強さを求める女侍
新キャラに苦戦しました。
お待たせしてすみません。
「なはははは! 蝶々だら蝶々だら〜!」
野菜や穀物が獲れるようになって1ヶ月近くが経とうとしていた。
「今日もたくさんみのってますね。栄養豊富な土と意外にも安定した気候に感謝です♪」
プラチナは子供らしく遊び、シンシアさんは畑を管理してと思い思いに過ごしている。
俺はそんな平和な様子を見守りながら考える。
「みんなのおかげで食糧事情は大幅に変わったけど、もう少し料理にバリエーションを出したいんだよなぁ」
ぱっと頭に浮かんだのは卵だ。
卵があるだけで作れるものは結構ある。
定番の卵焼き、目玉焼き、オムライス、オムレツ、親子丼。スクランブルエッグにして肉やサラダに添えてもいいし、何より彩りとしても汎用性が高くて使い勝手がいい。
まだ向こうの世界にいた頃は、よく妹に卵料理を振る舞ったっけ。
俺は自分が料理好きとなった原点の記憶を思い出しながら過去にひたる。
勇者パーティーの仲間には何を出そうが喜ばれたりはしなかったが、多分今の仲間たちなら妹のように喜んでくれるはず。
「つっても……この森には鶏のように頻繁に卵を産んでくれる生物もいないしな。……はぁ、諦めるしかないか」
卵への思いを馳せつつ、俺は現状に甘んじるしかなかった。
人は欲を抱けばきりがない。
そもそも一人では絶対に生存不可能だった絶望の森で、飢えや風雨に晒される心配もなく平和に過ごせているだけで奇跡なんだ。
高望みなんてしたらバチが当たる。
そう、だからその晩起きたことは、現状に感謝できない俺への戒めだったのかもしれない。
「ーーくるだら」
晩飯の時間、食事中のプラチナが唐突に立ち上がっていた。
帽子を脱いだ状態なので、後ろで一本に結われた銀色の三つ編みがはらりと揺れる。
今日はゴーレムにゃんたちもいないので俺たち三人だけだ。おかげで広い食卓は静かで、プラチナの鈴の鳴るような声がやけに反響した。
「……? あ、あのぅ、プラチナちゃん、来るって何がですか?」
緩んだ表情で料理を口に運ぼうとしていたシンシアさんが、いつもとは違う異様なプラチナの雰囲気を感じ取って恐る恐る尋ねる。
「プラチナ、料理にピーマンが入ってるからって誤魔化そうとしても無駄だぞ。まあ、もちろん前みたいなこともあるし、無理強いするつもりはないけーー」
「そうじゃないだら、これは敵だらよ! 強い殺気のようなものをびんびん感じるだら。この野営地の周辺にはウチが結界を何重かに張ってるんだら。いいから外に行ってみるだらよ。はやくっ!」
「お、おい!」
「プラチナちゃん!? 一人じゃ危ないですよ、待ってください!」
帽子を手に取ったプラチナが外へと向かうので、俺とシンシアさんも急いでその後を追った。
玄関から外に出ると、プラチナは俺たちの少し先で立ち止まっていた。
「やっぱり、思った通りだら……」
既に帽子を被ったプラチナが暗がりの先を見据えながら先端が青白く輝くロッドを構える。
「ん? あれって……」
シンシアさんも反応する中、俺はプラチナが警戒する方角を見て目をすがめる。
「松明か? 複数の炎が揺れてる……」
「じゃあ、人ってことでしょうか……? でもなんでこの森に……。あ、もしかして、わたしたちと同じ流されてきた人だったり?」
そうこう言ってるうちに、ソレはゆるやかに接近して野営地に足を踏み入れた。
「ご名答。あっしは王国より追放された流れものーー」
ポニーテールの女だった。
地面につきそうな長い黒髪を頭の高い位置でくくっている。声は凛としていて冷たく、心を逆撫でするような落ち着かない響きを孕んでいる。
あれって……魔法だよな?
