1-1 導かれた先に
真っ青な空に、時折ふわりとそよぐ風が、肌に心地いい。
こんな日なら、どんな引きこもりだって太陽の下に出たくなるものだ。
大好きなジャムの材料が足元にわんさかと転がっているのなら、なおさらに。
「ふー、結構収穫できたわね」
夢中になって木苺の実を摘んでいたら、持ってきた籠はもうすでに山盛りになっていた。
……もう一つ、籠を持ってくるべきだったか。
そんなことを考えながら立ち上がって体を伸ばしていると、隣で寝ていた愛犬のテオが顔を上げた。まだ摘む気か、とでも言うように。
「はいはい、分かってますよ。たくさん作っても食べるのは私一人だものね」
その時、テオの足元に可愛らしい花が咲いているのにふと気付いた。今日の空みたいな、スカイブルーの小さい花だ。
「……栞にしたら可愛いかな」
そうと決まれば、少し摘ませてもらおう。本を開く度にこの可愛らしい花が目に入るのを想像するだけでワクワクする。
その時、テオがとすとすと歩いていった。木苺の次は花か、とついに愛想をつかされたか。
でも、テオが向かうのは家の方ではない。家とは反対方向の、森の方だ。しかも、いつの間にかかなり離れた所まで行ってしまっている。
「テオ、あまりそっちへ行っちゃダメよ」
でも、テオはこちらを振り返らずに、どんどん森の中へと突き進んでいく。
いつもは(それなりに)従順で賢い子なのに。花を摘むのを止めて、慌ててテオを追いかけた。
この辺りは、我が国の辺境地だ。森の奥を抜けると、未開の地が広がっているそうだ。
そして、そこに立ち入るのは禁じられている。
「テオ、どうしたの。ダメだってば」
このままでは森を抜けてしまう――。
焦りを覚えながら、テオに声を掛けたその瞬間、焦げ臭さが鼻に付く。
突然、テオが脚を止め、地面に横たわるものに鼻を向けた。
彼の鼻先には、未開の地の住人が倒れ込んでいた。
私たち人間が関わってはいけないとされている、魔族────獣人が。