水源探索
「ふわぁ〜〜。スザクさん、おはようございまぁ〜す」
ワイルドボアを食した翌朝。
俺の真横で眠っていたシンシアさんが目覚めていた。
「お、おはようシンシアさん。昨日はよく眠れて…………!?」
彼女の方を向くと気持ちよさそうに伸びをしていた。
朝陽を受ける白い肌がいやに眩しく感じられると同時、か細い体のラインが伸びをすることでより際立っておりめちゃくちゃ扇情的だった。
「こ、こほん……。シンシアさん、昨日はよく眠れた?」
「はい。この寝床のおかげでぐっすりでした。久々によく眠れたので、心も体もスッキリですよ♪」
シンシアさんは身振り手振りで感情を表現する人だ。
おかげでその度に、天界を追放される原因になった自慢の胸が上下左右に暴れ回る。
「そ、そっか……それはよかった」
「スザクさんはよく眠れましたか?」
「え、俺? あー……あはは、まあよく眠れた方かな」
「そうでしたか。わたしって昔から寝相が悪い方なので心配だったんですけど、そういうことならよかったです」
シンシアさんが度々色っぽい吐息を吐きながら、俺を抱き枕代わりにしてくるからあまり眠れなかったなんて言えないよなぁ……。
まあ、なんていうか、とても柔らかかったです。
ありがとうございました。
勇者の冷蔵庫内に食材が少し残っていたことを思い出したので、朝ごはんをそれらとワイルドボアの肉を使ったもので済ませた。
「シンシアさん、今日は水源探索を行おうと思うよ」
「水源探索? 川を探すってことですか?」
「うん、やっぱり生活していく上で水はよく使うからね。今は偶然近くで見つけた清水まで水を汲みにいってるけど、正直少量しか湧き出ていないから往復でかなり時間をロスしてしまう。でも川を見つけられれば、運搬スキルを使ったりで一気に持って帰られるし、便利だと思うんだ」
「確かにそうですね……わたしも今は体を清潔に保つために浄化スキルを使ったりしてますけど、やっぱり沐浴をする方が気分も違うので、川を探すのは賛成です」
というわけで早速、俺たちは朝食の片付けをした後、水源探索を開始した。
森の中へ分け入っていくので、スキル『虫避け』を各々に付与する。
パーティーにいた頃は誰もこの地味なスキルを持っておらず、俺が取得した際はメンバーにバカにされたものだったが、これがなかなか旅中は役立った。
なにせ外で調理を行う際は、常に食べ物に虫がたかってくるため、料理に付与すれば衛生問題も解決される上、自分たちに付与すれば日夜問わずよくわからない害虫から身を守ることだってできるのだ。
おかげで森の中などを行く際は、勇者四人の方から虫除けスキルを求められるようになったものだけど、彼らは今大丈夫なんだろうか。
裏切られておきながらお人好しが過ぎるのかもしれないが、彼らが害虫に悩まされていないのを願うばかりである。
森を行く中、俺の後ろを歩くシンシアさんが尋ねてくる。
「でもスザクさん、この森って一度迷い混んだら帰れないって言われてる場所なんですよね? 闇雲に進むと元いた場所に戻れないんじゃないですか?」
「心配しなくて大丈夫だよ。道案内は俺に任せておいて」
俺はスキル『道中守り』を発動中であることを彼女に説明した。
どこかに出かける場合、出発地点で発動させておけばマップ上にマーカーが打たれ、旅先から迷わず戻れるというスキルだ。
実は絶望の森に送られる際、森に入る直前に発動させていたが、森に入ったと同時にマップ上からマーカーは消えていた。原因はわからないが今は普通に使えているので、とりあえず問題はなさそうだ。
「あとシンシアさん、水源についても闇雲に探してるわけじゃないから安心してよ。これを見てくれる?」
「たくさんの何かがマップ上を動いてますね……。スザクさん、これはなんですか?」
「これはスキル『採取』を発動するとマップに表示されるアイコンなんだけど、動いてるアイコンは恐らく全部生きた魔物だよ」
「あ、本当です。動いてるアイコンは『?』表示のものが多いですけど、ワイルドボアが表示されてるものもありますね。他には動いてないものだと植物のアイコンがいくつかありますね」
俺は昨日このスキルを使って効率よく食材を集めて回っていた。勇者パーティーでの旅では現地で食材を調達する機会が多かったので、料理人にはかかせないスキルだった。
そしてこのスキルは料理人として重要な水を探す上でも役に立つ。
「シンシアさん、多分川なんだけど、このラインに沿ってあると思うよ」
「え、そんな表示ないですけど、どうしてわかるんでしょうか?」
「いくつかの魔物アイコンが、不思議と蛇行するようにこのあたりに並んでるよね? これは多分、水を飲みに来てるんだ。どんな生き物でも水は必要だからね」
「なるほど、スキルを上手に使えばそんなことまでわかっちゃうんですね。やっぱりスザクさんはすごいですよ♪」
にぱっと明るい女神スマイル。
水源を見つけるだけでこんなに素敵な笑顔で褒めてもらえるとか。
ほんとすごく優しい世界というか、勇者四人とは大違いである。
「最短で進んで300メートルってところかな」
「けっこう近いですね。これなら、野営地から往復してもそんなにかかりそうになくてよかったです」
◇ ◇
「ありましたー!」
シンシアさんが両手を広げて感動していた。
森を抜けた場所には俺の予想通り川が流れていた。
幅十メートルに満たない川で浅いように見えるが水を確保するには申し分ない。
「スザクさん、しかもあれを見てくださいよ!」
「あれは……滝か……。へぇ、高さも水量もそんなにないし、人が水浴びするには丁度よさそうだなぁ」
川の少し上流には、小さな滝があった。
陽当たりもいいので、あそこで水浴びをすれば髪や体の乾きもよさそうである。
「スザクさんもそう思いますよね! だったら話が早いです。わたし、ちょっと歩いて汗ばんじゃったので、少し水浴びしてきちゃってもいいでしょうか?」
「え、水浴びを?」
「はい、よかったらスザクさんも一緒に入りましょう!」
とびきりの美女からまさかのお誘いを受け、俺は固まっていた。
蒸し暑い中、シンシアさんのふくよかすぎる双丘を伝い、玉の汗が深い渓谷へと消え去っていく。
水汲みのことなど、一瞬でどこかへ飛んでしまっていた。
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