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サバイバルスキル


「ここを今晩のキャンプ地とします!」


「はい、スザク隊長!」




絶望の森で一夜明かす上で、まず俺が行ったのは野営地の宣言だった。


シンシアさんもわくわくするのかノリノリである。




野営地といっても、選んだ場所は俺が罪人として放置された開けた場所だ。


もっと適した場所があるのかもしれないが、もう日が暮れ始めていて時間もないためひとまずここにした。



「じゃあシンシアさん、まずは寝所を作っていくよ」


「はい! 睡眠は生きていく上で大事ですもんね。食事の次にですけど」


「あはは……シンシアさんらしいなぁ」


「ふふ。でもすごいです、スザクさんって。お料理だけじゃなくて物作りもいけちゃうなんてっ」



誤解があるかもしれないので一応伝えておくことにする。



「あー、シンシアさん。俺が今から作るのは二人くらいが問題なく寝れて、雨風が多少凌げる程度の簡易な小屋って感じかな。だからあまり期待しない方がいいかも」


「それでも十分すごいですよ! わたし、スザクさんと出会う前は魔物を恐れて木の上で寝ていましたから、ちゃんと横になれるならそれだけでメチャクチャありがたいです!」


シンシアさんが両拳を振って力説するので、薄い布だけで支えられる膨らみがぼよんっと揺れる。


俺は目を逸らしつつ、



「よ、よかった。シンシアさんが贅沢を望む人じゃなくて」


「はい、こういう環境ですし高望みはしません♪ 最低限でがんばっていきましょう!」



なんか唐突に勇者パーティーでの扱いを思い出して泣けてきたなぁ。


勇者五人での旅は野宿することも多かったし、俺はその都度四人の寝床をこしらえたりと身の回りの世話をすることが多かった。でもあのメンバーは要望が多くて(特に女性勇者)、時には無理難題をふっかけられたりもした。


