようと努めてきたのだけれど、やはり力が及ばなかったようだ。誠心誠意謝るほかない。


「ご、ご気分を害してしまい申し訳ございません……」

「違う違う、つまらなかったとかじゃなくて。私のことを詮索してこないから珍しいなって思っただけ」

「め、珍しい……ですか? ですが、聖女様にまつわることは全て国家機密ですし詮索なんて畏れ多いこと……」

「でも王宮じゃ、私の言葉のちょっとした部分をいちいち拾っては、細かいところまで探ろうとしてくるわよ? たとえばほら、私の好きな花を聞いたじゃない。他の奴らだったら、どの地方で咲く花なのかとか、私の好きな色は青色かとか、それは根掘り葉掘り聞いてくるわけよ」

「アリア様に取り入ろうとしているのと、アリア様の出自を探って弱みを握ろうとしているのが、はっきり言って見え見えですねあれは」

「そうそう、うざったいったらありゃしないわ」


 聖女様とミリさんが話すのを交互に見ていると、後ろからライジーの声がした。


「リリーは普段はおとなしいけどさ、本のことになるとよく喋るんだぜ?」

「へぇ、あなた読書が好きなの? ……あ、そういえばサーレットがそんなこと言ってたわね。で、どんな本を読むの?」


 聖女様は興味津々といった顔で、私の顔を覗き込んできた。聖女様のような尊い身分の方に、私の些末な趣味に興味を持たれるのは恥ずかしいけれど、隠すことでもない。少し考えながら、私は口を開いた。


「そうですね……乱読気味ですが、特に小説や絵本などの物語を」

「ふ~~ん……」


 やけにジロジロと見られているのは何故だろう。聖女様のくりくりとした目にドギマギしていると、ライジーがなぜか自信たっぷりな笑みで言った。


「それに、リリーの読み聞かせはすっごいぞ。なんつーか、その物語の中に入ったみてーになるんだ」

「へーーーーえ?」


 突然聖女様の声が大きくなって、ビクッとした。恐る恐るそちらの方を覗くと、聖女様は目を爛々とさせて笑みを浮かべていた。……何だか、嫌な予感がする。


「それはいいわね。私も聞いてみたいわ」

「……え!?」


 やはり状況は嫌な方向に向かっているみたいだ。思わず大きな声が出てしまったのだけれど、ライジーはさらに大きな声を張り上げた。


「はあ!? なんでリリーがお前に読み聞かせしてやらなきゃならねーんだよ! 嫌に決まってんだろ!!」

「何であんたが決めるのよ。私はソフィアリリーに聞いてるの」


 そう言うと、聖女様は私の方をくるりと向いて、ニッコリと笑った。


「ねえ、ソフィアリリー。私にも何か読んでみせなさい?」

「あ……う……」


 突然の事態に、私はしどろもどろになるしかなかった。


 家族にでさえ私のつたない読み聞かせを披露するのが恥ずかしくて堪らなかったのに、どうしてこの国の頂点に立つお方を前にできるだろう。かと言って、むげに断ることもできない。聖女様がそう望まれているのに、恥ずかしいという理由だけで簡単に断れるはずもなく。


「……分かり……ました……」


 ついに観念すると、聖女様はパッと顔を明るくした。相変わらずその笑顔が可愛らしいので、引き受けて良かったんだと思える気がした(対して、ライジーは顔を思いっきりしかめて聖女様を睨んでいるけれど)。


 それにしても分からない。どうして誰も彼も、私の読み聞かせなんかを聞きたがるのだろう。子どもの頃は誰しも(本という概念自体無かったライジーは違うけれど)、親などから読み聞かせを受けて育つから? だから大人になった彼らは幼い頃を懐かしんで、愛であふれるその時間を再現したいのだろうか。