彼女の背後には複数の真っ赤な火の玉が浮遊して揺れており、まるで光背のようだった。
背は高く、恐らく170はあるように思える。手足が長くスラッとしている。
格好はこの世界ではあまり見ないものだが、俺にとっては馴染みのある和風な衣装だ。侍が身につけるような白い小袖を着ているが胴の部分に生地はなく、そのせいで丸みを帯びた下乳がおらわになっている。下は忍者が着用するような暗い色の南蛮風ズボンを履いており動きやすそうだ。
俺は異様な雰囲気をまとう女に問う。
「お前……流れものってどんな悪事を働いたんだ? 俺たちもそれぞれに事情があってこの地に流されてきたが、全員無実で誰一人として悪事を働いたものはーーん?」
言いかけて本当にそうかと思い直す。
その最中、プラチナがロッドを片手にまくしたてる。
「そうだだら! ウチらは善人だらけど、お前は明らかに危険なオーラをまとっていて信用ならないだらよ! ここに何しにきただらか!?」
いや……よく考えたらお前はかんしゃく起こしてギルドを爆破した正真正銘の悪人だよな?
などと思いはしたものの口にはできなかった。
なぜなら、いま目の前にいる女はプラチナの言うように危険な匂いを漂わせており、隙を見せれば命取りになりかねないと本能が囁いているからだ。
知らずのうちに俺の額を汗が滴っていた。
「くくく……あっしは己が信念の名の下に、ただ強さを追い求める者なり」
目を伏せながら静かに笑う様にはどこか品を感じたが、先ほどから俺たち三人が嫌でも目にしている腰元の大刀に彼女が触れた途端、危険なオーラがさらに増す。
「東の地より旅いでて幾星霜。ツワモノを求めるあまり、時には無法も働いた。挙句多勢に無勢で捕えられ、悪名高いかの森に打ち捨てられた。されどーー」
女が切れ長の瞳で刺すようにこちらを見やり、形の良い唇をわずかにつりあげる。
「まさか、ここまできても相手に困らぬとは……。これもきっと何かの縁。もしやうぬらこそが、あっしが求めに求めた真のツワモノーー運命の相手なのやもしれぬ。もしそうだとするならば、もはやこれ以上の語らいなど我らには不要……。さぁ、さぁさぁさぁ! いざ、尋常に勝負……!!!」
ずらぁッーー
女が大刀を鞘から一気に引き抜く。
その瞬間、どこからともなく体の芯から震わせる奇声が轟いた。
『キャァァアアアアアァァアアアォアァアッッッ!!!』
自然と鳥肌を誘発する甲高い女の悲鳴。
「ぐっっ……!?」
「み、耳がぁっ……! なんですか、これ?」
「うわぁぁあうるさいだらー! 鼓膜がやぶけちゃいそうだらよ! なんだだらこれ、どこから響いてるんだら!?」
辺り一体の空気が震えるほどの悲鳴を受け、俺たち三人は両耳を塞いで苦悶しながら周囲を見渡す。
「うぬらよ、どこを見ている……?」
女はその細い腕で軽々と大刀を振り回した後、獲物を自身の肩に担いで見せた。
『喰わせろぉ……』
「…………え? す、スザクさん……あれ……」
「なっ……うそだろぉ」
「け、剣が…………剣がしゃべってるだら!」
プラチナの言う通りだった。
大刀の刀身の一部には悪魔めいた大きな口がついており、そこから奇怪な女の声を発していた。
『勝ったら喰わせろぉ……お前たちの肉を、あちきにたらふく喰わせろぉぉおおおおおぉぉぉおおおッッッ!!!」
鉄同士を極限まで擦り合わせたような金切り声。
よほど腹が減っているのか、最後は男のように野太い声だった。
女が勇ましい笑みと共に、大刀を真一文字に構える。
「あっしの名は累。先祖代々、妖刀を受け継いで育てる佐々木家のものなり」
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