そのことを思い出すと、こうやって優しい言葉をかけてくれるシンシアさんが本当に女神に思える。

まぁ彼女、本物の女神はわけだけど。


……これからの生活、俺はシンシアさんのこの明るい笑顔に何度も救われるんだろうな。



「ところでスザクさん、今からわたしは何を手伝ったらいいでしょうか?」


「そうだ、ゆっくりしてる暇はないんだった。シンシアさん、早速始めよう!」



その後、俺はシンシアさんと一緒にその辺の林に入って腕くらいの太さの木々を伐採して集めた。


どんどんあたりが朱色に染まっていくので、とにかく作業を急ピッチで進める。



伐採に使ったのは料理を作る際に使った即席の石包丁だ。

その辺にあった頑丈そうな石を選び、スキル『荒砥ぎ』を使って楽に作ったものだった。


もちろん、石包丁で木は伐れないのだが、俺は戦闘で役立たない料理全般で役立つスキルをたくさん持っている。


スキル『伐採』もその一つで、普段火を起こす時に使う木材を集める際に刃物に付与して使っていた。これによってどんな刃物であっても簡単に木が伐れるというわけだ。


ついでに木材を集める際に植物のツルも集めておく。



これらを野営地に持って帰り、すぐに次の作業に移る。



「シンシアさん、俺は今から穴を掘るよ」


「え、穴を? でも道具はないですよね。手で掘るのは大変じゃないですか……?」


「大丈夫。俺は一応、穴掘りスキルも持ってるから。それに道具なら既に用意してあるよ」


俺は石包丁を作った時よりも大きい岩を見つけてきており、既にスキル『荒砥ぎ』によってスコップのような形に整えていた。


「わぁ、準備がいいんですね♪ あとあと、穴も上手に掘れちゃうなんて、やっぱりスザクさんはすごいですよ!」


「うーん、すごく答えにくいんだけど、とりあえずすごくはないかな……あ、あはは」


勇者パーティーにいた頃、野営の際は男女別の簡易ぽっとん便所を作るのも俺の仕事だったんだよなぁ。

そのために取得したスキルだなんてこの流れじゃ言えない……。


一瞬遠い目になったけど、俺はすぐに我に返って作業を再開した。




スキルのおかげですぐに穴は完成し、そこに二人で木を縦向きにはめ込んでいく。


建物の側面、床下、屋根と、順に必要な木材を組んでツルで固定し、最後は屋根に木材の皮を削ったものを大量に乗せて雨水が染み込まないようにした。


ちなみに、木材の皮はスキル『うろこ削り』で用意した。

魔物を食料とする際、その硬い皮を削る目的で使っていたスキルである。



「よし、できた!」


「わぁ〜! すごいです、なんとか日没までに完成しましたね!」


ちょうど夕陽が沈むタイミングでの完成だった。


目の前には三角屋根の小屋ができあがっていた。


「シンシアさんも汗だくになりながら手伝ってくれてありがとう。……うん、それにしても、今までの中で一番良い出来かも」


「あ、やっぱりこれが初めてじゃないんですね。どうりで手際がいいわけです」


また褒めてもらえた。


いちいち沁みるなぁ。

パーティーにいた頃は何かやっても小言を言われるだけだったもんなぁ。



「スザクさん、疲れましたよね? じゃあ休んでてください。もう日が暮れますし、他に急いでやることがあるなら、わたしやりますよ♪」


「協力的だぁ〜……」


「え、スザクさん? もしかして泣いてます?」


「あ、なんでもないよ。ちょっと感動してただけというか。それより、そうだなぁ……ひとまず寝床は完成したし、あとは完全に暗くなる前に食料の確保かな」


「ハッ!? わたしとしたことが、一番大事なことがまだでした!」




というわけで食料の確保なわけだが、ちょっと困った。




この近辺に群生していた食材は、シンシアさんの大量の食事を出すためにあらかた採りきってしまっている。


小動物の肉くらいなら戦闘に不向きな俺でもスキル『小物狩り』を使えば狩ることが可能だけど、シンシアさんの食欲を考えれば一匹二匹では足りる気がしない。



うーん、どうしよう……。



少し遠出して時間をかければそれなりに食材は確保できるだろうけど。


もう日没だし、この森でそれは自殺行為だよなぁ。



あーでもないこーでもないと悩んでいる時だった。



「スザクさん、後ろ! 何かがこっちに近づいてきます!」


「え?」


俺は振り返り、耳を澄ます。


地鳴りのような音が響き、何かがこちらに接近する気配を感じた。


それは大地を揺らし、木々を押し倒しながら一気に姿を現した。


「ブモオオオオオオッ!」


「うわ!? い、イノシシ!?」


凶悪な牙を兼ね備えた黒い巨体は、まさに現実世界でいうところのイノシシの姿をしていた。


俺たちより大きい。二メートルくらいはある。


俺は心拍数が一気に上がる中、目を眇めて敵のステータスを確認する。



ワイルドボア……。

レベル65か。


直轄領にいる魔物と変わらないレベルだ。


やっぱり噂通り、絶望の森には強い魔物がいるってわけか。


でもよかった、念のため早期にシンシアさんのレベルを底上げしておいて。


俺が彼女を振り返ると、シンシアさんは俯いていた。


「シンシアさん?」



もしかして、恐怖で体がすくんじゃってる?


もし唯一の戦力である彼女が動けないとしたら、一気に状況はやばくなる。



俺が不安を抱く中、


「スザクさん、あの魔物って食べれますか……?」


「え? それは、うん……食べれないことはないと思うけど」


「……〜〜っ」


斜め上の質問を受けて俺が面食らう中、彼女は身を震わせた後、



「わたし! がんばって大量のお肉をゲットしちゃいます♪」



目を輝かせて食に情熱を燃やす女神がいた。



この状況で恐怖より食い気が勝るとは大したものである。



ははは……何も心配する必要はなかった。



シンシアさんは既に風魔法を放つ準備ができているようだ。


その手には風の渦が生じていた。




この森で生き抜くための、初めての戦闘が始まろうとしていた。



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