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流刑地


数日して、俺が捕えられた牢の前に刑務官がやってきた。


「料理番スザク。お前は魔王側と通じ、王の命を狙おうとした。立派な国家反逆罪だ。よって、絶望の森送りとなる」


「え? 絶望の森って、そんな……待ってくれよ! 俺が王様の命を狙うだなんて何かの間違いだ!」


「往生際が悪いぞ! 王様宛に届いた手紙には、勇者様四人が署名する形で貴様の企みが記載してあったのだ」


「四人が……?」


こんな展開になるとしたら、原因は一つしかないと思ってはいたけど、やっぱりリュートが言っていた手紙がそうか。


王宛に出した手紙に本当にあいつが言うような内容が書いてあったとしたら、こんな酷い扱いはされなかったことだろう。


でもまさか、他の三人も関わっていたなんて……。


俺はようやく事態が飲み込めた。


パーティー全員に裏切られていたのだ。


すべては俺を世間的に抹殺して、自身の報酬を増やすためである。


「……我ながらとんだお人好しだ」


リュートがどんな人間かは知っていたはず。


なのに、どこかで信じている自分がいた。


一年も一緒に旅をすれば、どんな相手だったとしても多少の人情は湧くはず。だから、リュートは最後に多少俺に配慮するような手紙を王に送ったと思い切っていた。


でも信じていい人間じゃなかった。


あいつは、いや、あいつらは、勇者の皮を被った正真正銘のクズ人間だったのだ。


酷く項垂れる俺に対し、刑務官は追い打ちをかけるように、


「勇者でありながら魔族に与するなど言語道断! それに比べて他の勇者様方は実に素晴らしい働きをなさった。貴様は誰も帰った者がいない森で神に懺悔しながら死を待つがいい」


世の中というのは本当に理不尽だ。


でも今さら後悔したところであとの祭りだった。




◇ ◇




俺はその後、絶望の森と呼ばれる場所に送られた。



絶望の森は一度迷い込んだら二度と出ることが叶わないといわれる場所だ。


魔王領というのもあって余計に人々に恐れられており、俺たち五人が召喚された際、王から直々に近づかないよう忠告があったほどの危険地帯である。


しかもレベルの高い強力な魔物が多く生息しているらしく、まず迷い込んだら助からないという話だった。


つまり、そこに送られる俺は死刑も同然ということになる。


罪人を護送する側も危険が伴うため、護送車の周囲には王国精鋭の騎士団がつくという豪華仕様っぷりだった。


入ったら二度と出られない森ではあるが、なんでも昔賢者が発明したアイテムがあれば迷わず往来可能と出発前に騎士たちが話しているのを聞いたので、彼らに関しては大丈夫なんだろう。





流刑地である森についたのは真昼だった。


騎士たちは拓けた場所に俺を置くとさっさと撤退。


俺は超危険な森に一人取り残され、あとは死ぬのを待つのみだった。




「あー、ここが俺の死に場所か。ダメだ、もう何もやる気が起きない……」


大の字に寝転がり、木々に縁取られた青空を眺める。



勇者四人は嫌なやつだったけど、やっぱり俺は心のどこかで信じていたんだろう。


それだけに裏切られた反動は意外にもでかかった。



「あんなやつらでも、一年旅を共にした仲間だもんな。でもそう思ってたのは俺だけだったってわけか」


昔、小学校の友達に言われたことがあったっけ。

スザクはお人好しすぎるって。


「はぁ〜……やるせない」


見上げる空は皮肉なほどに晴れ渡っている。


そのおかげでここが絶望の森という物騒な森には思えない。



「あーあ。好きな料理に勤しんで、大切な誰かが隣で美味しいと言って微笑んでくれる……そんな平和な人生を送ってみたかったなぁ」


願いを口にしてみるも虚しいだけだった。


それよりこんな状況でも悲しいかな腹は減る。


俺はしばらくして、最後に美味いものでも食べようと力を振り絞り、今までの旅で培った食にまつわるスキルで食事の準備にかかる。




まずは探知スキルで周辺に危険がないかを確認。


次に採取スキルで香草や木の実、果物、小動物などの食べられそうなものを効率よく探す。


食器や調理器具は、食料を切る際に使う裁断スキルを駆使し、伐採した木からこしらえる。


火起こしスキルもかかせない。



最後に調味料だが、これに関しては料理人泣かせの魔法のひと振りというスキルがある。


使用者の思った通りの味付けにできるという優れもので、魔王討伐には一切役立ちはしないが、料理人なら絶対に欲しい便利スキルだった。




「う〜ん、まさかこんな森でもそれなりのものが作れるとは感動だなぁ。……でもこれ、最後の食事だよなぁ−–」



暗い気持ちを振り払い、ありがたく食べようとした時だった。


草むらからうめき声を上げて現れたものがあった。



「うう、いい匂い……お願いです。お礼は必ずしますので、どうか、どうか食べ物をめぐんでください〜……」


薄い白布をまとっただけの美しい金髪の女性。


露出の激しいその背中には白い翼が生えていた。


「え……だ、誰?」




こうして俺は出会ったんだ。


今後、自分の運命を大きく変えていく大事な人に。



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