 とまあ、そんなことを考えていると、レジナルド様の部屋の前までやって来ていた。


 クッキーが焼けたので、読み聞かせの前にレジナルド様にお茶とクッキーを届けにきたのだ。


「レジナルド様、失礼いたします。そろそろ休憩にされませんか?」


 ドアをノックすると、その向こうで足音がこちらに向かってきたと思いきや、勢いよくドアが開かれた。


「ソフィア! 良いところに来てくれた」


 レジナルド様が笑顔で出迎えてくれたのだけれど、くたびれた感じがありありと浮かんでいる。彼の後ろで、書類を抱えたデボラさんがレジナルド様をじろりと睨んでいるのが見えて、私たちがクッキー作りを楽しんでいる間、どうやら書類整理でこってり絞られたらしいことが分かった。


「皆で焼いたクッキーをお持ちしたんですけど、よろしければ……」

「それは嬉しい。ありがたくいただくよ」


 部屋に通され、ソファー横のサイドテーブルにトレイを置く。紅茶の準備をしながら、仕事机の片隅で書類の仕分けをしているデボラさんに声を掛ける。


「デボラさんもこちらで休憩にしませんか?」

「ソフィア様、申し訳ございません。本来なら私がすべき仕事ですのに」

「いえ、デボラさんはレジナルド様がいらっしゃる間にしておかなければならないお仕事がたくさんあるでしょうから。その間はこのくらいのお手伝いはさせてください」

「……ありがとうございます」


 このお屋敷に来た当初のデボラさんだったら、客人にお茶を淹れさせるなんてことは絶対に許さなかっただろう。だから、素直に頼ってくれているのが単純にうれしい。


 ソファーに座ったレジナルド様がぱくりとクッキーを口に放り込むと、わずかに目を見開いた。


「! 美味しいね」

「ふふ、ありがとうございます。その形は確か……ライジーが型抜きしたものですね」

「…………」


 ライジーの名前を出した途端、レジナルド様の顔が一瞬、微妙な表情になる。……あれ? 何か変なことを言ってしまったかしら?


 そんなことを考えていると、レジナルド様が口を開いた。


「アリア様の相手は大変だろう。何か困っていることはないか?」

「大変だなんてそんな。はじめは聖女様がご一緒されると聞いて緊張していましたが……こんなことを言っていいのか分かりませんが、素直で親しみやすいお方ですね。もし妹がいたらこんな感じだったのかなんて、不遜なことを思ってしまいます」

「……確かに、アリア様の飾り気のないところは好感が持てると言えるか」


 レジナルド様がそう呟いたと思いきや、次の瞬間、コロッと笑いながら言った。


「ま、それも、ここでは借りてきた猫状態だからだけどね。王宮じゃワガママし放題で、王宮の者たちは皆、手を焼いてるのさ」


 そういえば以前、お兄様もそんなことを言っていたような……。


 それからレジナルド様から笑みが消え、放たれた言葉に、私は思わずドキッとする。


「でも、それくらいは許されるべきだ。王宮に閉じ込め、彼女から自由を奪ったのは、俺たち・・・のせいだから」

「レジナルド様……?」


 どういう意味なのだろう。確かに聖女様ほどのご身分となると、王宮から気軽に出ることはできないだろうし、制約は多いはずだ。けれど、それがレジナルド様たちのせい、とは……?


 彼の言葉の真意をはかりかねていると、レジナルド様はいつもの軽い調子で笑った。


「……と、すまない。こんな話、君を困らせるだけだったな」

「いえ……」


 いつもの私だったら、他人の深い事情に首を突っ込んではいけないと、湧いた疑問に蓋をしていただろう。


 けれど、この時の私はどうかしていたのかもしれない。


 聖女様が時折、どこか寂しそうに、そして懐かしむように、遠くを見ていること。

 料理なんてすることのない身分の方が、やけにクッキー作りに手慣れていること。

 そして、貴族社会で上手に生きるために用いられる仮面はどこにも見当たらない、率直な物言い。


 それらが、私にひとつの可能性を示してくる。


 私は思いもよらず、レジナルド様に尋ねていた。


「レジナルド様、もしかして聖女様は────」



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